第618話 大将軍と大魔導士
「な、何だ!?地震か!?」
「こんな時に……」
「……いえ、違いますわ!!この反応は!?」
地面に強い振動が走り、最初は地震が起きたのかと思われたが、すぐにドリスは「魔力感知」を発動させる。そして彼女は上空に視線を向けると、そこには数体の飛竜が空を飛んでおり、その先頭を移動するのは大将軍のカインであった。
「乱れ突き!!」
『キィイイイッ!?』
唐突に現れたカインは飛竜の背中の上でランスを繰り出し、一突きで数体の昆虫種を屠り、しかも連続で突き出すので大量の昆虫種の躯が地上へと落下していく。彼の後に続いた竜騎士達も昆虫種を倒し、カインの後に続く。
カインは数名の竜騎士と共にジャックが集めた100体を超える昆虫種の群れを蹴散らし、更に遅れてもう1体の飛竜が姿を現す。その飛竜には見覚えがあり、ドリス達も面識がある「ヒリュー」という名前のミナに良くなついている飛竜だった。
「シャアアアアッ!!」
「ぬううっ……この速度は老体には応えるのう」
「大魔導士様、お願いします!!」
ヒリューに乗り込んでいたのは大魔導士のマドウと、この国の王子であるアルトが同乗していた。二人が共に飛竜に乗った状態で現れた事に地上のドリス達は驚くが、マドウは杖を掲げた瞬間、上空に巨大な魔法陣が出現したかと思うと、マドウは周囲一帯に存在する昆虫種に目掛けて広域魔法を発動させる。
「サンダーレイン!!」
『ッ――!?』
街中に声にならない悲鳴が響き渡り、魔法陣から無数の雷が降り注ぐ。この魔法はサブの弟子であるヘンリーも扱える魔法だが、彼よりも魔法陣の規模も降り注ぐ雷撃の数も多く、しかも的確に地上に存在する昆虫種のみを打ち抜く。
無数の雷撃が地上に降り注いだ結果、地面に強い衝撃が走った。先ほどの地震の正体がマドウの魔法だと判明し、やがて魔法陣が消えるころには昆虫種の殆どを焼き尽くしていた。
「す、凄い……」
「これが、この国で一番の魔術師の魔法……」
「いいえ、これだけの事が出来るのは世界一の魔術師しかありえませんわ……」
あれほど自分達を苦しめていた昆虫種の大群を一瞬にして一掃したマドウにドリス達は圧倒されるが、残念ながら上空を移動するマドウは彼女達の存在に気づいた様子はなく、他の場所へと向かう。
その様子を見送ったドリスはこの調子ならば街中に放たれた昆虫種の掃討は時間は掛からないだろう。大魔導士と大将軍が遂に動き出した事に安心する一方、シノが珍しく動揺したように声を上げる。
「……やられた!!」
「えっ!?ど、どうしましたの!?」
「ジャックの姿がない……さっきの騒動でいつの間にか連れ去られた」
「なんだって!?」
シノの言葉にドリスとシデは驚いた風に振り返ると、いつの間にかジャックが先ほどまで倒れていた場所に大穴が形成されていた。慌てて覗き込むと地下の下水道にまで大穴が繋がっている事が判明し、シノは悔しがる。
「さっき、地震が起きた時に連れ去られたみたい……完全に油断していた。他にも仲間が隠れていた事に気づかなかった」
「で、ですが……あの傷ではもう助かりませんわ!?」
「ドリスの言う通り、あの傷なら普通は助からない……誰かが連れ去ったとしても助かりはしない」
「なら、放っておけばいいだろ?どうせ助からないならあんな奴に構っている暇はない、工場区へ向かうぞ!!」
「……私は連れ去った奴を追う」
「あ、シノさん!?」
シデの言葉を振り切ってシノはジャックを連れ去った人間を追うため、大穴の中に飛び込む。慌ててドリスが穴の中を覗いたときには既に彼女の姿は見えず、足音だけが微かに聞こえる程度だった。
「お、おい!?言っちまったぞ!?」
「ああ、もう!!一人で行くなんて無茶な……でも、今の私達が追いかけた所で足手まといですわ。ここはシノさんに任せましょう。それよりも……ブランさんは何処に?」
「あれ!?あいつ、何処に消えたんだ!?」
ここでドリスとシデはブランの姿も消えている事に気づき、ジャックに深手を負わされたはずの彼がいつの間にかいなくなっている事を知る。慌てて周囲を見渡すがブランの姿は見当たらない。
あの重症で一人で逃げ出したとは思いにくいが、何処かに隠れているのかと二人は探そうとしたとき、ドリスの耳に聞き覚えのある声が響く。
「お~い!!ドリスさん!!」
「無事だったのか!?」
「ドリスの姉ちゃん、やっと見つけた……あれ!?」
大穴に潜り込んだシノを追う事をドリスが諦めた時、街道の方から聞きなれた声が響き、振り返るとそこにはミナ、デブリ、コネコの姿が存在した。ドリスはクランハウスに残ったはずの3人が現れた事に驚く。
コネコはシデがドリスの傍に居る事に驚き、二人は前に何度か顔を合わせていた。ヒヒイロカネのネックレスをコネコが手に入れた時、本来の所有者であるゴマン伯爵が行方不明だったので息子のシデに渡そうとした。
しかし、シデはゴマン伯爵が姿を消した原因となったネックレスを拒み、彼女にそのまま渡してしまう。そのお陰でヒヒイロカネのネックレスを金色の隼に譲渡したお陰でゴブリンキングが襲来したイチノの救援を金色の隼に頼む事が出来たため、コネコは嬉しそうにシデに話しかけた。
「なんだ、誰かと思えばあたしにヒヒイロカネのネックレスをくれた気前のいい兄ちゃんじゃん!!こんな所で何してるんだ?」
「いや、その……」
「シデさんはレナさんを助けるために私を行動を共にしていますの」
「え、そうなのか!?」
「シデ……君はレナ君と仲が良かったの?」
「そんなわけあるか!!」
ドリスの言葉に3人は驚くと、慌ててシデは否定するが、今は言い争いをしている暇はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます