第602話 女帝の訪問

『いや、俺も詳しい事は分からねえんだよ。俺が聞いた話だと、サブ魔導士の奴があの坊主……レナの奴に急に襲い掛かって大怪我を負わせたんだよ』

「レナ君がっ……!?」

「何だって!?れ、レナは!?レナは無事なのか!?」

『お、おう!!落ち着け、あの坊主がそんな簡単に死ぬ玉じゃねえよ!!大丈夫だ、もう治療を受けているから心配するなって……』



レナがサブに襲われたという話を聞いてイルミナは驚き、デブリはカツの鎧を掴んでレナの安否を確かめると、慌ててカツは落ち着かせる。少なくとも軽傷とは言えない傷だが、回復魔法を扱えるルイも傍にいるので大丈夫だと伝えた。


一方でイルミナの方はレナがサブに襲われたという話が信じられず、どうしてサブが

レナを襲ったのか理解できなかった。だが、先日にルイに自分の留守の間に何か起きたは任せると言われたことを思い出し、ルイならば何か知っているのではないかと考える。



「カツ、クランハウスの守りを任せられますか?」

『ああ、それは構わねえが……お前はどうするんだ?』

「私は団長の元に向かいます!!いったい何が起きているのか確かめなければ……!?」

「え、ど、どうしたんだ?」



話の途中でイルミナは何かに気づいたように顔色を変え、そんなイルミナの反応にデブリは戸惑うと、カツも遅れて何かに気づいたように顔を振り向く。


ルイとカツが顔を向けた方向はクランハウスの屋根の上であり、そこには複数人の人影が存在した。そして立っている人物を見た瞬間、デブリは驚愕の声を上げた。



「あ、あいつらは……女帝!?」

「マガネ……!!」

『おいおい、マジかよ……』




――屋根の上に存在したのは裏街区の奴隷街の支配者であり、魔人族の「吸血鬼」によって構成された組織「女帝」の主と配下が立っていた。人数は10名程存在し、その姿を見たイルミナは即座に戦闘態勢へと入ろうとした。




屋根の上で吸血鬼の集団は街道の様子を見降ろし、そして女帝の代表である「マガネ」はイルミナに視線を向けると、翼を広げてゆっくりと屋根の上から降りていく。その後に他の吸血鬼も続き、その姿を見たデブリも慌てて構える。



「マガネ……まさか貴女が裏街区を離れ、こんな場所にまで訪れるなんて」

「もう時刻は夕方を超えた……ここからは我々の時間だ」

「時間?ど、どういう意味だ?」

『何だ、坊主は知らないのか?吸血鬼がその力を発揮できるのは夜の間だけだ。こいつらは昼間は能力が半減されて滅多に外に出る事はないんだよ』



マガネの言葉にデブリは戸惑うと、カツが代わりに説明を行う。吸血鬼は魔人族の中でも特殊な能力を持つが、反面に彼等は日の光に弱く、日中の間は能力を半減されるという。


既に時間帯は夕方から夜を迎えようとしており、城下町のあちこちで火災が起きているのでまだ日が明るいと錯覚していたが、既に吸血鬼が活発的に行動を起こせる時間帯に突入していた。


イルミナはこの状況下で現れた女帝の集団に対して警戒心を抱き、この状況を引き起こしたのは彼女達なのかと問う。



「マガネ!!まさか、お前達が今回の異変の原因か!?」

「口に気を付けろ、小娘が……我々はこう見えても人間を愛している。彼等のお陰で我々は生かされているといっても構わない。私達は「餌」であろうと尊敬する事は忘れてはいない」

『はっ、人間を餌扱いか……じゃあ、お前らはわざわざ何しに来た?』



マガネはイルミナの言葉に不機嫌そうに否定すると、カツがそれならばどうして女帝の主である彼女自身が金色の隼の拠点に訪れたのかを問う。先日に金色の隼と女帝は騒動を引き起こしたばかりであり、二つの組織は決して友好的な関係ではない。


この混乱に乗じて自分達を潰しに来たのかとカツは警戒すると、マガネは少し考え込む素振りを行い、口を開く。



「警告だ。私達はお前達に警告を伝えに来た」

「警告……?」

「いったい何の話を」

「いいから黙って聞け、一度しか言わないからな……先日、我々の元に盗賊ギルドのゴエモンが訪れた」

「ゴエモン!?」



まさかここで盗賊ギルドの七影の一角であるゴエモンが訪れるなど思いもよらず、デブリは驚きのあまりに大声を上げるとマガネが気分を害したように彼を睨みつける。


慌ててデブリは口を押えると、マガネは気を取り直して話の続きを行う。彼女は自分達の元にゴエモンが訪れた理由、そして今回の異変の首謀者が盗賊ギルドである事を語った。



「ゴエモンの奴が訪れたのは、盗賊ギルドが我等と同盟を結ぶために送り込んだ「人質」だった」

「同盟……盗賊ギルドと女帝が!?」

『ちっ、マジかよ』

「いいから黙って話を聞け、我々はまだ盗賊ギルドと正式に同盟を結んだわけではない……だが、奴等は裏街区の全域を私達に明け渡す事を条件に我々に協力して欲しいと申してきた」

「裏街区の……全域!?」



マガネの言葉にイルミナは信じられない表情を浮かべ、盗賊ギルドは裏街区に縄張りを持ち、同じく裏街区に縄張りを持つ女帝とは敵対関係にあった。しかし、その盗賊ギルドが女帝と同盟を結ぶためだけに裏街区の自分達の縄張りを放棄するという内容に信じられるはずがなかった。

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