第622話 昆虫の王
「ああ、行ってしまいましたわ……仕方ありません、私達も急ぎましょう!!」
「あたしは先に行くぞ!!あのでかい建物に行けばいいんだろ?」
「駄目だよコネコちゃん!!焦る気持ちは分かるけど、皆で行動しないと危険だよ!!」
「……おい、ちょっと待て。なんだか、揺れてないか?」
先走ろうとしたコネコをミナが引き留め、全員で行動するように注意した時、デブリが足元に異変を感じて話しかける。彼の言葉に全員が地面が僅かに揺れている事に気づき、最初は地震かと思った。
しかし、振動が徐々に強まっていく事に気づき、嫌な予感を覚えたミナ達は顔を見合わせ、すぐに警戒態勢に入ると周囲の様子を伺う。
「な、何だ……次は何が出てくるんだ?」
「まさか、また昆虫種の奴等じゃないだろうな……」
「皆さん、決して油断しないでください!!」
ドリスは慌ててイルミナから受け取った魔力回復薬を飲み込み、どうにか魔力を回復させると周囲への警戒を行う。シデも杖を構え、コネコは気配感知を発動させて自分達の周囲の気配を探る。
しばらくすると振動は更に強まり、やがてドリス達から十数メートル程離れた場所の地面が盛り上がり、地中から巨大な「角」が出現した。角と言ってもミノタウロスのような牛の角ではなかった。
「な、何だあれ……いや、あれってもしかして!?」
「えっ……ちょっと待って、僕あの角の形見た事あるんだけど……」
「まさか……カブトか!?」
「かぶと?皆さん、何かご存じですの?」
地中から出現した巨大な角を見てコネコとミナとデブリは騒ぎ出し、一方でドリスは不思議そうな表情を浮かべる。だが、角の形を見た時点で3人は敵の正体に気づき、コネコは大声を上げた。
「か、カブトムシだぁあああっ!?」
『オオオオオッ……!!』
――地中から出現したのは全長が15メートルは存在する巨大なカブトムシの姿をした昆虫種だった。外見はカブトムシその物であり、それでいながら獣のような咆哮を放つ。
目の前に現れた巨大なカブトムシ型の昆虫種に対してミナ達は圧倒される中、巨大カブトムシは地上に完全に出現を果たす。その巨体、その姿にミナ達は唖然とするが、慌ててドリスは何かを思い出したように語る。
「ま、まさか……この姿、それにこの巨体、昆虫種の王!?」
「王!?どういう意味だ!?」
「聞いた事がありますわ、昆虫種の中には圧倒的な大きさを誇り、それでいながら金属の如き固い鎧ような皮膚を持つ昆虫王がいるという噂を……その名前も黒兜!!」
「いや、どう見てもカブトムシだろあれ!?」
ドリスの発言にコネコは突っ込みを入れるが、黒兜と呼ばれる巨大なカブトムシは確かに彼女の言う通りに全体が金属の鎧のように艶めく固い甲殻に覆われていた。しかも黒兜は地上に出現すると、近くに存在した建物に視線を向け、角を突き立てて破壊を行う。
「フガァアアアッ!!」
「危ない!?」
「嘘だろ、おい!?」
「持ち上げたぁっ!?」
角を建物に突き刺した瞬間、黒兜は建物を崩壊させるのと同時に角に乗った瓦礫を遥か遠方へと投げ飛ばす。その光景を見たコネコ達は呆気に取られるが、その間にも黒兜は移動を行う。
今までの昆虫種も厄介な相手だったが、今回の黒兜の場合はゴブリンキングよりも危険な存在かもしれず、このままでは街に大きな被害を与える。だが、今回ばかりは流石にドリス達でもどうしようも出来ず、慌てて後を追う事しか出来ない。
「まずいですわ!!飛行船が管理されているドッグの方に向かっています!!このままでは危険です!!」
「ええっ!?ど、どうしよう……」
「決まってんだろ!!回り道でもしてあのデカブツよりも早くドッグへ向かうんだ!!兄ちゃんたちが襲われる前に助けないと!!」
「それならコネコさんが先に行ってください!!私達はどうにか黒兜を引き留めますわ!!」
「おい、待て!?それ、さりげなく俺も含めているのか!?」
「今更何を言ってますの!?こいつを放置したらどれだけの人間が犠牲を受けると思っていますの!!」
シデはドリスの言葉に驚愕するが、既にドリスは黒兜の注意を引くために合成魔術を発動させ、黒兜の足元に向けて放つ準備を行う。
「行きますわよ、シデさん!!」
「あ、おい!?くそっ……分かったよ!!」
「火炎槍!!」
「ファイアボール!!」
二人は同時に掌と杖を構えると、火属性の攻撃魔法を放つ。昆虫種は火を恐れる傾向があるため、足元に火炎を発火すれば流石の黒兜にも損傷を与えられるのではないかと考えた上での行動だったが、二人の攻撃魔法は見事に的中した。
黒兜の後ろ脚に的中した火炎はそのまま胴体にも伝わる寸前、黒兜は異変を察したように悲鳴を上げ、身体を激しく揺らす。その際に強烈な振動が地面に走り、ドリス達は体勢を崩す。
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