第619話 残された猶予は……
「それより皆さんはどうしてここに?いえ、それよりもナオは無事ですの!?」
「安心しな、あの3人の森人族の姉さんたちに見せたらすぐに治してくれたよ」
「良かった……」
親友のナオが助かったと聞いてドリスは安堵したが、そんな彼女にミナは言いにくそうに答えた。ナオの解毒には成功したが、今現在の彼女は動ける状態ではない事を告げる。
「でも、毒を除去する事は出来たんだけど……ナオ君は治療を終えた後に気絶してしばらくは安静にしていないと駄目なんだって」
「そうなんですか……ですが、流石は森人族ですわね。ドクハチの毒を解毒薬も持っていたなんて……」
「う、うん……そうだね、治療法は凄かったけど」
「あたし、あれを見て変な気分になっちまったよ」
「……え、ちょっと待ってください。何を見たんですの二人とも?」
ナオの治療に立ち合ったミナとコネコは若干頬を赤らめ、身体をもじもじとさせる。その二人の様子を見て自分の親友がどのような治療を受けたのかとドリスは戸惑うが、一方でデブリの方はシデと向き合い、訝し気な表情を浮かべる。
この二人は初対面のはずだが、シデが自分の事をじっと見つめてくるデブリを気味悪がり、何か用があるのかと問い質す。
「な、何だ?じっと見て……」
「お前、何処かで見覚えがあるような……あっ!?思い出した!!ゴマンの奴と顔が似てる!!」
「はあっ!?」
「あ、そういえばシデさんはうちの生徒のゴマンさんの親戚だそうですわ」
「ん?ああ、あんちゃんが対抗戦で戦ったお漏らし野郎か!!」
「お漏らし!?」
デブリはシデの顔を見て自分と因縁があった「ゴマン」という名前の生徒を思い出す。彼はゴマン伯爵家の親戚に当たり、正確に言えばゴマンの弟の息子なのでシデとは従弟関係にある。
弟の方は早いうちから家を出てしまって現在は家族と共に暮らしているが、息子のゴマンの方は伯爵にも可愛がられていた。シデとも当然だが顔見知りだが、あまり仲は良くなかったらしい。
「そうそう、思い出したぞ!!結局、あいつは学校を辞めてから姿を見かけなくなったけど、僕はまだ納得していないからな!!あいつだけはこの手でぶちのめしてやる!!何処にいるのか知っていたら教えてくれよ!?」
「し、知るか!!あんな馬鹿、知らねえよ!!うちにくるときだって毎回金に困った時だけだったし……というか、あいつ魔法学園に通っていたんじゃないのか!?」
「ゴマンさんは魔法学園で行われた対抗戦という行事で不正を働き、紆余曲折あって退学となりましたわ。知らなったんですの?」
「何だと?聞いてないぞそんな事……」
「皆、そんな事を話している場合じゃないよ!!早くレナ君の所へ向かおうよ!!」
会話の途中でミナは思い出したように口を挟み、工場区に存在するはずのレナの元に向かう事を告げる。ここでドリスはどうして3人がクランハウスを離れて工場区へ向かおうとしているのかを尋ねた。
「そういえば皆さんはどうしてここに?クランハウスの守備を任せられていたのでは……」
「住民の避難も済んだし、カツのおっさんが戻ってきてくれたから、後の事はおっさんに任せてあたし達は兄ちゃんの元へ向かってたんだ!!」
「移動の途中、昆虫種の群れがこっちの方角へ進んでいるのを見て何かあったのかと様子を調べに来たら、お前らを発見したんだよ。そういうドリスこそ、冒険者ギルドに向かったんじゃないのか?」
「そういう事でしたの……分かりました。では移動する間に私が知った事を教えますわ」
工場区へ向けて全員が移動を行い、その途中でドリスは自分が得た情報を他の人間にも話す。冒険者ギルドの報告はチョウへ任せた事、シデから教わったサブ魔導士の計画、そして火竜がこの王都へ向けて接近しているという話を聞かされてミナ達は驚きを隠せない。
シノが七影のジャックを追い詰めたが、その彼が何者かに連れ去られてしまい、彼女だけが追跡に向かった事、そしてカインとマドウが動き出し、街中に現れた昆虫種の掃討を行っている所まで話すと全員の顔色が変わる。
「……という事ですわ。ここまでが現時点で私が知っている情報の全てです」
「と、盗賊ギルドが動き出した?それにサブ魔導士が裏切ったなんて……それに火竜が王都にやってくる!?いったいどんな冗談だ!!」
「落ち着いてください!!取り乱したところで状況は変わりませんわ!!」
「で、でも……どうすればいいの!?盗賊ギルドだけでも手一杯なのに、火竜まで王都へ来たら大変な事になっちゃうよ!?」
「だからって騒いでもどうしようもないだろうが!!いいか、まずはサブの奴を捕まえるんだ!!奴を捕まえて他に隠している情報を聞きだす!!それしかないんだ!!」
「お、おう……でも、いいのか?シデの兄ちゃんはそれで……」
「……あいつは僕の親の仇だ、絶対に許さない!!」
コネコは少し遠慮しがちにシデに尋ねるが、既にシデも覚悟を決めているらしく、刺し違えてでもサブを仕留めるつもりだった。だが、当のサブは既に工場区にて捕縛されている事を彼は知らない。
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