第590話 サブの葛藤
「何故……どうして貴方ほどの御方がそんな真似を!!」
「いったい何が目的だ!!ヒトノ国を裏切る気か!!」
「裏切る?それは違うな、儂がこの国に仕え続けたのは忠誠心ではない……この国の魔術師の頂点に立つ事こそが目的なのだ!!」
二人の言葉にサブは怒鳴り返し、彼は何十年も味わい続けた自分の苦痛を語る。どれだけ努力をしようと手に入らなかった最高の魔術師の称号を得るために彼は行動してきた事を告げた。
「この国の最高の魔術師のみに与えられる「大魔導士」の称号、それを得るためだけに儂はどれほどの尽力した事かお前たちに分かるか!?大魔導士になるために儂は魔法の技術を磨き続けた、だが結局は儂がその座に就く事は出来なかった……その理由が分かるか!?」
「何を、言っている……」
「まさか……貴方の目的はマドウ大魔導士だというのですか!?」
「その通りだ!!儂は、儂はあの男が憎い!!奴の才能が、力が、人望が……そして何よりも奴の器の大きさが憎い!!憎むべき相手だというのに儂は同時にあの男に尊敬の念を抱いてしまった!!」
自分が追い求める「大魔導士」の称号を手にしていたマドウに対し、サブは彼に対して激しい憎悪と共に尊敬もしていた。憎むべき相手ではあるが、嫌でも自分とは魔術師としての格が違いすぎた。
どれだけサブが努力しようとそれ以上の力をマドウは持ち合わせ、しかも事もあろうにマドウはその力をひけらかす事もなかった。大魔導士の位に就いたからといって偉ぶる事もなく、それどころか自分の技術を他人に教え、将来有望な子供たちを育成するための教育施設まで作り上げてしまう。
「儂はあの男が憎い、だがそれ以上に自分自身の非力さが憎い!!何一つ奴に勝てないという事実が認められず、奴が魔術師を育てる教育施設を作り上げたいと聞いたときから儂も大勢の弟子も作ったりもした……だが、結局そんな事をしたところで儂が奴よりも優れている事を証明できなかったがな。儂の弟子たちはよりにもよって奴の教え子に敗れてしまった!!」
サブはそんなマドウの姿を見て嫉妬が抑えきれず、同時に彼の片腕という立場に甘んじる自分に我慢できなかった。仮にマドウがもっと嫌な相手ならばサブもここまで苦しむ事はなかっただろう。何らかの手段で彼を陥れ、自分が大魔導士の座に就く事も出来た。
マドウよりもサブが大勢の弟子を作り上げたのは単なる対抗心に過ぎず、彼の教え子よりも自分の弟子たちの方が優れていたとすれば少しでも気が晴れると思った。しかし、結果から言えば先日の対抗戦でサブの弟子は誰一人としてマドウの教え子であるレナ達には勝てなかった。
そこからサブの心の中で何かが壊れてしまい、唯一の頼りにしていた弟子たちでさえもマドウの弟子、しかも彼が直接指導しているわけでもない教え子に敗れたという事実に彼の心の中の最後の拠り所まで失ってしまう。
――全てにおいてマドウを超える事が出来ないと悟ったサブの残された方法、それはマドウと彼が最も目にかけている教え子のレナを殺し、自分こそが名実共に大魔導士の称号を得る方法しかなかった。
「世界最高の魔術師の片腕、ヒトノ国の2番目の魔術師……もうその肩書は聞き飽きたわ。今日この日を以て……儂は真の大魔導士となろう」
「ふざけるな!!大魔導士とは……全ての魔術師の見本となる存在、貴様のような性根の腐った男に大魔導士になる資格はない!!」
「サブ魔導士……いや、サブ!!そこまで堕ちたか!!」
「ふん、お主等とは長い付き合いだったが……ここまでだ。さあ、そろそろ覚悟を決めるがいい、我が弟子達よ!!今こそ、この船を破壊するのだ!!」
サブの言葉にゴロウとジオは怒鳴り返すが、もう彼等の言葉はサブの耳には届かず、サブはフライングシャーク号に向けて大声を放つ。事前の計画ではサブの弟子、つまりブラン達は船内に乗り込み、彼の指示通りに動く。
ブラン達にサブが命じたのは魔石の設置と合図を送った時、起爆するように伝えていた。自分の命令には常に忠実な弟子ならば逆らう事はなく、全員に「魔力感知」の技術を授けていた。
起爆の合図とはサブの魔法剣の発動させる事で弟子達に魔力を感知させ、即座に起動するようにサブは命じていた。だからこそ先ほどの攻防でサブは魔法剣を発動させたときにフライングシャーク号が爆発すると思っていたが、どういうわけか弟子達は動いていない。
魔石を爆発させれば当然だが弟子達も無事では済まないが、サブは必ず自分が彼等を救い出すと約束していた。サブの弟子達ならば彼の言葉を信じ、魔石を爆破させるだろう。だが、どういうわけなのか一向にフライングシャーク号が爆破する様子がなく、サブは不審に思う。
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