第566話 討伐部隊の結成
――後日、王城の元には数多くの魔術師が集まっていた。恐らくは王都内に存在するほぼ全ての魔術師の称号を持つ者たちが集められ、その中にはレナも含まれていた。彼等は全員が中庭の方へと集まり、大将軍であるカイン、第一将軍のゴロウ、第二将軍のジオ、そして大魔導士のマドウと魔導士筆頭のサブの姿もあった。
「よくぞ集まってくれた未来の英雄達よ!!君たちは我々と共に火竜を内倒し、共にこの国の平和を取り戻すのだ!!」
『…………』
カインの演説に対して誰もが反応が出来ず、顔色が暗かった。当然と言えば当然の話であり、これから自分たちが挑む相手は災害の象徴である竜種、緊張しない方がおかしかった。
しかし、この場に集まった者たちは火竜を倒すという要請を引き受け、戦う覚悟を決めて集まった人材である。火竜を倒さなければヒトノ国に平和はなく、安心して暮らす事は出来ない。
大切な家族、友人、恋人を守るためにこの場所に彼等は集まり、火竜と戦うために自分達は何をするべきか指示を仰ぐようにカインに視線を向ける。その気持ちが通じたのかカインは不要な前振りを行わず、率直に作戦を発表した。
「火竜を討伐するため、我々が考えた作戦は火竜を湖から引き離し、開けた場所へと誘いこむ必要がある!!そのために火竜を湖から誘導するための役目は我が竜騎士隊に任せてもらおう!!」
『おおっ……!!』
竜騎士隊という言葉に俯き気味だった魔術師達も顔を上げ、カインが合図を出すと十数体の飛竜が中庭の上空へと姿を現す。その様子を見て他の者たちは驚き、戸惑う。初めて飛竜を見た人間は竜騎士を乗せる飛竜の姿に感動を覚える。
火竜と比べると危険度は低いが、仮にも竜種である飛竜を竜騎士が乗りこなす光景に魔術師達は期待感が高まり、ヒトノ国最強の軍隊が味方をしている事を強く意識した。
「作戦の第一段階は我々が火竜が住処にしている湖の小島に挑み、火竜を刺激して外へと誘導させる。その後は湖から離れた場所に存在する平地に火竜を誘い込み、事前に伏せていた君たちの魔法で一斉攻撃を行う。ここまでが第二段階だ!!最後にここにいる大魔導士が最上級魔法を発動させ、火竜を確実に仕留める!!」
「さ、最上級魔法……!!」
「あの禁呪と呼ばれた伝説の魔法か……!?」
「発動させれば山一つを消し去ることが出来るという究極破壊魔法……」
最上級魔法の名前を出すと魔術師達に動揺が走り、歴史上でも最上級魔法を扱える人間は滅多にいない。存在だけは有名で一般人の間にも伝わっているが、実際に最上級魔法を見たという人間はいない。
大魔導士マドウが最上級魔法を使うという事に魔術師達は更に士気が高まるが、一方でレナの方はマドウの顔を確認する。マドウはいつも通りの態度を取っているが、若干だが表情に陰りを感じた。
(マドウ大魔導士……そんな魔法を使っても大丈夫なのかな)
出来る事ならばマドウを慕うレナとしては最上級魔法などという危険な魔法の行使はさせたくはない。しかし、相手が火竜とあれば無茶をしなければ勝てず、十中八九はマドウの力が必要になるだろう。
マドウが無理をしなければ勝てない相手と言えば仕方がない話だが、それでもレナは最上級魔法を使う前に火竜を倒しきる展開になるように自分も頑張って戦う事を決める。
「では、これより今回の討伐隊の援護役として呼び寄せた冒険者達を紹介する。まずは金色の隼から団長のルイ、重騎士カツ、格闘家ダンゾウ!!」
『うおおっ!?』
現役の黄金級冒険者であるルイ、カツ、ダンゾウの3名が現れると魔術師だけではなく、兵士たちも歓声を上げる。それだけ金色の隼がどれほど知名度がある存在なのかを思い知らされ、団長であるルイはいつも通りに余裕の笑みを浮かべながら登場した。
カツは今回は戦斧と大盾を背負い、ダンゾウの方は背中に二つの巨大な棍棒を抱えていた。格闘家といっても別に素手だけで戦うわけではなく、武器を扱う事も多い。また、この3名以外いにも王都に所属する金級や白銀級の冒険者が続々と集う。
「……以上、合計で50名の冒険者が君たちの援護係として動く手はずになっている。彼等の役目は君たちを火竜の脅威から守るためだが、場合によっては君たち自身が彼等を援護する役目も担ってもらう」
「また、彼等以外にも我々が事前に派遣した部隊も存在する!!だが、決して我々が守るからと言って安全だとは油断してはならないぞ!!火竜との戦闘では何が起きるか分からない、油断だけは絶対にしないように!!」
カインの言葉の後にジオが注意を促すと、冒険者が援護してくれると聞いて安心しきっていた人間は一気に表情を引き締め、改めて火竜との決戦を意識した。確かにジオの言う通り、どれだけの護衛役がそろおうと火竜との戦闘に入れば身を危険に晒す事に変わりはない。
一瞬の油断が命取りになるのは戦場では当たり前の事であり、今回の火竜の討伐は只の魔物討伐などではなく、人間と竜種の戦だと捉えなければならない。それほどまでの覚悟を抱かなければ生き残ることは出来ないと考えた方がいいだろう。
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