第600話 氷の天使
「す、凄い!!あれだけの魔物を一瞬で倒すなんて……」
「流石は副団長だ……というか、団長よりも凄くないか?」
「馬鹿野郎!!団長と比べるな、あの二人は魔術師といっても称号が違うんだ。まあ、イルミナさんの方が攻撃魔法が優れているのは確かだろうが……」
「そこ、話している暇があるのなら立ちなさい!!」
『は、はい!!』
イルミナに叱りつけられた団員達は慌てて起き上がると、街道に存在した昆虫種は全て一掃した事を確認するとイルミナは魔法陣を消して皆に振り返る。恐らくは100体以上の昆虫種を倒したはずだが、イルミナは汗一つ掻かずに全員の安全を確認した。
既にクランハウスに逃げ込んできた街の住民は建物の中へ避難は終了しており、彼女は顔色が悪いナオの様子を伺うと、コネコ達に今のうちに彼女を中へ運ぶように促す。
「ここは私が抑えます。その間にナオさんを早く地下へ避難させてください」
「お、おう!!ナオの姉ちゃん、立てるか?」
「すぐに連れて行ってあげるからね!!」
「あ、ありがとうございます……」
コネコとミナがナオを担ぎ上げると、二人は急いで建物の中へと避難する。その様子を見てデブリとドリスは安心するが、一方でイルミナは険しい表情を浮かべて街の様子を伺う。
街道に存在した昆虫種を一掃する事には成功した、未だに街のあちこちでは煙が上がり、人々の悲鳴が聞こえてきた。どうやらまだ城下町には魔物が残っているらしく、イルミナはこの場を他の冒険者に任せて自分が出向く事を告げる。
「今この場にいる冒険者の半数はクランハウスの守護を行いなさい。指揮は建物の中にいるロウガに任せます。また、体力が残っている者は王城へと向かい、現状の連絡を行いなさい。金色の隼の名前と証を見せれば城の中に通してくれるはずです!!」
「は、はい!!」
「それなら盗賊の称号を持つ私が行きます!!あの猫みたいに可愛い子供ほどではありませんけど、足には自信がありますから!!」
「では貴女に任せます。それと、冒険者ギルドの方にも誰か連絡に向かってもらいたいのですが……」
「それなら私が出向きますわ!!」
「ドリス!?」
王城への連絡は獣人族で盗賊の称号を持つ冒険者が立候補すると、冒険者ギルドの連絡はドリスが名乗りを上げる。彼女の言葉にデブリは驚き、イルミナも戸惑う。
「気持ちは有難いのですが、ドリスさんは魔術師……ここは身体能力が高い戦闘職の人間に任せる方がいいと思いますが」
「大丈夫ですわ、この日のために私も特訓を重ねてきました!!」
「特訓って……おい、まさかあのでかい氷の塊に乗って移動する気か!?」
「そ、それは止めた方が……」
かつてドリスは初級魔法で作り出した氷塊を利用してレナのように空を飛ぶ練習をしてきた。しかし、彼女の作り出す氷塊は人を乗せた状態で操作するのは困難を極め、実際に乗った事があるデブリもイルミナも顔色を悪くする。
魔法の力で作り出した氷塊に乗り込む場合、まず問題点があるとすれば氷の塊は滑りやすく、高速で移動すれば乗り込んだ人間が振り落とされる危険性が高い。
ならば取っ手でも付ければいいかと思われるが、氷の塊なので下手に触れていると皮膚が凍り付いたり、霜焼けを起こす危険性もある。だからこそデブリとイルミナはドリスを止めようとするが、二人の静止を振り切ってドリスは両手を広げると魔法を発動させた。
「大丈夫ですわ、私も日々成長しています!!これが私の新たな力、名付けて
「こ、これは!?」
「おおっ!?」
全員の前でドリスはポーズを行うと、彼女の背中に鳥の羽根を想像させる氷の翼が誕生した。それを見てまるでドリスが天使のように見えるが、更に彼女は両手を下に構えて魔法を発動させる。
「はぁあああっ!!」
「と、飛んだ!?」
「これは……風圧の魔法!?」
翼を生やした状態でドリスは風圧の魔法を発動させ、自身の身体を浮き上がらせると、背中の翼を動かして軌道を変更させる。その様子を見てデブリは驚き、イルミナさえも呆気に取られた。
このドリスが考え抜いた飛行方法とは氷塊の魔法で氷の翼を生やし、その後は風圧の魔法で自分の身体を浮き上がらせる。後は進行方向に向けて風の力を利用して移動を行い、背中の翼でバランスを取って軌道の調整を行う。
今はレナのスケボほど細かな調整が出来るわけではないが、その速度は素早く、まるで本物の鳥のように空を飛ぶ。この飛び方が出来るのは初級魔術師であるドリスならではの方法であり、あのブランでさえも真似は出来ない。
「では行ってまいりますわ!!」
「き、気を付けてください……」
「凄いな、あいつ……レナもたいがいだが、何だかんだでドリスも相当に変わってるな」
まるで天使のように空を飛んでいくドリスの姿にイルミナとデブリは呆気に取られるが、ひとまずは冒険者ギルドへの連絡は彼女に任せてイルミナは他の場所の対応に向かう。
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