第577話 閑話《デブリとコネコの奮闘》

――王都に存在する大迷宮の《荒野》そこにはオーク、ボア、ロックゴーレムなどの種が生息する。この場所に訪れる冒険者の主な目的はミスリル鉱石をロックゴーレムを狙い、強敵であるロックゴーレムに戦闘を挑む人間は多い。


ロックゴーレムは体長が2~3メートルは存在し、巨人族の如き怪力、更に厄介なのは肉体を構成する岩石が非常に硬く、並の武器では通用しない。弱点があるとすれば水属性の魔法か、あるいは大量の水を浴びせるしかない。


理由は不明だが、ロックゴーレムの肉体を構成する岩石は水を浴びると泥の様に柔らかくなり、水属性の魔法でも同じ結果となる。だからロックゴーレムに挑む冒険者の多くはほぼ必ずと言っていいほどに水属性の魔法を扱える魔術師を連れてきている。


だが、最近ではロックゴーレムを狙う冒険者の数が激減していた。理由は地属性の魔法の使い手である付与魔術師のレナが訪れてから、彼が主にロックゴーレムから大量のミスリル鉱石を採取し、それを商人に流したお陰で以前よりも安定してミスリル鉱石を得られるようになったからである。


レナの存在で王都のミスリル鉱石の価値は大きく変動し、最近ではロックゴーレムに挑む冒険者も減少していた。しかし、そのレナも最近は色々と理由が重なって大迷宮へ訪れる事も出来ず、ミスリル鉱石の採取が出来ない状態に陥っていた。




――そのため、金色の隼の元に複数名の商人が依頼を申し込み、ロックゴーレムからミスリル鉱石を回収する腕利きの冒険者を派遣してほしい旨を伝えると、デブリとコネコが名乗りを上げた。




「ゴオォオオオッ!!」

「へへ、追いつけるなら追いついてみやがれ!!」



荒野の大迷宮のロックゴーレムの生息地にてコネコは大型のロックゴーレムに追い掛け回されていた。彼女の役目はロックゴーレムを指定の場所に誘導する事だが、ロックゴーレムはそんな彼女に目掛けて自分の岩石の一部を砕き、投擲を行う。



「ゴアッ!!」

「うわっと!?そんなの当たるかよ!!」



投げつけられた岩石の破片に対してコネコは走りながらもしっかりと回避を行い、やがて前方に待ち構える人影を確認する。


コネコの向かう先にはデブリが待ち構え、彼は既に上半身が裸の状態で仁王立ちしており、ロックゴーレムが近づいてきたのを確認すると目を見開く。



「ふぅんっ!!」

「うわっ!?」

「ゴオッ……!?」



片足を振り上げ、地面に叩きつけた瞬間に振動が走り、走っていたコネコとロックゴーレムは咄嗟に立ち止まってしまう。地面に亀裂が走るほどに強く踏み込んだデブリはロックゴーレムに視線を向けると、狙いを定めるように腰を屈めた。


それを確認したコネコは自分のブーツに手を伸ばし、風属性の魔石を回転させると足元に「羽根」を想像させる風の魔力を纏わせ、その場で勢いよく跳躍を行う。彼女は楽々と7、8メートルは飛翔すると、デブリに合図を送る。



「今だ、あんちゃん!!」

「どすこぉいっ!!」

「ゴォオオオオッ!?」



コネコの声を聞いたデブリはロックゴーレムに目掛けて突っ込むと、そのまま正面からロックゴーレムに体当たりを食らわせ、自分の倍近くの体格を誇るロックゴーレムを地面に叩きつける。


あまりの衝撃にロックゴーレムの頑丈な岩石の肉体に亀裂が走り、やがて胸元に隠されていたミスリル鉱石が露出した。倒れたロックゴーレムは慌てて起き上がろうとしたが、その前に空中に飛んだコネコがロックゴーレムに目掛けて落下して蹴りを放つ。



「落脚!!」

「ゴガァアッ……!?」



コネコが両足を揃えてミスリル鉱石が露出した箇所に蹴りを叩き込むと、既に亀裂が走っていた箇所が更に衝撃を受けて広がり、ミスリル鉱石が浮き出る。その結果、ロックゴーレムの瞳の輝きが失われ、やがて糸が切れた人形のように動かなくなった。



「よし、これで3体目だ……あいててて、やっぱりこの技は足がいってぇっ……!!」

「ふう、今回のは大したことなかったな……ゴブリンキングと比べるとここらのロックゴーレムは物足りないな」

「マジかよ……デブリの兄ちゃんも何だかんだで化物だな」

「誰が化物だ!!僕は力士だ!!」



本来は物理攻撃に対して強い耐性を持つはずのロックゴーレムに対して、デブリは魔法の力を一切借りず、純粋な力で既に3体のロックゴーレムを破壊していた。巨人族の格闘家でも素手で倒すのは難しいと言われるロックゴーレムを倒す辺り、デブリも相当な強者に成長していた。


一方でコネコの方もバトルブーツを使いこなし、空を飛翔するだけではなく、攻撃にも利用している。更に先ほどの攻撃でコネコは新しい技を思いつきそうな気がする。



「よし、依頼分のミスリル鉱石は確保できただろう。コネコ、ミナの奴を呼んで来い」

「へいへい……あれ、ミナの姉ちゃんはあんちゃんと一緒じゃなかったのか?」

「え、僕は知らないぞ……てっきり、コネコに付いていったと思ったけど」

「いや、知らないけど……お~い、ミナの姉ちゃん!!何処行った~!?」



コネコとデブリは共に自分達と訪れたナオの姿が見えない事に気づき、彼女は何処へ行ったのか探す羽目になった。

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