第601話 カツの合流

「私はここを離れます、念のために誰か護衛役として同行をお願いできますか?」

「あ、それなら僕が一緒に……」

「何言ってんだ、新入りが出しゃばるんじゃない!!イルミナさんの護衛なら俺が!!」

「い、いや俺が行く!!」



イルミナの言葉を聞いてデブリが名乗り出ようとしたが、慌てて他の男性冒険者が立候補する。イルミナは金色の隼の中でも人気が高く、ルイと同様に男性陣から慕われていた。


こんな状況でも彼女の護衛役ならばと男性冒険者達は名乗り上げるが、そんな彼等のア反応を見てイルミナは仕方なく一人を選ぶ。



「分かりました。では、ここはデブリ君に任せます。ご同行お願いできますか?」

「え?あ、ああっ……任せろ」

「そんな!?どうしてなんですか副団長!?」

「俺達に何か不満が!?」

「貴方達にはここの守護は任せます!!文句を聞いている暇はありません、いいですね!?」

『は、はい!!』



イルミナに怒鳴られて男性冒険者達は慌てて従うと、そんな彼等を見てイルミナは頭を抱えながらもデブリに話しかける。



「では行きましょう、デブリ君」

「お、おう……」



なんで自分を連れていくのかと不思議に思いながらもデブリはイルミナに従い、彼女の後に続いてクランハウスを離れようとした。だが、その前に街道に聞き覚えのある大声が響き渡る。



『お~い!!イルミナ、無事かぁっ!?』

「その声は……カツ!!貴方も戻ってきたのですか!?」

「カツさんだ!!カツさんが戻ってきたぞ!!」

「やった、これで勝てる!!」



動く度にガシャガシャと音を鳴らしながら戻ってきたカツに団員達は歓喜の声を上げ、この状況で黄金級冒険者のカツが戻ってきた事は心強い。イルミナもカツが戻ってきた事に驚くが、すぐに彼と向き直る。


カツの方は工場区から走りっぱなしだったが、全く疲れた様子も見せずにイルミナの元へ向かい、週の状況を確認して珍しく不機嫌そうな声を出す。



『たくっ、とんでもない事態に陥ったな……ここにくるまでに虫共を100匹ほど殺してきたってのに、まだまだいやがる』

「やはり、他の場所でも昆虫種がいましたか……」

『ああ、しかも昆虫種だけじゃねえ。建物に火を放とうとした奴等もいやがった』

「という事はやはり……この火災は人為的な物ですか」

『そういう事になるな……恐らく、盗賊ギルドの連中が動き出しやがった』



カツの言葉を聞いてイルミナは今回の事態が偶然ではなく、人為的に引き起こされた事だと確信を抱き、二人とも盗賊ギルドの犯行だと確信する。しかし、これほどまでの騒動を引き起こした理由が分からない。


これまでの盗賊ギルドの行動はあくまでも目立たず影で活動していたが、今回の騒動は明らかに異常だった。これほどの騒動を引き起こしたとなればヒトノ国側も黙ってはいられず、全勢力を駆り出してでも盗賊ギルドを殲滅に取り掛かるだろう。



(盗賊ギルドがもしも今回の騒動の要因ならば……奴等の狙いはいったい?)



城下町に魔物を放つだけではなく、建物を放火しているのならば盗賊ギルド側も本気でこの国の転覆でも狙っているのかとイルミナは考える。しかし、いくら盗賊ギルドだろうと国家を相手にそんな無謀な真似ができるのかと疑問を抱く。


仮にこの王都に存在するヒトノ国の戦力を討ち取ったとしても、各領地の貴族が黙ってはいるはずがなく、大軍を派遣して盗賊ギルドを壊滅させるだろう。


第一にこの王都にはヒトノ国最強の戦力が集結しており、いくら大量の昆虫種を招き入れたところでマドウ大魔導士やカイン大将軍が率いる竜騎士隊、更には金色の隼を筆頭にした冒険者の集団に勝てる戦力を盗賊ギルドが用意できるはずがない。



(いえ、今は盗賊ギルドの行動は気にするようにまずはこの状況をどうにかしなければ……)



イルミナは考えるのを止め、合流したカツから報告を聞き、ルイはどのように行動しろと言ってきたのかを問う。



「カツ、団長の指示は?」

『いや、それがな……実は工場区の方でもとんでもない事が起きたんだよ。聞いて驚くなよ、あのサブ魔導士が謀反を起こしたんだ!!』

「謀反!?あのエロ爺……いえ、あのサブ魔導士が謀反を?」

『お、おう……お前、あの人の事をそんな風に思っていたのか』

「そんな事より、いったい何があったんですか?早く教えなさい!!」



カツの言葉を聞いてイルミナは驚き、彼女の中ではサブ魔導士は会う度にセクハラを行おうとしてくるので「エロ爺」と認定していたが、魔術師としての腕は確かなのでマドウと同様に尊敬していた人物だった。


それだけにサブ魔導士がヒトノ国を裏切ったという話に動揺するが、いったい何が起きたのかを手短にそれでいながら詳しく話すように促す。




※イルミナのサブの評価は「セクハラくそ爺」です。魔術師としての能力だけは尊敬していました……能力だけは

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