第625話 最高の援軍

「やったぜ……ざまあみやがれ」

「ですが……私も、もう限界ですわ」

「お、おい!!大丈夫かドリスの姉ちゃん!?」

「ブラン君もしっかりして!!」

「な、なんて奴等だ……」



ドリスとブランは同時に膝を付くと、やりきった表情を浮かべて倒れ込む。慌ててコネコとミナが二人を抱きかかえると、その様子を見ていたシデは冷や汗を流す。


先ほどの攻撃はドリスとブランが力を合わせたからこその攻撃であり、二人の初級魔術師が揃ったからこその合成魔術だった。危険度ならば間違いなくゴブリンキングを上回る黒兜をひっくり返す程の強烈な一撃であり、もしも防御にではなく攻撃として利用していれば黒兜も無事では済まなかっただろう。


しかし、強力な魔法の攻撃の代償は大きく、折角魔力を回復させたドリスも先ほどの攻撃で力を使い果たし、ブランも傷口が悪化したのか完全に気を失ってしまった。一方で黒兜の方は既に身体を起き上げようともがいており、その様子を見たコネコとミナは慌てて二人を抱えて逃げようとする。



「シデ君も手伝って!!早く逃げないと……」

「早く力を貸せよ!!このままだと死んじまうぞ!?」

「あ、ああ……くそ、何でこんな目に……」



シデはミナ達に付いてきたことを後悔し始めるが、二人に言われるがままにドリスとブランを運ぶのを手伝うと、4人はその場を離れようとした。だが、黒兜は大きく身体を揺らす事で身体を横に傾けると、体勢を元に戻す。


先ほどのブランとドリスの攻撃で角の先端部分が溶解して形が変わってしまったが、戦闘不能とまではいかず、逆に怒りを抑えきれないとばかりに身体を反転させて逃げようとする4人に咆哮を放つ。



「フガァアアアアッ!!」

「やばい!?あいつ、もう起きたぞ!?」

「走って!!」

「む、無理を言うな……こっちだって戦いっぱなしで体力なんか残ってないんだぞ!?」

「くっ……!!」



黒兜に気づかれたミナはブランを抱えるシデに走るように促すが、彼も連戦で砲撃魔法を使い続けた事で体力の限界を迎えようとしていた。ドリスを抱えるミナもここまでの道中でかなりの数の昆虫種を屠ってきたため、余分な体力は残っていない。


コネコの場合は体力はともかく、人を抱えて逃げる程の腕力はない。風属性の魔石を使用してバトルブーツを加速したとしても意味はなく、彼女には人を運ぶ事は出来ない。



「やばいやばいやばい!?あいつ、絶対にさっきの根に持ってる!!」

「わ、私の事は放っておいてください……そうすれば皆さんだけでも」

「馬鹿なことを言わないでよ!!そうだ、シデ君の魔法でどうにかならないの!?」

「それこそ無茶を言うな!!あんなデカブツ、どうにかなるわけないだろ!?」

「じゃあ、どうすんだよ!?」



話している間にも黒兜は迫り、今度こそ確実にミナ達を仕留めるために角を振り上げようとする。その光景を見てミナ達はもう駄目かと思った時、上空から近づいてくる物体を発見した。



「えっ……あれって、まさか!?」

「何だ?どうした姉ちゃん……あれは!?」

「この魔力は……!?」



ミナ、コネコ、ドリスは接近してくる飛行物体に気づくと、その正体に気づいて笑顔を浮かべる。そんな彼女達を見てシデはこの状況でどうしてそんな表情を浮かべるのか理解できず、慌てて声をかける。



「おい、何してるんだ!?早く逃げるぞ!!」

「……その必要はないかも」

「はあっ!?いったい何を言って……」

「来たんだよ……遂に来たんだ!!」

「ええ、この魔力の感じ……間違いありませんわ」



こんな状況下で笑顔を浮かべた3人にシデは怒鳴りつけるが、その間にも黒兜は状態を逸らし、今にも角を振り下ろしかねない姿勢だった。しかし、そんな黒兜の姿を見てもミナ達は動じる事はなく、何かを信じるように黒兜を見上げた。




――そして黒兜が角を振り下ろそうとした瞬間、飛行物体は黒兜の頭上に目掛けて突っ込み、闘拳を構えた少年の姿をミナ達は捉えた。その少年の正体が間違いなくレナである事を見抜くと、ミナは無意識に涙を流す。




スケボに乗り込んで黒兜に接近したレナは闘拳を構えると、既に付与魔法を発動させて「極化」の状態にまで魔力を込めた闘拳を放つ。狙いは黒兜の身体の中でも最も硬度が硬いと思われる角の根本に目掛け、紅の闘拳を振り下ろした。




「重撃ぃいいいっ!!」

「フガァアアアアッ!?」




強烈な衝撃音が響き渡り、レナが振り下ろした闘拳は黒兜の角に叩き込まれると、亀裂が走る。先のドリスとブランの攻撃を受けて既に損傷を受けていた角に更なる攻撃を加えられた黒兜は悲鳴を上げ、再び後ろ向きに倒れ込む。


攻撃を終えた後にレナは空中のスケボを引き寄せて乗り込むと、空中を旋回して今度は黒兜の腹部を確認すると、極化を解除して雷属性の魔石を手にする。


極化を解いたのは無駄に魔力の消耗を避けるためであり、魔力がまだ闘拳に残っている内に魔石を破壊して雷属性の魔力を取り込む。

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