第626話 ルイの支援魔法

(まだルイさんの魔法の効果が残っている内に……仕留める!!)



魔石を破壊したレナの闘拳に雷属性の魔力が迸ると、渾身の一撃を食らわせるためにレイナはスケボから飛び降りると、拳を繰り出す。


全身に金属を想像させる鎧のような甲殻を身に付けていると思われる黒兜だが、実際の所は普通のカブトムシのように裏返してしまえば柔らかな部分も露になる。その箇所を狙い、レナは闘拳を叩き込む。



魔法拳ブレイク!!」

「ッ――!?」



黒兜の腹部に闘拳が衝突した瞬間、全身に衝撃波と電流が同時に流れ込み、黒兜は声にもならない悲鳴を放つ。いくら巨体と言えど、急所に強烈な一撃を撃ち込まれれば無事では済まず、しかも電流が流れた事で一時的な麻痺状態へと追い込まれる。


それでも絶命には至らず、レナは闘拳を引き抜くと今度は両手を重ね合わせて留めの一撃を繰り出すために闘拳と籠手に付与させた魔力を解放した。



衝撃解放インパクト!!」

「フガァアアアアッ……!?」



動けない状態で更なる強烈な衝撃波を受けた黒兜は内側から肉体を破壊され、遂には力を失ったように動かなくなった。その様子を確認したレナは両手を離すと全身から汗を流しながらもスケボにしがみつき、黒兜から離れる。


その様子を観察していたミナ達は驚き、あれほど自分達を追い詰めた黒兜を倒したレナを見て戸惑う。確かにレナの強さは知っているが、恐らくはゴブリンキングよりも手ごわい相手をたった一人で倒した事に動揺を隠せない。



「す、凄い……レナ君、こんなに強かったの?」

「あの化物を一人で倒した……やっぱり、兄ちゃんはすげぇっ!!」

「信じられませんわ……」

「…………」



ミナ達はレナの強さに圧倒され、シデに至っては大口を開いた状態で何も言えず、唖然とするしかなかった。そんな4人の元にレナはスケボに乗って降りると、全身から汗を流しながらも皆と合流を果たす。



「皆、無事で良かった……うっ」

「兄ちゃん!?どうしたんだ?疲れてるのか?」

「いや、ちょっと無理をしすぎちゃって……」

「仕方ありませんわ、あれほどの敵を倒す程の魔力を消耗したんですもの……ですけど、よくこれほどの怪物を倒せましたわね」

「レナ君、格好良かったよ!!」

「……化物か、お前」



倒れそうになったレナを慌ててコネコとミナが支えると、ドリスは倒れた黒兜に視線を向けて冷や汗を流し、シデは引き気味に答える。そんなミナ達の反応にレナは苦笑いを浮かべ、首を振った。



「いや……こいつを倒す事が出来たのはルイさんのお陰だよ」

「ルイさん?ルイさんが何かしたの?」

「ここに来る前、ルイさんが俺に支援魔法を掛けてくれたんだよ。一時的に魔法力を強化させる支援魔法を受けていたから俺の付与魔法も強化されてたんだよ」

「魔法力を強化……それはもしや、支援魔術師だけが扱える補助魔法の事ですの?」

「補助魔法……?」



レナ曰く、黒兜を倒す事が出来たのはレナの力だけではなく、事前にルイが彼の身体に魔法の力を強化させる補助魔法を施したお陰だという。




――ルイは「支援魔術師」と呼ばれる希少職であり、彼女は魔術師でありながら攻撃能力を持つ魔法は一切覚えていない。砲撃魔法はもちろん、ドリスのような初級魔法やレナの付与魔法も扱えないという。




しかし、彼女の魔法の本質は「強化」であり、後方支援を主とする魔術師にとっては最も優秀な魔法を彼女は扱える。その名前は「補助魔法」と呼ばれ、彼女は一時的に身体能力、魔法力、更には治癒魔導士や修道女にしか扱えないはずの回復魔法さえも使用する事が出来た。


回復魔法に関しては修道女や治癒魔導士と比べると魔力の消耗も激しく、効果も高いとは言えない。だが、他の強化系の魔法に関しては性能が高く、彼女はこの魔法の力で攻撃能力を持つ魔法を扱えないにも関わらずに黄金級冒険者にまで上り詰めたという。



「俺がルイさんに施して貰った魔法は一時的に魔法の効果を高める魔法強化ブーストという名前の補助魔法だよ……これを受けた人間は一時的に魔法力が強化されるらしくて、お陰で普段以上の魔法の力が引き出せたんだよ」

「じゃあ、先ほどのレナさんの強烈な攻撃はルイさんの補助魔法の効果なんですの?」

「うん、ドッグの方からでもこの黒兜が暴れているのを確認できたからね。このままだと被害が大きくなると思ったから、ルイさんの頼んで俺が出向いたんだよ」

「なんて無茶な……こんな化物を一人でどうにか出来ると思ったのか?」

「反対する人もいたけど、最終的にルイさんが協力してくれたお陰でどうにかここまでこれたんだよ。それよりも……どうして君がここにいるの?」

「いや、それは……」



レナはドリス達と共にシデが行動している事に驚き、コネコが代わりに説明してくれた。

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