第570話 自分にできる事
「皆さんの気持ちは分かりますが、私ではどうする事も出来ません……申し訳ありません」
「そんな、イルミナ副団長が謝る事では……」
「くそっ……じゃあ、あたし達は何もせずに留守番してる事しか出来ないのかよ!?」
イルミナの謝罪にドリスは慌てふためき、一方でコネコはレナの力になれない事に悔しがる。だが、そんな彼女達を目にしてイルミナはある事を問う。
「いえ、力になれないとは限りませんよ。皆さん、先日に渡した依頼書の方はどうなっていますか?」
「え?ああ、私はもう10件は達成しましたわ」
「凄いな!?僕はまだ5件だぞ」
「7件です」
「えっと……確か6件だったかな?」
「……あたしは3件」
ルイに命じられてからミナ達は依頼を引き受け、順調に依頼を達成していた。冒険者として着実に実績を上げている事は喜ばしく、イルミナは助言を行う。
「もしもレナ様の力になりたいというのであれば皆さんのやるべき事は今は依頼の達成に集中するべきだと思います。レナ様たちが無事に戻ってきたとき、皆さんが依頼書を全て果たす事が出来ればレナ様も晴れて黄金級冒険者の昇格試験を受けられる事が出来ます」
「そ、そうだな……兄ちゃんのために頑張らないとな」
「シノの奴も本業が忙しいらしいけど、時間があるときは仕事をしているみたいだぞ。この間に会ったときは確か4件は達成したとか……」
「げっ!?あたし、シノの姉ちゃんよりも少なかったのか!?くっそぉっ……負けてたまるか!!」
「あ、コネコさん!?何処へ行くんですの!?」
ダリル商会で用心棒を兼業しているシノにさえも依頼の達成数で劣っていると知ったコネコは立ち上がると、すぐにでも依頼を引き受けるために駆け出す。そんな彼女を慌てて他の者たちが追いかけるが、その様子を見送ったイルミナはため息を吐き出す。
それらしい理由を並べて今回は誤魔化す事に成功したが、イルミナとしては彼女達の気持ちは痛いほどに分かった。自分も火竜の討伐隊として参加したルイ達のために力になりたいとは思っているが、現状では何もできない。
(団長……私はどうすればいいんですか)
ルイがイルミナをこの王都に残す理由は火竜以外の脅威に対抗するため、彼女の力が必要だと判断したのだろう。その脅威というのも既にイルミナは心当たりがあった。しかし、もしもルイの予想が的中していた場合、この王都は恐らくは戦場と化す。
戦場と化した王都をイルミナは自分と残された金色の隼の勢力だけで人々を守る事が出来るのかと不安を抱くが、失敗は許されない。そう考えたイルミナは気を引き締める――
――同時刻、裏街区の奴隷街の方にも異変が生じていた。女帝が管理するはずの縄張りに一人の男が訪れ、即座に女帝の頭であるマガネの元にも情報が届く。彼女は訪れた男の話を聞いて驚きを隠せず、すぐに女帝の幹部を引きそろえて男を拘束させた。
その男の正体は七影の一人にしてマガネとも因縁がある男性であり、先日に同胞のジャックが騒ぎを起こしたばかりだというのに自分達の縄張りに入り込んできた男に彼女は冷たく対応する。
「ゴエモン、今更何の用だ」
「おいおい、久しぶりの再会だっていうのに……こんな仕打ちは酷いんじゃないのか?」
「ふざけた口をきくな!!この方を誰だと思っている!?」
奴隷街に訪れた男の正体は「ゴエモン」だと知ると、マガネは即座に配下のヴァンパイアたちを使い、彼を拘束させる。手足を縛りつけ、更に魔獣用の檻の中に閉じ込められたゴエモンはマガネが訪れると口元に笑みを浮かべて軽口をたたく。
盗賊としては優秀なゴエモンならばこの程度の拘束など抜け出すのは簡単な事だったが、彼はここへ訪れたのはマガネに会うためでもあり、敢えてわざと捕まって彼はマガネと向かい合う。マガネとしてはこのゴエモンという男は七影の中では最も買っているが、だからといって勝手に縄張りを犯した存在を許すはずがない。
「ゴエモン、今更何の用だ?盗賊ギルドを見限り、私達の傘下に加わりにでも来たのか?」
「それは御免だな、別に盗賊ギルドなんぞに愛着はないが、ここの住民どものようにあんたらに飼いならされるのは御免だ。俺は女に飼われるよりも飼う方が好きなんでね」
「ならば何しに現れた?」
大の女好きではあるゴエモンだが、流石に自分を廃人にしかねない危険な能力を持ち合わせるヴァンパイア集団に従うつもりはなく、きっぱりとマガネの言葉を否定する。そんな彼に対してマガネは目つきを鋭くさせ、要件を聞く。
本音を言えばマガネとしてもゴエモンを味方にしたいという言葉は嘘ではなく、彼の盗賊としての能力は非常に買っていた。何十年も捕まり続ける事もなく怪盗を続けていた彼の手腕は買っているが、それでも敵対組織の幹部である以上は容赦はしない。ゴエモンの返答によってはここで彼を殺す事を決めた。
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