第582話 空中戦艦

『すまねえ!!まさか、あんな事になるとは……』

『謝って済む問題か!!あいたたたっ……』



ベッドの上に全身が包帯だらけの状態で横たわるマドウに対してワドルフは土下座を行う。最もどんな怪我を使用とこの世界に存在する回復薬ならばすぐに治るのだが、生憎とマドウの場合は意識を失った後に慌てて同行していたワドルフの部下が治療を行う。


誰も回復薬を持ってこなかったので結局はそこら辺に生えていた薬草を粉末状にすり潰して傷口に塗り込み、包帯を全身に巻く羽目になってしまった。だが、王都に戻ればすぐに回復薬が手に入るのでマドウ自体は怪我は気にしていない。しかし、流石に今回の件は流石にワドルフに文句を言わざるを得なかった。



『ワドルフよ、残念だがお前の空中戦艦は使い物にならん。風の力で木造船を浮き上がらせるというのは少々無理がある。しかも仮に上手くいっても帆を使って移動するとなると着陸するときはどうするつもりだったのだ?』

『本当にすまねえ、言い返す事も出来ない……う~ん、やはり風の力だけじゃ無理があるか。熟練の風属性の魔法の使い手は風の魔法で空を飛ぶと聞いた事があるから上手くいくと思ったんだが……』

『確かに稀に空を飛べる魔術師はおる。だが、風属性の魔法で物体を飛ばすのは限界があるんじゃ。風の力が強すぎると空を飛ぶときに術者の肉体に大きな影響を与えてしまうからのう』

『そうか……いや、今回は本当に悪かった。次からはもっと上手い手を考えるよ』

『次もあるのか……』



ワドルフの実験のせいでマドウはしばらくは彼との付き合いは控えたが、結局は度々呼び出されて空中戦艦の実験の手伝いをさせられてしまう。


風属性の魔法が当てにならないとなるとワドルフは他の方法で飛行船、というよりも木造船を飛ばす方法を考える。だが、一番船を飛ばせる可能性が高かった風属性の魔法が駄目だと、実験は中々進展しなかった。


やがて時は流れ、お互いに老齢に至る頃にはワドルフもマドウを呼び出す事もなくなり、互いに結婚して出来た子供の世話や仕事に没頭した。マドウは大魔導士の位に就き、ワドルフも工場区の鍛冶師たちの筆頭として活躍する中、二人はあまり会う機会はなかった。





しかし、マドウは火竜との決戦の前にワドルフの元に訪れた。その理由は彼が未だに手放していなかった「空中戦艦」が必要な時だと判断したのだ。ワドルフはマドウの方から空中戦艦を要求してきたことに驚いたが、すぐに彼の頼み承諾した。




そして工場区には大勢の騎士と魔術師が殺到し、その中には竜騎士隊と大将軍のカイン、第一将軍のゴロウ、第二将軍のジオの姿も存在した。彼等は工場区に存在するワドルフが作り上げた「空中戦艦」が保管されたドッグへと訪れる。


ワドルフが人生を捧げて作り出したともいえる空中戦艦は非常に多き、全長が100メートルを超えていた。しかし、ここが港ならば巨大な船が存在したとしてもおかしくはないが、空を飛ぶことも出来ない飛行船を大陸の中央部に存在する王都で制作されていたという事実に3人の将軍は戸惑う。



「まさか、本当にこんな物があったとは……」

「いったいどれほどの年月を費やして作り上げた……」

「し、信じられませんな……」

「へへへ、そう褒めるんじゃない!!」

「いや、ワドルフよ……彼等は呆れておるのだ」



巨大な飛行船、というよりも大船を前にして呆れるしかなかった。飛べもしない飛行船を何十年もの時を費やして作り上げたという話を聞いたときはもう憐れみすら抱く。しかし、そんな彼等を前にしてマドウはこの船こそが火竜との戦闘で大いに役立つ事を確信していた。



「ワドルフよ、お主の船を本当に貰ってもいいのか?」

「ああ、こいつが飛ぶところをこの目で見れるのならな!!だが、俺の人生を掛けて作り出した大切な船だ!!本当にこいつを飛ばす事が出来るのか!?」

「ああ、可能だ……儂の教え子ならばな」

「お、教え子?」



マドウの言葉にワドルフは驚き、彼はマドウから自分の船を飛ばす方法を思いついたという話を聞いていたから船を渡す事を約束した。具体的にはどのような方法で船を飛ばすのかを聞いていなかったワドルフはマドウの言葉に戸惑う。


かつてマドウは幾度もワドルフの実験に付き合い、船を飛ばそうとしたが結局は失敗に終わった。これほどの巨大船を浮かばせる方法は大魔導士の彼を以てしても不可能なのかと諦めかけていた時、マドウはある少年の魔法を見て彼ならばこのどうしようもないほどに巨大な船を浮上させ、動かす事が出来るのではないかと考えた。



「マドウ大魔導士、いったいどうやってこの船を飛ばすのだ?」

「先ほど、教え子と言いましたな。それはまさか……」

「ゴロウ将軍、誰か心当たりがあるのか?」



マドウの言葉を聞いてカインは信じられない表情を抱いたが、ゴロウの方は何か心当たりがあるのか驚いた顔を浮かべ、ジオは不思議そうに尋ねる。しかし、実を言うと3人ともマドウが語る教え子と関係を持っていた。





※??「どきどき……|ω・)←スタンバイ中の主〇公」

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