第617話 相打ち

竹筒から出現したのは案の定というべきか、赤く光り輝く粉末であった。ジャックは瞬時に粉末の正体が火属性の魔石を粉々に磨り潰した物だと見抜き、粉状になるまで潰されているとはいえ、この状態でも高温を与えると爆発を引き起こす。



(しまった……だが、この距離だと奴も巻き込まれるぞ!?)



ジャックに対して粉末を浴びせるだけならばともかく、飛び散った粉末はシノの肉体にも振りかかっている事に気づいたジャックは戸惑う。この状態で下手に炎華を使えばシノも爆発に巻き込まれるのは確定していた。


自分から逃れてから爆破させるつもりかと思ったジャックだが、彼女は躊躇なく腰に差していた炎華を引き抜こうとしている事に気づき、目を見開く。



「まっ――!?」

「爆散!!」



躊躇なくシノが空中に浮かぶ粉末に刃を振り抜いた瞬間、火属性の魔石の粉末は炎華の刀身が放つ高温を浴びた事で爆発を引き起こし、シノとジャックの身体が爆炎に包み込まれた。



「ぐあああああっ!?」

「あぐぅっ!?」

「そんな、シノさん!?」

「なんてことを!?」



二人の身体が爆発によって吹き飛び、ジャックは全身が黒焦げと化して地面に倒れ庫む。一方でシノの方も無傷とはいえず、炎を纏いながらも地面に叩きつけられた。


その様子を見ていたドリスとシデは慌てて彼女の元に駆けつけ、シデは昆虫種が近づいてこないように香り袋を取り出す。一方でドリスはシノを助けようと手を伸ばするが、まだ意識は残っていたのかシノは静止する。



「駄目、離れてて……」

「ですが!!」

「問題ない、忍者はしぶとい……氷華!!」

「うおっ!?」



シノは氷華を引き抜くと刀身から冷気を生み出し、自分の身体の熱を振り払う。どうにか服に纏わりついていた炎も消え去る事に成功すると、彼女は疲れた表情を浮かべて背中を地面に預けて夜空を眺めた。



「ふうっ……流石に死ぬかと思った」

「シノさん、どうしてこんな無茶な真似を……」

「大丈夫、こうなる事を予想して私の忍者服は魔法耐性が高い素材で出来ている……それに、さっき浴びた粉末も焼き焦がしていなかったら今頃昆虫種の餌食になっていた」

「そ、そこまで考えた上での行動だったのか……なんて女だ」



ドリスは涙目でシノの身体を抱き上げると、シノは軽い火傷を負いながらも命に別状はなく、彼女を抱きしめ返す。その様子を見てシデは冷や汗を流し、一方でシノと同じく爆発を身に受けたジャックの様子を伺う。


シノと違い、魔法耐性が高い衣服を身に付けていなかった事が原因か、ジャックは全身を爆炎に飲み込まれて重傷を負っていた。このままでは死亡する事は間違いなく、治療を行うにしても回復薬の類ではもうどうしようもない状態に追い込まれていた。



「あの男は……もう助かりそうにないな」

「……油断しない方がいい、あいつは七影のジャック。これぐらいで簡単に死ぬような男じゃない」

「いや、これぐらいって……あれを見ろよ、どう見ても助からないだろ?」

「仮に助からないとしても、このまま放置はできませんわ」



肩を貸してシノを立ち上がらせたドリスはジャックの元に赴き、とりあえずはまだ生きている事を確認する。シデは恐る恐る杖先で身体をつつくと、僅かだが反応があった。



「ぐふっ……がはぁっ!?」

「うおっ!?ま、まだ生きているのか……!?」

「……くそがっ……まさか、俺が……ガキに、やられるとは……」

「忍者を舐めた時点で貴方の敗北は決まっていた」

「ちっ……やっぱり、ガキはむかつくな……げほ、げほっ!!」



激しく咳き込んだジャックは身体を動かそうとするが、もう誰が見ても彼は助かる状態ではなく、間もなく彼の命は終わるだろう。ジャックは自分が死ぬことを避けられない悟ると、彼は亡き親友の仇を討つ前に死んでしまう自分の不甲斐なさを呪う。


どうしてこんなことになったのか、いったい自分が何を間違えたのか、そんな疑問を頭の中に浮かべながらも彼はやがて諦めた様に身体の力を抜いた。そんなジャックに対してシノは質問を行う。



「ジャック、死ぬ前に答えてほしい……イゾウはどうやってこの二つの妖刀を手に入れた?」

「……何だと?」

「答えて、この妖刀を盗み出したのはイゾウで間違いない?」

「シノさん?」



ジャックに対して奇妙な質問を行ったシノにドリスは戸惑うが、ジャックは彼女が手にした二つの妖刀に視線を向ける。


あまり仲が良かったとは言えないが、それでも共に七影として活動していたイゾウが持っていた二つの妖刀、その妖刀を盗み出したのがイゾウなのかどうしてもシノは確かめる必要があった。



「……さあな、早く殺せ」

「……そう」



だが、彼女の言葉に対してジャックは何も答えず、仮に自分が死ぬとしても仲間の情報は吐かない。例え、それが既に死人だったとしても仲間を裏切る真似はしない。それがジャックの選択だった。そんな彼の言葉を聞いてシノは短刀を振りかざそうとしたとき、唐突に地面に強い衝撃が走った。

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