第633話 聖属性の魔法ならば……
「いててて……ちょっと勢いをつけすぎた」
「う、ううんっ……だ、大丈夫ドリスさん?」
「ううっ……」
「し、死ぬかと思った……」
屋根の上に転がり込んだコネコは周囲を確認すると、全員を救い出した事を知って安堵する。一方で身体を強かに打ち付けたミナ達は苦痛の表情を浮かべるが、もしもコネコが救援に入らなければ今頃全員がケルベロスの餌食になっていた。
だが、危機を完全に回避したわけではなく、ケルベロスは別の建物に飛び移ったミナ達を確認すると、すぐに追撃を行おうと3つ存在する頭の内の1つを伸ばす。
『オアアッ!!』
「ぎゃあっ!?首が伸びた!?」
「逃げてっ!!」
「ひいいっ!?」
休んでいる暇もなく、伸びてきた狼の頭を見てコネコは悲鳴を上げ、ミナはドリスを抱えた状態で怯えるシデの腕を掴んで駆け出す。狼頭は大口を開いて建物の屋根を噛みつくと、そのまま抉り取る。
狼というか犬が苦手なコネコは涙目で駆け抜け、執拗に首を伸ばして迫りくる狼頭から必死に逃げ出す。どうやらケルベロスは彼女を標的と定めたらしく、次々と建物に飛び移って逃げていくコネコを狙う。
『オオオオッ……!!』
「ひいいっ!?こっちくんな馬鹿ぁっ!!」
バトルブーツを使用して風属性の魔石も利用して加速したコネコはケルベロスの周囲を逃げ回り、相手をかく乱する。コネコ本人は逃げるのに夢中で別にケルベロスを引き寄せている自覚はない。
だが、その隙にドリスとシデを抱えたミナは離れる事に成功し、一方でマドウの方もアルト共にヒリューに乗り込み、上空へと移動を行う。
「先生、奴の姿が変わりましたが……」
「うむ、理由は分からんが先ほどよりも魔力がより大きくなっている……そのせいで変化したのかもしれん。しかし、何故……」
「マドウ大魔導士!!アルト君!!」
マドウとアルトがケルベロスの様子を観察する途中、スケボに乗り込んだレナも駆けつけ、合流を果たす。レナが空を飛んでいる事にアルトは驚くが、マドウはレナがどうしてここにいるのか事情を聞くのは後にして共にケルベロスを見下ろす。
「レナよ、奴に対して普通の魔法攻撃が効きにくい事は理解しているな?」
「はい、実は何度かドリスさんとシデ君が攻撃したんですけど、全然効いてませんでした」
「うむ、だがお主の付与魔法で操作した瓦礫を受けた時、奴は確かに怯んだ。つまり、物理攻撃ならば損傷を与えられる可能性は高い。だが、先ほどのドリスの魔法でも駄目となると、生半可な攻撃は通じんだろう」
「ではどうすれば……」
「……あの、もしかしてですけど聖属性の魔法なら効果があるかもしれません」
「何?」
攻撃魔法が通じないケルベロスに対して有効手段が物理攻撃しか今のところはないと考えていたマドウだが、レナはそんな彼にある可能性を告げる。最もその可能性を見出したのはレナではなく、現在は安全な場所に避難させているブランからの助言だった。
『いいか……奴の身体に取り巻いているのは闇属性の魔力だ。俺も闇属性の魔法を使えるから分かる。もしも闇属性の魔力であの化物が操られているとしたら……聖属性の魔法なら通じるはずだ』
一度は気絶したブランだったが、彼を安全な場所に避難させるときに目を覚まし、彼はレナ達に助言を行う。その後はすぐにまた意識を失ったが、ブランの言葉を思い出したレナはマドウに告げる。
レナの話を聞いてマドウは意表を突かれた表情を浮かべ、確かにこれほどの禍々しい魔力の正体が闇属性の魔力ならば納得できる。そして闇属性に相反する力を持つ聖属性の魔法ならば十分に通じる可能性はあった。
(確かに聖属性の魔法ならば……だが、この場に聖属性の魔法を扱える人間はおらん。聖属性の魔法の使い手と言えば治癒魔導士か修道女だが……あれほどの怪物に聖属性の魔法を施せる魔術師はおらんぞ……!!)
聖属性の魔法ならば通じる可能性は非常に高いが、その肝心の聖属性の魔法を扱える人間がいない。大魔導士と呼ばれているマドウも聖属性の魔法だけは不得手としており、そもそも聖属性の魔法の中に攻撃機能を持つ魔法は存在しない。
聖属性は基本的に回復特化・支援強化・浄化に優れた魔法のため、攻撃能力は持たない。修道女の称号を持つ人間ならばアンデッドなどの死霊系の魔物を浄化する魔法を扱えるだろうが、この王都に存在する修道女の称号を持つ人間をかき集めたところでケルベロスに対抗できるとは思えなかった。
唯一心当たりがあるとすればサブの弟子の「ヒリン」ならばケルベロスに対抗できるだけの魔法は扱えたかもしれないが、今現在の彼女は気絶した状態で拘束されており、そもそも彼女一人だけでどうにかなる相手ではない。仮に王都中に存在する治癒魔導士・修道女を全員集めればどうにか出来るかもしれないが、生憎と今の状況下で早急に治癒魔導士や修道女を集める手段はない。
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