第573話 これが付与魔術師だ
魔鉄槍を利用した飛行法でレナはカインに奇襲を仕掛け、彼の身体に向けてもう一つの魔鉄槍を繰り出す。カインは咄嗟に自分のランスを突き出そうとするが、予想以上のレナの魔鉄槍の移動速度によって今度は弾く事は出来ず、彼が身に付けた鎧越しに魔鉄槍が衝突した。
カインの飛竜が下降していた事もあり、カウンターの要領でレナの強烈な反撃を受けたカインは血反吐を吐き、彼を乗せた飛竜も体勢を崩してしまう。その様子を見て慌ててレナとヒリューが追いかけ、地上に衝突する寸前に身体を掴む。
「カイン大将軍!!」
「シャアアッ!!」
「ぐはっ……!?」
「シャウッ……!?」
地上に激突する寸前でどうにかレナとヒリューはカインたちを掴む事に成功すると、カインと飛竜は地面にゆっくりと降ろされる。その様子を見ていた地上の兵士達は唖然とした表情を浮かべるが、すぐにレナは声をかける。
「何してるんですか!!早く治療を!!」
「え、あっ……お、おい!!衛生兵!!」
「は、はい!!」
「ぐっ……必要ない、下がれ!!」
半ば意識を失いかけていたカインはレナの声を聞いて覚醒し、彼は治療のために駆けつけようとした兵士を下がらせた。カインは口元の血を拭うと、魔鉄槍を受けた自分の鎧に視線を向け、大きく凹んでいる事に気づく。
肋骨が何本か罅は入っているはずだが、それでもカインは表面上は冷静さを保ち、攻撃を受けた箇所を抑えながらも立ち上がる。飛竜の方は幸いにも体勢を崩されて落下しただけで大きな怪我はない事を確認すると、カインは安堵した表情を浮かべた。
「お前は無事だったか」
「シャアッ……」
「気にするな、今のは俺の不覚だ……よくやった」
飛竜は自分が墜落しかけた事に申し訳なさそうにカインに頭を押し付けると、カインは気にした風もなく頭を撫でた。その後、すぐに彼はレナに振り返ると魔鉄槍へと視線を向ける。
「今の攻撃は……お前の扱う付与魔法という奴か」
「あ、はい……付与魔法の力でこの魔鉄槍を飛ばして乗り物に利用しました」
「そんな事も出来るのか……これだから魔法というのはあまり好きになれん」
レナの言葉を聞いてカインは呆れた表情を浮かべるが、どちらにしろレナがカインを落としたという事実に変わりはなく、もしも実戦であればカインは地上に激突して死亡していただろう。
無論、カインの方もその気になればレナの命を奪う機会はいくらでもあった。だが、どれだけ言い訳をしようとカインが落とされたという事実に変わりはなく、彼はレナの行動を褒めようとした。
「見事な奇策だった。だが、次は通じないぞ」
「あ、はい……」
「しかし、まさか武器に乗って浮かぶとは……娘の話を聞いていたが、本当にお前は変わった魔術師だな」
カインはレナの付与魔法に驚かされた事を素直に認め、戦闘の最中にまさか武器として与えた魔鉄槍に乗って空を飛ぶなど予想も出来なかった。純粋な竜騎士ならば空中で飛竜から飛び降りて別の乗り物を利用するなど有り得ない発想であり、付与魔術師であるレナだからこそできた芸当だといえる。
しかし、先ほどの戦闘を見ていた人間の中にはレナの行動に納得できない者も存在したらしく、カインの配下の竜騎士の一人が二人のやり取りを見ていて怒りを抱く。
「い、今のは……竜騎士の戦い方ではない!!」
怒りのあまりに黙っていられずに叫び声をあげた竜騎士に対し、ここでレナは驚いて振り返ると、その竜騎士はかつて自分に尋問を行っていた騎士だと気づく。
後々に聞いた話によると尋問でありながらレナに対して脅迫紛いの行動をした事で処罰を受けたそうだが、その男はレナを指差して怒鳴りつける。
「竜騎士にとって槍とは命に等しい存在、その槍に乗り込んで戦うなど、騎士のする行為ではない!!」
「……何か勘違いしているようですけど、一つだけ言わせてください」
「な、なんだ!?」
レナは男の言葉に呆れた表情を浮かべ、ゆっくりと身体を向けると、堂々と一言告げた。
「俺は竜騎士じゃありません、付与魔術師です」
その一言に城内の中庭の人間は黙り込み、しばらくの間は沈黙が訪れる。やがてカインがこれ以上は我慢できないとばかりに口元をにやけさせ、笑い声をあげる。
「は、はははははっ!!その通りだ、この男は付与魔術師だ。ならば竜騎士のように戦う必要などない……そうだろう、皆の衆?」
「え、あっ……」
「そ、そうですね……」
「まあ、言われてみれば確かに……」
何時になく機嫌がよさそうなカインに兵士達は戸惑うが、言われてみれば確かに竜騎士ではないレナに対して竜騎士の戦い方ではないという批難を行うのはあまりにも滑稽な話だった。
レナに怒鳴りつけた騎士は顔を真っ赤にするが、カインの言葉を聞いて自分に味方する人間はいないと悟ると、その場にいるのは耐え切れずに黙って立ち去る。その様子を見てレナは自分がおかしな事を言ったのかと思ったが、カインは気にするなとばかりに肩を叩く。
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