第631話 オルトロスVS付与魔術師

(あれは……マドウ大魔導士!?それにアルト君も……どうしてここに?)



レナは遠目でマドウとアルトの姿を確認して驚いた表情を浮かべるが、すぐに意識をオルトロスに集中させ、攻撃の準備を行う。今は二人と合流する暇はなく、何としてもオルトロスの進行を食い止める事を最優先した。



地属性エンチャント!!」



自分の何倍もの大きさを誇る瓦礫に向けてレナは掌を触れると、付与魔法を発動させ、重力を利用して浮上させる。そして数十メートル先のオルトロスに向けて瓦礫を放つ。


重力を利用して加速した瓦礫は凄まじい速度でオルトロスへと向かい、その巨体に衝突した瞬間に砕け散る。マドウの砲撃魔法を受けた時でさえも損傷を受けなかったオルトロスだが、瓦礫が衝突し箇所は全身を覆いこむ魔力が揺らぎ、悲鳴らしき声を上げた。



『オアアアッ……!?』

「これは……!?」

「き、効いている!?レナ君の魔法が……」



マドウの攻撃魔法ならばともかく、レナの付与魔法を利用して衝突させた瓦礫の方が明らかにオルトロスに影響を及ぼしている事にアルトは驚く。一方でマドウの方もオルトロスの変化に気づき、ここで彼はある推論を立てる。



(そうか……奴の全身を覆いこんでいるのは魔力の塊、いってみれば「魔力の鎧」か!!)



オルトロスの全身を覆いこむ禍々しい魔力は先ほどのマドウ自身が「実体化」している事を見抜き、どのような原理なのかは不明だがオルトロスを覆いこむ魔力は鎧のような役割を持つ事を見抜く。


恐らくは闇属性の魔力で構成された鎧はマドウの攻撃魔法を受け付けない程の高い魔法耐性を持つ一方、実体化しているので物理攻撃にも使用できる。しかし、魔法耐性はともかく、物理防御に関しては意外と弱いのか、レナが付与魔法で操った瓦礫を受けるだけでオルトロスは怯んでしまう。



「これならどうだ!!」



レナは次々とオルトロスが移動の際に破壊した建物の瓦礫を利用し、付与魔法を施して放つ。中にはレナの身体の何倍も存在する瓦礫も混じっていたが、重力を操作するレナの付与魔法ならば重量など関係なく操る事が出来た。



『オアアアアッ!!』



次々と放たれる瓦礫に大してオルトロスも流石に危機感を抱いたのか二つの頭を動かし、前脚を利用して破壊を試みる。その光景を見たマドウはレナを援護するため、魔法の準備を行う。



(奴の弱点が物理攻撃ならば……氷系統の魔法ならば効くかもしれん!!)



マドウは杖を上空に掲げると、魔法陣を誕生させて巨大な氷塊を生み出す。水属性の砲撃魔法の一種であり、名前は「アイスブロック」と呼ばれ、人間でこの魔法を使える物は非常に少ない。


ドリスが生み出す初級魔法の「氷塊」と酷似しているが、マドウの生み出す氷塊は彼が想像した通りの形をした氷を生み出せる



「これならばどうだ!!」



巨大なトライデントの形をした氷塊を作り出したマドウはオルトロスへ目掛けて放たれ、レナが送り込んだ瓦礫と共に氷で形成された三又の槍がオルトロスへと迫る。


瓦礫を潜り抜けて接近してきた氷の槍は見事にオルトロスの意表を突いたのか、二つ存在する狼の頭の一つを貫き、頭を引き裂く。その様子を見たアルトは歓声を上げた。



「やった!?」

「……いや、失敗じゃ」

『オオオオッ……!!』



しかし、頭を槍で引き裂かれてもオルトロスは怯む様子もなく、それどころか破壊されたはずの頭は即座に再生してしまう。その様子を見てマドウは悔し気な表情を浮かべた。


そもそもオルトロスが更生する二つの狼の頭は元々は存在せず、あくまでも頭部に見える部分は魔力で構成した狼の形をした魔力の塊にしか過ぎない。


だからこそ攻撃を行うとすれば魔力で包み隠された胴体の部分しかなく、最初からその事はレナも理解していたので先ほどから瓦礫はオルトロスの胴体部分のみを狙って放っていた。マドウは自分の行動の愚かさに気づき、更に無駄に魔力を消耗してしまう



(いかん、焦るな……教え子が頑張っているというのに儂が取り乱してどうする。ここは奴を足止めし、援軍が到着するのを待つ。それが最善策じゃ)



魔力をこれ以上に無駄に消耗するのを避けるため、マドウはオルトロスの攻撃に関してはレナに任せ、彼は補助に徹する事にした。ここまでの戦闘でマドウも魔力を大幅に消耗しているため、これ以上に不要な攻撃を行って魔力を失うわけには行かない。




――残念な事にマドウは「魔力回復薬」の類の薬品を使用してもあまり効果はなく、彼の膨大な魔力までのは薬品では完全には回復するのに時間が掛かりすぎてしまう。しかも年齢を重ねるごとに自然に魔力が回復する肉体の機能も衰え始め、マドウが魔力を使い切れば回復するのに時間が掛かりすぎてしまう。




魔法学園の学園長を務めながらマドウが直接授業に関与して魔法を使う機会がないのはこれが原因であり、彼は不用意に魔法を使って魔力を消耗する事自体を避けていた。


これ以上に魔力を使用すれば最上級魔法の使用すらも怪しくなるため、マドウはこの場はレナに任せるしかなかった。だが、ここでマドウはある疑問を抱き、彼以外にも何処からか魔力の反応を感じ取り、自分達以外にも近くに魔術師が存在する事に気づく。

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