第588話 サブの実力

「……サブ魔導士、その背中に隠した蜘蛛は何ですか?」

「やれやれ、魔術師の癖に随分と勘が鋭いのう……そういうところが儂は前々から気に入らなかったよ」

「どういう、意味ですか?」



レナはサブがいつもとは違う雰囲気である事に気づき、普段の彼はひょうきんな老人のような態度を貫いていたが、今回の彼は口元は笑っているが目は全く笑っていない。


サブの雰囲気がおかしい事に気づいたのはレナだけではなく、ジオとゴロウも異変を察して彼等の元に近付く。一方でレナの方はサブが背中に隠している黒蜘蛛の存在を再び尋ねる。



「サブ魔導士、答えてください。その背中の蜘蛛は何なんですか?」

「これか?こいつはな、儂のペットじゃ。手懐げるのには少々苦労したがのう」

「ペット……その蜘蛛が?」



魔物を飼育化し、育てる行為自体はそれほど珍しいことではない。実際にシノが飼育しているクロは「黒狼種」と呼ばれる狼型の魔獣のため、魔物が絶対に人間に懐かないというわけではない。


だが、サブが魔獣を飼育しているという話など聞いた事もなく、そもそも彼の話が事実だとしても黒蜘蛛を隠す必要はない。第一にレナは船内に黒蜘蛛で襲われている。この事から意味する事はサブが自分の黒蜘蛛を使ってレナを襲った事を意味する。



「レナよ、お主は本当に優秀じゃのう……本当に優秀過ぎて、目障りに思えてきたわ」

「えっ……」

「サブ魔導士、それはどういう意味ですか?」

「目障りとは……?」



話を聞いていたジオとゴロウもサブの異変に気づき、二人は各々の武器と防具に手を伸ばす。一方でレナの方も咄嗟に魔銃に手を向けるが、それに対してサブは笑い声をあげる。



「ひょひょひょっ……まあいい、計画の実行が早まっただけの事。出来る事ならこの王都で騒ぎを起こす事は避けたかったが、致し方あるまい」

「どういう、意味ですか?」

「サブ魔導士、何を言っている……答えろ!!」

「やかましい、小童が!!貴様ら如きガキが儂に歯向かう気か!!」



サブの言葉にゴロウが怒鳴りつけると、彼に対してサブはこれまでにないほどの気迫で言い返すと、懐から「魔剣」を取り出す。ここでレナはサブ魔導士の称号を思い出し、彼の本当の職業は砲撃魔導士ではなく、ツルギと同じく「魔法剣士」である事を思い出す。


杖と剣を組み合わせた様な武器を取り出したサブに対して咄嗟にジオとゴロウは動こうとしたが、サブは魔剣の刃に電流を迸らせる。



「見せてやろう、真の魔法剣をな!!」

「うわぁっ!?」

「ぐあっ!?」

「がああっ!?」




刀身から雷の如き電撃が放たれ、周囲に電流が拡散してレナ達の身体を襲う。しかし、それだけではなく、サブの持つ魔剣から放たれた雷はドッグの天井を貫く。その魔法剣の威力は剣とは比較にならない規模を誇った。



「さあ、やるがいい我が弟子たちよ!!今こそ、この国の真の王を迎え入れる時が訪れた!!」

「何を言ってっ……!?」

「レナよ、ここで殺すのは惜しいが仕方あるまい……消えよ!!」

「や、止めろっ!!」

「レナ君、逃げるんだ!!」



電流を受けて痺れて身体が上手く動けないレナに対してサブは両手で魔剣を構えると、雷を纏う剣を振り下ろす。その光景を見たジオとゴロウは止めようとしたが、剣が振り下ろされた瞬間に刃から雷撃が放たれ、レナの身体を飲み込む。


そのまま雷はサブの振り下ろした方向に放たれると、積み荷や器材を焼き尽くし、最終的には数十メートル先に存在する全ての障害物を焼き尽くす。その光景を見たジオとゴロウは目を見開き、サブは額から汗を流す。



「くっ……やはり、この齢で魔法剣は負担が大きいか。だが、これで一番の厄介な存在は消えた」

「き、貴様ぁっ!!」

「ふん、まだ動けたか……スラッシュ!!」

「ぐああっ!?」



レナが雷撃に飲み込まれた光景を見たゴロウは激高してサブに襲い掛かろうとしたが、そんな彼に対してサブは小杖ワンドを取り出すと、杖先からかまいたちの如き風圧を発生させてゴロウの顔面を切り裂く。


ゴロウの顔に血飛沫が走り、彼は左目の視界が奪われ、苦痛の声を上げる。それを見たジオは目を見開き、すぐに怒りを抱いてサブを睨みつける。



「き、貴様……!!」

「おっと、無理をするなジオ将軍。盾騎士のゴロウはともかく、お主では儂の魔法を受けて無事では済まないだろう?」

「おのれっ!!気が狂ったか!!」



左目を抑えながらもゴロウはどうにか立ち上がり、サブに身構えると背中の大盾に手を伸ばす。そんなゴロウを前にしてサブは腕を組み、ゆっくりとフライングシャーク号に視線を向け、未だに行動を移そうとしない弟子たちに気づいて仕方がないとばかりにゴロウと向き合う。


ゴロウは大盾を構えた状態でサブを睨みつけ、もう少し距離を近づければ彼を仕留める自信はあった。身体が麻痺しようと片目を奪われようとゴロウはレナを殺したサブを許せず、何としても仇を討つために隙を伺う。

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