第571話 女帝と盗賊ギルドの同盟
「まあ、率直に言わせてもらうと俺は使者だ。七影の長から面倒ごとを頼まれてここへ来たというわけだ」
「七影の長だと……奴が私に何の用だ?」
七影の長という言葉にマガネは殺気を迸らせ、彼女の影が変化して周囲に広がっていく。その光景を目にしたヴァンパイアたちは恐怖の表情を浮かべ、一方でゴエモンの方も冷や汗を流す。
影の触手がゴエモンを取り囲む檻の中にまで入り込み、彼の足元にまで迫る。そんな光景を目にしてゴエモンは内心では「帰りてぇっ……」と思うが、表面所うは冷静を保って用件を伝えた。
「七影の長が会いたがっている。日時は明日の夕方、この奴隷街に訪れるそうだ」
「……あの用心深い男がここへ来るだと?」
「あの長がここに……!?」
「信じられない……」
マガネはゴエモンの言葉に驚きを隠せず、七影の長は滅多には裏街区には姿を現さない。しかも敵対しているはずの女帝の縄張りに直々に訪れるという事に配下のヴァンパイアたちも動揺を隠せず、何の目的で長が訪れるのかを問いただす。
「あの男がどうしてここに訪れる?まさか、今更和解したいとでも言い出すつもりか?それとも我々と全面戦争でも仕掛けるつもりか?」
「知らねえよ、俺はあんたらに長が会いたい事を伝えるように言われただけだ」
「ふん、七影の身でありながら使い捨ての駒にされたというわけか……哀れな男だ」
連絡を伝えるためならばわざわざ七影であるゴエモンを派遣する必要はなく、それこそ下っ端辺りに手紙でも持ち込ませれば良い話だった。マガネはゴエモンが捨て駒として派遣されたと判断すると、彼女はゴエモンの肉体を拘束する。
影の触手によって捕まったゴエモンは苦痛の表情を浮かべ、徐々に魔力が吸収される感覚を味わう。このままでは命が危ういが、この影の触手は力では引き剥がす事は出来ない。
「が、ああっ……!?」
「哀れな男だ……このまま廃人にしてやろうか?さあ、他に何を隠している!!」
「ぐうっ……し、知らねえよっ……がはぁっ!?」
「ちっ……」
マガネはつまらなそうな表情を浮かべてゴエモンを影の触手から解放すると、ゴエモンは身体中の水分が吸収されたかのようにやせ細り、檻の中に倒れる。この男の性格を知っているマガネは仮にゴエモンが七影の長から命令を受けているのならば痛めつければ話すと思ったが、どうやら本当に先ほどの用件の内容以外は何も知らされていないらしい。
盗賊ギルドの七影という立場を与えられながらも、ゴエモンは仲間意識が低く、自分の利益を優先して動く男だと彼女は認識していた。実際に盗賊ギルドの方もゴエモンを七影として迎え入れているのはあくまでも彼の能力を買っているだけに過ぎず、性格面は信用していなかった。
過去にマガネはゴエモンと取引を行ったこともあり、どのような男なのかを理解しているつもりだった。だからこそ、ゴエモンが他に重要な情報を持っていれば痛めつけるだけで話すと思ったのだが、本当に何も知らないのか最後まで口を割らなかった。
(何を考えている……あの老人め)
七影の長の考えは読めないが、相手の方から訪れるというのであれば女帝も戦力を用意する必要があり、最悪の場合は盗賊ギルドと全面戦争へ陥る。マガネは七影の長が何を考えているのか理解できなかったが、もしも相手が戦争を仕掛けるつもりならば彼女も容赦はしない。
裏街区を占拠する盗賊ギルドと女帝は過去に幾度か抗争を行ったが、結果から言えば盗賊ギルドは一度たりとも女帝に勝利した事はない。しかし、負けた事がないからといって女帝側も被害を受けなかったわけではない。仮に抗争へと発展すればどちらも相応の被害を被るだろう。
「その男を地下牢に入れておけ、その状態では逃げ出す事は出来ないだろう」
「よろしいのですか?殺さなくて……」
「……何か情報を持っているかもしれない、今は監禁に留めておく」
「はっ!!」
部下の言葉にマガネは一瞬考えたが、やはり殺す事はせずにゴエモンを監禁させる。先ほどの拷問で何も喋らなかった時点でゴエモンから有力な情報を得られる可能性は低いが、それでも万が一の可能性を考慮して彼女はゴエモンを牢屋へと運ばせる。
彼女は空を運ばれていくゴエモンに視線を向け、七影でありながら捨て駒として利用された彼に憐れみを抱き、事が終われば彼を奴隷街の住民として受け入れる事に決めた。但し、その時はもう彼は通常の精神ではいられないだろう。
この街の住民は殆どが正気を保っていられないのは彼女の力とヴァンパイアが関係しており、魔人族である彼女たちが生きていくにはどうしても人間という存在が必要不可欠だった。だからこそ彼女達は奴隷街の住民には決して手荒な真似はしない。しかし、その代わりに彼等はもう真っ当な人生を送る事が出来なくなるが、それを承知したうえでこの奴隷街の住民たちはここへ暮らす事を決意した。
(私達の「国」を侵す存在は、何者だろうと許さない……)
マガネは目つきを鋭くさせ、やがて部下を引き連れると奴隷街の見回りへと出向く。その様子をかつてレナ達に助言を行った老人が路地裏で覗き込み、淡々と呟く。
「生まれた時から籠の中で育った鳥は、外へ暮らす術も知らぬか」
老人はそれだけを告げると、路地裏の暗闇の中に姿を消す――
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