第572話 魔槍戦術

――魔術師が王城に招集されてから二日経過すると、竜騎士隊の訓練にレナは参加し、魔鉄槍を駆使してカインと模擬戦を行う。王城の上空にて二人は飛竜を乗りこなしながら槍を交える。



「くっ、このっ……!!」

「無暗に突き出しても俺に勝てると思うな!!」

「シャアアッ!!」

「シャウッ!?」



ヒリューに乗り込んだレナはカインに向けて両手の魔鉄槍を繰り出すが、カインはそれに対して自分の乗る飛竜を操作して正面から迫ってきたヒリューの頭を蹴飛ばす。怯んでしまったヒリューは飛行を維持できずに落下してしまうが、すぐに耐性を整えて地上すれすれで浮上した。


どうにか墜落は免れたレナだったが、魔鉄槍を握りしめる腕が痺れ、いくら付与魔法を施して魔鉄槍の重量を軽減させているとはいえ、かれこれ数時間は訓練を続けて流石に体力の方が限界を迎えそうだった。



(相手は大将軍、分かってはいたけど……全然当たる気がしない!!)



訓練を続けていくうちにレナも飛竜の扱いは少しは慣れてきたが、それでもカインを相手に攻撃を当てる自身はなく、受け取った魔鉄槍も使いこなせない。そもそも魔術師であるレナが戦闘職である竜騎士のカインに槍で挑む事自体が普通ならばあり得ない話である。


闘拳を武器として扱う時もレナは剣闘士のキニクが直々に指導を受け、長い鍛錬を繰り返す事で闘拳で戦う技術を身に付けた。しかし、いくら身体を鍛えようとレナの根本は魔術師である事に変わりはなく、付与魔法を上手く戦闘技術に取り込んだ事で戦闘職の人間にも劣らぬ力を身に付ける事が出来た。


現在の訓練でも付与魔法は利用しているが、現時点では付与魔法はあくまでも補助にしか扱えておらず、闘拳の時のように武器と魔法が一体化した戦法ではない。今のレナは重量の大きい槍を抱えるためだけにしか付与魔法を使っていない。



(このままだと駄目だ……俺は騎士じゃない、ただ武器を振り回すだけじゃ勝てないんだ)



いくら訓練を続けようとカインには届かないと思ったレナはヒリューに乗った状態で考え、ここである事を思いつく。その方法を実践するにはカインと距離を開く必要があり、ヒリューに命じた。



「ヒリュー!!離れて!!」

「シャウッ!!」



レナの言葉にヒリューは即座に従うと、今までのようにカインを無策に追いかけまわすのではなく、逆にレナは自分から距離を取った。レナの行動を確認したカインは訝しげな表情を浮かべるが、すぐに自分の飛竜を方向転換させ、追跡を行う。


作戦通りに自分とカインの立場が逆転した事にレナは額に汗を流し、今考えた方法でカインを追い詰められるのかは不明だが、このままでは彼に勝てないと判断したレナは飛竜に合図を出す。



「ヒリュー!!上昇だ!!」

「シャアアアッ!!」

「何っ!!」

「シャウッ!?」



唐突なヒリューの急上昇にカインは驚き、上空へ目掛けて一直線に飛翔したヒリューの姿を見てカインは警戒心を抱き、追跡を中断した。その様子を確認したレナはある程度までヒリューを上昇させると、だいたい30メートル程離れた場所で停止させた。



「ヒリュー……行くぞ!!」

「シャアアアッ!!」

「愚かなっ……その程度の小細工で俺に勝てると思うか!!」

「シャアアッ!!」



上空から勢いをつけて降下してきたレナ達の姿を見てカインは激怒すると、彼はランスを構えて迎え撃とうとした。彼が乗る飛竜も上昇し、降下するヒリューと接近した瞬間、レナの魔鉄槍とカインのランスが激突した。



「螺旋槍!!」

「うわっ!?」



武器同士が激突する瞬間、カインのランスが高速回転を行い、娘のミナと同様の戦技を繰り出したカインにレナの右腕に掴んでいた魔鉄槍が弾かれ、地面に落下してしまう。


結果的には武器を弾かれるだけで済んだが、二人の位置は逆転し、今度はカインが上空からレナに攻撃を仕掛ける立場となった。



「終わりだ!!」

「くっ……まだだぁっ!!」

「シャアアッ!!」



上空から迫りくるカインと飛竜に対してレナは残された魔鉄槍を握りしめると、正面から向かう。カインは再び無造作に自分に挑んできたレナに怒りを抱き、先ほどのようにランスを使って魔鉄槍を弾き飛ばそうとしたとき、レナが唐突に飛竜から飛び降りてしまう。



「うおおおっ!!」

「何っ!?」



自分から叩き落される前にヒリューから飛び降りたレナを見てカインは呆気に取られ、現在の高度は地上から数十メートルは離れていた。仮に戦闘職の人間だろうとこの高さから落ちれば死は免れないが、レナは臆する様子もなく飛び降りる。


カインは最初はレナが自殺する気かと思ったが、すぐに彼の真下から近づいてくる物体を発見し、それを目撃したカインは目を見開く。一方でレナの方は口元に笑みを浮かべ、先ほどカインに弾き飛ばされた「魔鉄槍」に乗り込み、カインの元へ向かう。



「いっけぇえええっ!!」

「ぐおっ!?」



魔鉄槍をスケボ代わりに利用してレナは上昇すると、隙を作ったカインに目掛けて魔鉄槍を突き出す。

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