第589話 サブの目的

「ふむ、やはり躊躇したか……我が弟子ながら情けない、とは言えんな。仕方あるまい……ならば弟子たちが覚悟を決めるまで、もうしばらくお前らの相手をしてやろうではないか」

「サブ魔導士……貴様、何を考えている!!」

「いったいなぜ、どうして貴方ほどの御方がこんな真似を!!」



ゴロウは大盾を構え、ジオは痺れた身体を無理やりに動かして立ち上がると、サブは腕を組んで二人と向かい合う。仮にも相手は国内でも指折りの将軍のため、油断して近づけばサブの命はない。


魔法剣士であるサブは戦闘職の技能をいくつか習得しているが、それでも本職の人間には及ばない。もしも二人の間合いに入り込んだ瞬間、サブは一瞬にして叩きのめされるだろう。だからこそ一定の距離を保ち、サブは魔剣と小杖を両手に握りしめた状態のまま二人に構える。



「あまり近づくでない、男に言い寄られる趣味はないからな」

「質問に答えろ!!どうして、レナを殺した!!」

「何故、こんな事を……教えてくださいサブ魔導士!!」

「……それを一から説明するのは難しいのう」



ゴロウとジオの言葉にサブは眉を顰め、彼としてもこの場でレナを殺す事は想定外の出来事だった。だが、ある計画の実行前にレナが偶然にもフライングシャーク号の船内に仕込んだ「魔石」を発見したせいで、計画を予定を早めなければならなかった。


サブは二人と身構えたまま、フライングシャーク号の様子を伺い、未だに命令を与えた弟子たちが行動を移していない事を知る。気持ちは分かるが、ここまできたら後戻りは出来ず、サブは時間を稼ぐために二人に顔を向ける。



「仕方ない……では、何が聞きたい?今なら素直に答えてやるぞ!!」

「何故、レナを殺したと聞いている!!どうしてレナを……!!」

「ほう、意外と情に深い男だったのか。そんなにも教え子が大切だったのか?気持ちは分かるぞ」

「ふざけるな!!」

「ふざけてはおらんわ、儂とて人の子……自分の弟子が殺されれば落ち着いてなどいられん。だが、あの坊主の場合は少々優秀過ぎた……本来ならここで殺すつもりはなかったがな」

「何を言っている……ここで殺すつもりではなかった?ならば、いずれは殺すつもりだったというのですか?」

「相変わらずお前は頭が切れるな、ジオ将軍よ。その通り、可愛そうだがあの坊主は今日殺すつもりだった……この船が王都を離れた時にな」



フライングシャーク号に視線を向け、サブは最初からレナを殺す計画を立てていた事を話す。その話を聞いてゴロウとジオは驚き、どうしてレナを殺すつもりだったのかを問い質す。



「どうして、貴方がレナ君を狙うのですか!!サブ魔導士、レナ君の事は貴方も認めていたのではないですか?」

「ふむ、確かに魔術師としてはあの坊主は興味深い存在じゃ。今まで付与魔術師の中で地属性の属性しか持ち合わせず、その力を使いこなせる人間など……あの重力の勇者程度しか存在しなかったからな。そういう意味では確かにあの坊主を殺すのは惜しいと思っていた。だからこそ今までは見逃していたが……流石にもう、あの坊主の存在を許すわけにはいかなくなった」

「どういう意味だ!?」

「あの坊主がまさかこれほどの船を浮かばせる力を持つとは思いもせんかったからな。仮に坊主を生かしていた場合、将来的にもっと恐ろしい力を身に付けるかもしれん。その力が味方になるのであれば心強いが、あの坊主の性格上を考えても我々の味方になるとは思えんからな……それにジャックの奴から恨みを買う」

「ジャック……まさか、七影のジャックの事か!?」



ジャックの名前が出てきたことにジオは驚き、どうしてこの状況でサブの口から七影の名前が出てきたのかと戸惑う。だが、ゴロウとしてはレナが味方にならないという言葉が気にかかり、今までのサブの言葉を思い返す。


サブの話を纏めるとレナは味方にならないから殺すしかない、仮に味方に付いたとしても七影のジャックの恨みを買う、船内に仕込んだ魔石、そして計画を早めたという言葉、これらの情報を纏めた結果、ゴロウが思いついた言葉を告げる。



「まさか……船が飛んだ後に爆破させてレナを殺すつもりだったのか?」

「おお、よくぞ分かったな。だが、正確に言えばあの坊主だけではない、お前たち諸共、爆殺するつもりだったがな」

「我々も……!?」



レナだけではなく、ジオやカイン、その他の船に乗り込む大勢の兵士、魔術師、冒険者も含めてサブは殺すつもりだった事を明かす。仮にもしも船が空を飛んでいるとき爆発した場合、大勢の命が失われるだろう。


今回の搭乗者のなかにはゴロウ、ジオの将軍だけではなく、マドウも含まれている。つまり、サブは自分の師匠であり、上司でもあるマドウの命をも狙っていた事になる。

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