第568話 魔鉄槍
運び出された木箱を確認してレナは戸惑うが、カインは木箱を開けるように兵士に指示を出す。木箱の蓋が開けられると、そこには「ランス」を想像させる形状の大きな槍が入っていた。
「これは……!?」
「正式な名前は付けられていないが、便宜上は我々は「魔鉄槍」と呼んでいる」
「魔鉄槍?」
レナは目の前に置かれた二つの槍に驚き、どちらも大きさは3メートルは存在した。カインによると素材は鋼鉄とミスリルの合金らしく、通常のランスよりも重量があるため、飛竜で運び込ませたという。
魔鉄槍という名の大型のランスを前にしてレナは戸惑い、どうしてこんな物を自分に見せつけてきたのかと思うが、ここでランスに地属性の魔石が複数取り付けられている事に気づく。
「この魔鉄槍は本来は槍騎士の武器として開発された代物だが、正直に言えば失敗作だ」
「失敗作?」
「強度の強化を図るために鋼鉄とミスリルを組み合わせて作り出されたが、予想以上に重量が重くなり、巨人族以外には扱えない武器になってしまった。だからこそ今までは武器庫に保管されていたが、マドウ大魔導士からお前が地属性の魔石を取りつければどんな物体も操作する事が出来ると聞いてな」
「まさか……これを操るんですか?」
カインの言葉にレナは驚きを隠せず、目の前に並べられた二つの魔鉄槍を前にして冷や汗を流す。今までにも馬車や岩石といった規模も重量も大きい物体を操った事があるレナならば魔鉄槍でも動かせる事が出来るだろうが、これを武器として扱えというカインの提案に戸惑いを隠せない。
「飛竜に乗り込む以上、火竜との直接対決は避けられん。そのためにはお前も武器が必要だろう」
「それは……そう、ですね」
「今からお前にはこの武器を使いこなしてもらうように訓練を行う。さあ、まずはそいつを持ち上げてみろ」
「は、はい……」
レナは言われるがままに魔鉄槍を掴み、付与魔法を施す。地属性の魔石が取り付けられたお陰で魔鉄槍の重量を軽くさせて持ち上げると、周囲の人々はレナが3メートルを超える巨大なランスを軽々と持ち上げたように見えて驚く。
もう片方の魔鉄槍にも同じようにレナは付与魔法を施して持ち上げると、両手で魔鉄槍を構える。だが、槍を扱うなど魔法学園の騎士科の訓練でしか経験はなく、その様子を見てカインは本当に魔鉄槍を持ち上げたレナに感心したように頷いた。
「ほう、大魔導士の言葉通りに本当に地属性の魔石を取りつければどんな物でも持ち上げる事が出来るのか。付与魔法というのも馬鹿には出来んな」
「ど、どうも……」
「だが、持ち上げただけでは意味はない。その武器をお前が扱いこなせるようになるまでは俺が直々に訓練を見てやろう」
「えっ」
さらりととんでもない事を言い出したカインにレナは呆気に取られるが、カインは自分の飛竜を呼び出すと、レナの身に付けている魔鉄槍にも匹敵する大型のランスを片腕で持ち上げ、飛竜に乗り込む。
「さあ、お前もヒリューに乗れ!!今から訓練を開始する!!」
「ええっ!?」
「シャアアッ!!」
カインの言葉にヒリューがレナの元に身体を屈めると、本気でこのまま訓練を始めるつもりらしく、先にカインは飛竜に乗り込んで空へと飛び立つ。その様子をレナは唖然とした表情を浮かべ、まさか本当に今から大将軍を相手に訓練を行うのかと驚きを隠せない。
慌ててレナは二つの魔鉄槍を持ち上げるとヒリューに乗り込み、カインの後を追う。その様子を見ていた者たちも呆然とした表情を浮かべ、大将軍が直々に訓練を見るのも驚きだが、一方で魔鉄槍を軽々と扱い、飛竜を乗りこなすレナに対しても誰もが信じられない表情を浮かべていた。
「さあ、行くぞ!!まずは槍を身に付けた状態での飛行法を学べ!!」
「くっ……!?」
「どうした、そんな速度では火竜に立ち向かえんぞ!!もっと速度を出せ!!」
「シャアアッ!!」
両手に大型のランスを抱えた状態での飛行は難しく、レナは必死にヒリューから落ちないように気を付けながらカインの後を追う。その様子を定期的に確認しながらもカインは王城の上空を飛び回り、時間のある限りはレナに指導を行う。
「どうした!!速度がどんどんと落ちているぞ、そんな事で火竜に勝てると思っているのか!!そんな事では大切な人間を守る事も出来んぞ!!」
「……うおおおっ!!」
大切な人間を守れないという言葉にレナは奮起すると、意地でもカインの訓練を受けて飛竜の乗り方を学ぶ。もう二度と大切な人間を失うのを経験したくないレナは魔鉄槍を握りしめ、カインの後を追う――
――同時刻、金色の隼のクランハウスの方でもレナの仲間達が集まり、団長のルイが不在の間、団長代理を任せられたイルミナに直談判していた。
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