第569話 イルミナの苦悩

「イルミナさん!!お願いします、どうか僕達も一緒にレナ君と戦わせてください!!」

「そうだぞ!!あたし達だって兄ちゃんと戦いたいんだ!!」

「レナだけに危険な目に遭わせて、僕達だけが王都でぬくぬくと留守番なんて出来るか!!」

「その通りですわ!!それに魔術師が招集されているのであれば私も同行する権利があるのでは!?」

「僕も納得できません、どうして僕達の参加は認められないんですか?」

「……皆さん、落ち着いてください」



イルミナは団長の部屋にてミナたちと向かい合い、彼女達はどうしてレナだけが討伐隊に参加して自分達はここに残らなければならないのかを問う。そんなミナ達に対してイルミナは表面上は冷静に対処を行う。



「今回の討伐隊の選定に関してはカイン大将軍とマドウ大魔導士が決めた事です。だから、私どころか団長に訴えたとしても討伐隊に参加する事は出来ません」

「で、ですが王都中の魔術師が招集されているという噂は聞いていますわ!!どうして私の元には連絡が届いていないのですか?」

「それはドリスさんが正式な冒険者として認められていないからです」



王都に暮らす魔術師の殆どは国側から討伐隊の参加要請を受けているはずだが、ドリスの元にはその連絡は届いていなかった。


同じ魔法学園の生徒であるレナの元には将軍であるゴロウが直々に赴いたのに自分の元には来なかった事にドリスは納得できないが、イルミナの推察では彼女が正式に冒険者として登録されていない事が原因だという。



「便宜上はドリスさんは金色の隼の団員ではありますが、まだ正式に冒険者ギルドから冒険者とは認められていません。もちろん、冒険者の資格は与えられていますが現在のドリスさんはバッジも所有しておらず、あくまでも正規の冒険者ではありません」

「そ、それが何か関係あるのですか?」

「今回の討伐隊には冒険者も多く参加しています。しかし、彼等の殆どは白銀級以上の階級の者たちばかりです。ですが、残念ながらドリスさんの場合は正式にまだバッジも発行されていないので参加は認められなかったのでしょう」

「でも、レナさんだって一緒ではないですか!?」

「レナさんの場合は学園の入学前から元々冒険者活動を行っていた事、白銀級冒険者の昇格が認められるほどの実績も持っています。それにマドウ大魔導士がレナさんを推挙したと伺っています」

「そ、そんな……」



レナが参加を認められたのに自分だけが参加できないという事にドリスは衝撃を受け、ナオはそんな彼女を支えながらイルミナに尋ねる。



「なら、僕達が参加できないのは……」

「ドリスさんと同様です。確かに今回の討伐隊には戦闘職の冒険者も多くが参加していますが、今回の作戦の要となるのは魔術師です。だからこそ戦闘職の冒険者と兵士は魔術師の援護を行う役割を与えられています」

「僕達が参加できないのもドリスと同じ理由なのか……」

「残念ですが……」



正式な冒険者と認められていない以上はドリス以外の者たちも討伐隊に参加する資格はなく、どうにか出来ないのかとミナ達はイルミナに詰め寄るが、彼女ではどうしようも出来ない事を示すように首を振った。


イルミナとしては今回の討伐隊の参加をレナ以外の者たちが認められなかった理由は別にもあると考え、恐らくはまだ年若く、未来ある若者たちが命を散らすような真似をさせたくはないというマドウやゴロウの配慮もあったのだろう。だからこそ正規の冒険者ではないという理由でミナ達の参加は認めず、レナに関しては残念ながら彼の能力の優秀さが災いして参加認めざるを得なかったのだとイルミナは考えていた。



「本当にどうしようもないのかよ……くそ、兄ちゃんが危険な目に遭ってるのにあたし達は何も出来ないのかよ!!」

「お気持ちは察します……正直に言えば私も討伐隊には参加したかったですが、団長の言い付けでここを離れられません」

「え、どうして……イルミナ副団長の実力ならば討伐隊にも参加要請が来たのでは?」

「私の場合は団長の方から要請を断られました。理由はもしも火竜の討伐に失敗した場合、この王都に戦力を残しておかなければならないそうです……最も、火竜が討伐隊を破った場合は私程度の力で止められるはずがないのに」



実力的にはこの国でも指折りの魔術師であるイルミナが討伐隊に参加せず、クランハウスに留まっている理由はルイが勝手に彼女の要請を断ったからだった。当然だがイルミナの方もルイの判断に不満を告げたが、ルイは聞き入れずに王都の守備を彼女に任せて行ってしまう。


いつも勝手な判断でイルミナを困らせるルイだが、今回ばかりは流石のイルミナも怒りを覚えた。しかし、ルイは去り際にイルミナにある事を頼む。



『あの子たちを頼むよ……それと、もしかしたら火竜以外の脅威が王都に訪れるかもしれない』



ルイの言葉を思い出したイルミナは窓の外に視線を向け、ルイの告げた火竜とは別の「脅威」の正体が気にかかり、ここを離れる事が出来なかった。

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