第621話 レナの元へ急げ
「おい、お前ら……俺が合図をしたら真っ直ぐに駆け抜けろ」
「はあっ!?何を言ってんだよこんな時に……」
「いいから黙って聞け!!この状況を抜け出す方法がある……!!」
「シデさん!?いったい何を……」
シデは自分が握りしめた杖に取り付けた魔石を次々と取り外し、一つだけ杖に残しておくと残りの魔石を掌に握りしめる。そして彼は覚悟を決めるように杖を掲げた。
「見せてやる、これが僕のファイアボールだ!!」
『っ……!?』
周囲を動き回る盗賊の姿を確認してシデは魔石を握りしめた掌を開くと、まずは左側に向けて2つの魔石を投擲し、杖先から火球を放つ。その結果、魔石に火球が衝突した瞬間に強烈な爆発が発生した。
動き回っていた盗賊も爆発に巻き込まれて吹き飛ばされ、近くの建物の壁へと激突してしまう。更にシデは今度は右側に存在する建物群に目掛けて残りの魔石を全て放り投げ、ファイアボールを放つ。
「今だ行け!!」
「うわっ!?」
「なんて無茶を……!?」
「いいから行けっ!!押し潰されるぞ!?」
建物の中や屋根の上に立っていた暗殺者に目掛けて放った魔石がシデのファイアボールによって爆発した瞬間、予想以上に威力が大きすぎて周囲の建物に亀裂が走り、街道へ目掛けて傾く。
慌ててコネコ達はミナを抱えて駆け出し、建物に押し潰される前に脱出を行う。大惨事を引き起こしてしまったが、そのお陰でコネコ達を狙っていた盗賊の集団を倒す事に成功したのか、追跡する様子がない。
「な、なんてことを……でも、助かりましたわ」
「建物がめちゃくちゃになったな……」
「はははっ!!やるじゃんかシデの兄ちゃん!!」
「うるさい!!くそ、とんだ大赤字だ……!!」
「でも、助かったよ……ありがとう」
「お、おう……」
シデは折角購入した魔石を殆ど使いこなした事に悪態を吐くが、ミナが礼を告げると彼は照れ臭そうに顔を逸らす。方法はともかく、盗賊の集団を撒く事に成功したコネコ達は工場区へと遂に辿り着き、レナが存在するはずの飛行船のドッグへと向かう。
工場区の方では住民の姿は殆どなく、どうやら既に避難を終えたのか、あるいは建物に閉じこもっているのかは分からないが街道は空いていた。あと少しでレナの元へたどり着けると思われた時、上空に影が差す。
「ヒヒィンッ!?」
「うわ、何だ!?馬の鳴き声!?」
「この声は……イルミナさん!?」
「皆さん、ご無事でしたか!!」
上空を見上げると、そこにはイルミナの姿が存在し、彼女は天馬を地上へと着地させると、そのままコネコ達と並行する。この状況で彼女と合流出来た事は喜ばしく、ドリスはすぐに事情を説明しようとした。
「イルミナさん!!大変ですの、この事態を引き起こしたのは……」
「落ち着いてください!!大丈夫です、その辺の事情は私も知っています!!この騒動を引き起こしているのが盗賊ギルドだけではなく、サブ魔導士も関わっている事も知っています!!」
「本当か!?じゃあ、火竜の奴が王都に近付いている事も知ってるのか!?」
「火竜が……!?それは本当ですか!?」
イルミナは女帝から情報を聞きだしてきたのか、今回の騒動の黒幕が盗賊ギルドである事とサブがそれに協力している事は知っていた。しかし、火竜が王都へ接近しているという話は初耳だったらしく、彼女は何処でその情報を知ったのかを問う。
移動の最中でイルミナはドリスから話を伺い、サブの弟子であるシデからも直接話を伺って火竜が接近している事が可能性が高い事を知る。彼女は難しい表情を浮かべ、この事態を一刻も早く他の人間に説明する必要があると判断し、シデに天馬に乗るように促す。
「そういう事でしたか……!!事情は分かりました、ならば私は大魔導士に連絡を行います!!」
イルミナは最後にコネコ達に視線を向け、その中でも特に疲労しているドリスに気づいて彼女は魔力回復薬を渡す。
「ドリスさん、これを飲んでください。私が調合した魔力回復薬です、市販の物よりは回復効果も高いはずです」
「え?で、ですが……」
「大丈夫です、緊急時に備えて余分に持っていますので……それとこちらはレナ君の分です。彼が無事なら渡しておいてください」
「は、はい!!必ず渡しますわ!!」
ドリスはイルミナから魔力回復薬を受け取ると、急いで飲み込む。これでしばらくすれば魔力が幾分かは回復するはずであり、イルミナは工場区の事は彼女達に任せて天馬を飛翔させる。
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