第567話 レナの役目

――作戦の内容を伝えられた後、集められた魔術師達はその後は部隊分けが行われる。魔術師と言っても全員が同じ称号を持っているわけではなく、まずは攻撃力が高い「砲撃魔導士」の称号を持つ魔術師が今回の作戦の要と言える。


砲撃魔法が扱える彼等は魔術兵と魔導士に直々に指導を受け、砲撃魔法の精度の向上、魔法発動後の間隔を開き、どの程度の時間があれば威力を落とさずに次の魔法を発動させるのかを確認する。砲撃魔法は威力が高い分、反面に魔力の消耗量が多いため連発には不向きだが、今回は数の暴力を利用して火竜に攻撃を与える手はずだった。


頑丈な肉体を持つ火竜を倒すには火力が高い砲撃魔法が一番の有効打だと思われるため、基本的には訓練は砲撃魔導士を中心に行われる。一方で他に集められた魔術師達の役目は彼等と兵士の援護の役割を与えられた。そして付与魔術師であるレナの場合は更に特別な役目が用意されていた。



「えっ……俺も一緒に竜騎士隊の人たちと戦うんですか?」

「その通りだ」



レナは直々にカインに呼び出され、彼の口からレナは他の魔術師と一緒に戦うのではなく、竜騎士隊と同行して火竜を引きつける役目を与えられた。カインの言葉にレナは動揺を隠せず、どうして遠距離攻撃が不得手な自分が竜騎士達と共に火竜に挑むのかを尋ねる。



「あの、俺の付与魔法は遠距離攻撃が不得手なんです。一応は衝撃波を生み出す事は出来ますけど、砲撃魔法と比べたら射程距離も短いですし……」

「知っている。大魔導士とジオから聞かされているからな、だがそれでも俺はお前を連れていく事を決めた」

「ど、どうして?」



敢えて遠距離攻撃が苦手な自分を同行させるというカインの判断にレナは戸惑うが、カインは兵士に命じて一頭の飛竜を連れ出す。その飛竜には見覚えがあり、ミナに懐いていた「ヒリュー」という名前の飛竜だった。


この飛竜は珍しい事に竜騎士ではないミナを背中に乗せて空を飛ぶため、竜騎士隊が扱う飛竜の中でも特別な個体だった。アルトが最も気に入っている飛竜でもあるのだが、ヒリューはレナに気づくと嬉しそうに駆け寄る。



「シャアアッ♪」

「うわっ……ヒリュー君、久しぶりだね」

「ほう、既に知っていたか……そのヒリューだけは昔からミナが面倒を見ていたせいか人間に対する警戒心が低い。だからこそ気に入った相手なら背中に乗せてくれる」

「シャウッ?」



竜騎士隊の飛竜の中でもヒリューは性格は温厚で人懐っこく、自分が懐いてる相手ならば背中に乗せてくれるという。ヒリューはレナの事を覚えていたらしく、彼に頭を摺り寄せる。その様子を見たカインはレナにヒリューに乗って共に戦う事を指示した。



「そのヒリューをお前に一時的に預ける、竜騎士ではないお前が飛竜を乗りこなせるかは分からないが、その子は頭が良い。危機を察知したら自分で動いてお前を守ってくれるだろう」

「え、でも……この子は大切な飛竜なんじゃないんですか?」

「今は少しでも戦力を増やしておきたい、だからこそアルト王子のお気に入りだろうと特別扱いするわけにはいかない。それにそのヒリュー以外に普通の人間を乗せるような飛竜はいない」

「シャアッ!!」



ヒリューはレナの前で実を屈めると、背中に乗る様に促す。何度かミナが傍に居た時は彼女に頼んでミナの後ろに乗せてもらったとあるが、自分一人で乗り込むのは初めてなレナは戸惑いながらも乗り込む。


レナが乗り込むと飛竜は嬉しそうにその場を駆け回り、その様子を見ていたカインは自分の思った通りにヒリューを乗りこなすレナを見て彼は合図を出す。



「ヒリュー!!飛べっ!!」

「シャアアアッ!!」

「うわっ!?」



カインが合図を出すと飛竜は咆哮を上げながら飛び立ち、慌ててレナは飛ばされないようにしっかりとヒリューの身体にしがみつくと、瞬く間にヒリューは王城の上空へと移動した。


移動速度に関しては初速の時点でスケボよりも若干早く、しかも徐々に移動速度が上昇していた。街中で襲ってきた飛竜よりもヒリューの方が素早く立ち回り、レナは驚きながらも空を翔けまわるヒリューの背中の上で興奮する。



(凄い……!!これが飛竜か!!)



飛竜は最高速度を維持したまま何時間も飛べるだけではなく、人間を背中に乗せても殆ど速度を落とさない。振り落とされないようにレナは付与魔法を利用してしっかりと足元を固定すると、飛竜は旋回して地上へと降り立つ。


唐突に飛竜が降りてきたことに中庭に存在した兵士たちが驚くが、その様子を確認してカインは頷くと、レナは若干興奮気味に答える。



「これは……凄いですね、こんなに早く動けるなんて思いませんでした!!」

「そうだろうな、飛竜の素晴らしさは実際に乗り込んでみなければ分からない。だが、乗りこなすだけでは駄目だ。お前にも戦ってもらう必要がある」

「えっ……?」

「おい、あれを用意しろ!!」



カインは配下の兵士に指示を出すと、しばらく時間が経過した後に2頭の飛竜が中庭に現れ、何か荷物を運んできたのか大きな木箱を鍵爪で運び出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る