第606話 ゴマン伯爵の手紙

「レナさんなら工場区の方へいるはずですが……どうかしましたの?」

「工場区!?くそ、急がないと……このままだと師匠に殺される!!」

「ど、どういう意味ですの!?師匠とはいったい……」



シデの師匠がサブである事はドリスも知っており、彼女は工場区で何が起きているのか知らないため、どうしてサブがレナの命を狙うのか分からない。


そもそもシデが何故自分を助けてくれたのかも分からず、彼に尋ねようとすると先ほどチョウとシデに吹き飛ばされたはずの魔術師達が起き上がる。



「ぐぅっ……き、貴様等ぁっ!!」

「なっ!?まだ意識が残っていただべか!?」



魔術師である彼等は魔法の攻撃に対する耐性を持ち合わせていたからこそ耐え切れたようだが、ドリスと話し合うシデを見て激高した。



「シデ、どういうつもりだ!?我々を裏切るつもりか!?」

「この恩知らずめっ!!」

「裏切る?それはどういう……」

「うるさい!!黙ってろ!!」



ドリスは魔術師達の言葉に驚き、そんな彼等にシデは杖を取り出す。魔術師達が持ち込んだ小杖ではなく、彼の杖には複数の火属性の魔石が取り付けられた杖だった。


自分達に攻撃を仕掛けてきたシデに怒りを抱いていた魔術師達だが、杖を取り出して構えた彼を見た瞬間に焦りを抱き、そんな彼等にシデは怒鳴りつける。



「お前達も知っていたんだろう!?師匠が……あの男が、僕の父親を攫った盗賊ギルドの人間だと!!」

「な、何だと!?」

「どうして貴様がそれを……」

「ゴマン伯爵家の人脈を甘く見るなよ、名ばかり貴族だと馬鹿にされようが、腐っても僕は伯爵家の人間だ!!それにあの男はいけしゃあしゃあと僕まで利用しようとしやがった!!とことん、虚仮にしやがて!!」

「シデ君、落ち着くだ!!これ以上すれば死んでしまう!?」



チョウが今にも負傷した魔術師達に魔法を発動しかねないため、慌ててチョウが後ろから抑え込む。いくら魔法耐性を持つ魔術師といえど、負傷した状態で更に魔法を受ければ無事では済まない。


自分を抑え込むチョウを振りほどこうとシデは暴れるが、ドリスはそんな彼を落ち着かせるために頬を叩く。



「落ち着いてくださいましっ!!」

「うぐぅっ!?お、お前……」

「いいから落ち着きなさい!!いったい、何があったというのですか!?」

「……僕に構っている暇があればあいつの所へ行けよ!!このままだと、お前の友達は殺されるぞ!?」

「何ですって……!?」



シデの言葉にドリスは目を見開くと、そんな彼女に対してシデはレナの命が狙われている理由を話す。彼もサブの弟子の一人であるため、彼から直々に指令を受けていた。



「昨日の夜、サブ魔導士が……いや、あの男が僕の前に現れたんだよ。家に引きこもっているぐらいなら、自分の手伝いをしろと言い出してきたんだよ。あいつはな、この王都を崩壊させようとしてるんだよ!!」

「王都を崩壊?サブ魔導士が……!?」

「そのためにはまずは邪魔者を消す必要がある……それがレナの奴なんだよ!!あいつを生かしておくと何を仕出かすか分からない、だからサブは自分の弟子達にレナとお前らを殺せと命じたんだ!!」

「私達を……サブ魔導士が!?」



ドリスはシデの言葉が信じられなかったが、彼に命を救われた事も事実であり、しかも今のシデの様子が嘘をついているようには思えない。


しかし、どうしてサブ魔導士がレナの命を狙うのかが分からず、しかも王都を崩壊させる計画を立てていたと言われても戸惑う事しか出来ない。そんなドリスにシデは更に言葉を続ける。



「サブは盗賊ギルドの人間……いや、七影の一人だ!!奴等が俺の親父を嵌めて競売を開催させた後、親父を連れ去ったんだ。俺の屋敷にある地下に隠された部屋の中に全部書いてあったんだよ!!親父が自分が脅されている事も、万が一の場合に備えて俺のために残していた金もな!!」



ゴマン伯爵家の歴史は古く、屋敷には外敵の侵入に備えて秘密の隠し部屋が幾つも存在した。彼等は代々ヒヒイロカネのネックレスを守るため、屋敷の中には様々な仕掛けが程庫されていた。


競売が開催される直前、監視されていたゴマンは隙を見て手紙を書き残し、息子のために残しておいたなけなしの財産も隠し部屋に移動させた後に姿を消した。唐突に父親が消えて自暴自棄になっていたシデだが、後に隠し部屋の存在に気づいて戻った時に真実を知る。


どうやら競売の開催前にゴマン伯爵はサブの存在を知ったらしく、彼が七影の一人である事を知った彼は、自分の息子がよりにもよってサブの弟子であるために人質を取られた状態だと知る。もしも自分がへまをすれば息子の命が危ないと判断した彼は盗賊ギルドに逆らえず、従ったという。


シデが全てを知ったのは父親が失踪してから数か月後、生活もままならずに家財を売り払い、遂には屋敷を売却するしかない状態まで追い込まれた時に隠し部屋の存在を思い出したという。隠し部屋に何か金目の物が残っていないのかを確認したとき、シデは父親からの手紙と隠し財産の存在を知った。





※作中では表現しきれませんでしたが、ゴマンの息子に対する愛情は本物です。

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