第630話 大魔導士の実力
「行くぞ……サンダーカノン!!」
「くぅっ!?」
「シャアアッ!!」
マドウが杖を構えた瞬間、直径で5メートル近くの大きさの魔法陣が出現し、巨大な雷撃を放つ。マドウが発動させたのは雷属性の「上級」に位置する砲撃魔法であり、その速度は本物の雷に匹敵する。
雷撃はオルトロスの顔面に向けて放たれ、オルトロスは躱す事も防ぐ事も出来ずに直撃を受けた。オルトロスに変化する前の状態の黒兜ならばこの一撃で死んでいてもおかしくはない威力だった。
『オァアアアッ……!!』
「なっ……生きている!?先生の魔法を喰らって!?」
「ぬうっ……やはり、この程度では駄目か」
しかし、雷撃を受けたオルトロスは巨体が揺らいだ程度で致命傷を受けた様子はなく、倒れる様子はない。その姿を見てアルトは動揺を隠せず、仮に相手がゴブリキング程度の魔物ならば今の一撃で確実に死亡していたはずである。
マドウは額に汗を流し、大魔導士である流石の彼も上級魔法を使用する際は魔力を大幅に消耗してしまう。一方でオルトロスの方は魔法を受けた直後は動作が鈍ったが、動きが遅くなったもの僅か数秒程度で遂に本格的に動き出す。
『オオオオオッ!!』
「先生、動き出しました!!」
「分かっておる!!奴の後方へ移動せよ!!」
「シャアッ!!」
アルトはマドウの言葉に従ってヒリューを操作すると、オルトロスのの背後へと接近する。だが、やはりある程度の距離まで近寄るとヒリューは近づこうとはせず、何かを恐れるように距離を保つ。
「シャアアッ……」
「どうしたんだ!?早く近づくんだ!!」
「アルトよ、無理をさせるな。どうやらこの飛竜は奴の禍々しい魔力を恐れておる……儂自信も正直に言えば逃げ出したいほどじゃ」
近付こうとしないヒリューをアルトは叱りつけるが、マドウの方もオルトロスに接近した際に異常なまでに禍々しい魔力を肌で感じ取り、頭を抑える。近づけば近づくほどに何故か力が失われる感覚に襲われる。
マドウの予想ではオルトロスに近付こうとすればオルトロスが放つ禍々しい魔力の影響を受け、体力と魔力が奪われるのだろう。先ほどのマドウが攻撃を仕掛けた際も彼の魔法がオルトロスを倒せなかったのも何か関係しているかもしれず、マドウは攻撃方法を切り替えた。
「アルトよ、地上に降りるのだ。奴の動向を探りたい」
「はい!!」
命令を受けたアルトは即座にヒリューを下降させると、マドウを地上へと降ろす。マドウは杖を構えると地面に向けて勢いよく突き刺し、地属性の広域魔法を発動させる。
「アースフィールド!!」
『オオオオッ……!?』
地面にマドウの魔力が伝わった瞬間、まるでレナの付与魔法の如く地面が盛り上がり、オルトロスの前に10メートル程の巨大な土壁が誕生した。進行方向の先に出現した土壁に対してオルトロスは進路を阻まれてしまう。
突如として目の前に現れた土壁に対してオルトロスは二つの頭を振りかざし、そのまま本物の狼のように噛み砕く。その光景を見たマドウはオルトロスの二つの頭部が実体を持っている事に気づき、考察した。
(奴を覆いこむ黒色の魔力はやはり実体化しているか。それにこの進行方向の先は……そういう事か、奴の狙いは王城!!)
オルトロスの進行方向の先には王城が存在し、そこには病に侵された国王が眠っている。意識不明の重体のため、国王は王城から移動する事は出来ず、しかも現在の王城には昆虫種の被害を逃れるために大勢の民衆が避難している。
もしもオルトロスが王城へ到達すれば恐ろしい事態へと陥り、何としてもそれを阻止しなければならない。しかし、マドウはここまでの道中で昆虫種を駆逐するために魔力を消耗していた。
(恐らく、奴を倒すには儂も最上級魔法を発動しなければならん。だが、それを使えば儂はしばらくの間は動けなくなってしまう……それが敵の狙いだとしたらもうどうしようもできん)
上級魔法ですらも大した損傷を与えられないオルトロスを倒すにはマドウも最大最強の魔法で対抗するしかない。しかし、彼に最上級魔法を発動すればオルトロスだけではなく、周囲にも大きな被害が生まれてしまう。
この工場区の住民の避難は終わっているので人的被害が生まれる可能性は低いが、ここでマドウに魔力を消耗させるのが「敵」の狙いならばと考えたマドウは躊躇してしまう。だが、もしもオルトロスを止めなければ王城に存在する人間達が危ない。
(ここまでか……!!)
被害を最小限に抑えるため、マドウは覚悟を決めて最上級魔法を発動させる準備を行う。だが、彼が動く前にオルトロスの元に建物の瓦礫が放たれ、二つの内の頭の一つに衝突した。
『オアアッ……!?』
予想外の衝撃を受けたオルトロスの頭部の一つが潰れてしまい、残された頭部は後方を振り返ると、数十メートル程離れた場所に存在する街道にレナが立っていた。その姿を見て驚いたのはマドウも同様であり、彼の傍にはオルトロスが破壊した建物の瓦礫が無数に並んでいた。
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