火竜 決戦準備編
第565話 討伐要請
――マドウが帰還してから更に数日の時が流れ、遂にヒトノ国は火竜を討伐するための軍隊を派遣する事が決まった。相手は災害の象徴である竜種、そのため討伐のためには王都の戦力を集結させる必要があった。
火竜を倒す際に最も戦力として期待されるのが「魔術師」であった。王都内に存在する魔導士、魔術兵だけでは足らず、魔法学園の魔法科に所属する生徒さえも呼び出された。本来ならば子供である彼等を火竜との戦闘に参加させるなどあってはならない話だが、仮に討伐軍が火竜に敗れれば火竜の脅威は王都にまで及ぶ。
但し、今回の招集は決して強制的ではなく、あくまでも魔法科の生徒のみは自分の意思で火竜との戦闘に参加するかを決める権利が与えられた。いくら魔術師と言えど、実戦経験の少ない人間を連れていく事には不安もあるという理由もあり、同時に彼等の意思を尊重したマドウの計らいだった。
そして魔法科の生徒ではないが、国内では指折りの実力を持つとレナの元にも将軍であるゴロウが訪れ、火竜との戦闘に参加するべきか否かを問われる。
「火竜との決戦、ですか?」
「ああ、正直に言えば教師としてお前に死んでほしくないと思っているが……将軍の俺としてはお前が参加してくれれば心強いと思っている」
「そんな……」
レナはダリルの屋敷にてゴロウから話を伝えられ、火竜との決戦に参加するかしないかを問われる。その質問に真っ先に反応したのは保護者であり、レナの親代わりでもあるダリルだった。
「ふ、ふざけるな!!そんな危険な真似、レナにさせるわけがないだろう!!」
「ダリルさん」
「こ、こいつは……いくら強いといってもまだ14歳のガキだぞ!?そんな危険な目に遭わせられるか!!帰れ、帰ってくれ!!」
「……だが、イチノが窮地の時に彼がゴブリンキングの軍勢を相手に戦うために訪れたと聞いているが」
ダリルはゴロウに出ていくように促すが、ゴロウとしても簡単には引き下がれず、レナがイチノが窮地の時に危険を承知で仲間達と戻ったときの話をする。その話を聞くとダリルは表情を引きつらせ、すぐに怒鳴りつけた。
「イチノの時は仕方なかったんだ!!あの街にはレナにとっては大切な人間がいっぱいいた、それに一人で行ったわけじゃない!!金色の隼だって一緒だった!!」
「しかし、軍勢を相手にする以上は命を落とす覚悟もあったはずだ。それに大切な人間を守るために戦ったというのであれば、この王都にも大切な人間がいるだろう。いや、いるはずだ……その人間達のためにもどうか戦ってほしい。火竜を討伐しない限り、この王都が火竜に蹂躙される危険が常に付きまとう」
「そ、そんな事……仮に火竜が現れても逃げればいいだけだろう!!」
「この王都を離れられない人間だっている、俺も家族もここに住んでいる。無論、俺以外の人間もそうだ。数多くの人間がこの王都から離れる事は出来ない、離れられない……だから何としても火竜を倒さなければならない」
「で、でも……」
「これは戦争だ。負ければ大勢の人間の命を失う……だからこそ失敗は許されない、なんとしても火竜を討伐しなければならない」
ゴロウはそういうと立ち上がり、その場で頭を下げた。この国の第一将軍を務めるゴロウが頭を下げてきたことにダリルは驚愕し、レナも戸惑う。
将軍ではあるが魔法学園の教師として働いていたゴロウとしても自分の教え子であるレナを戦場へと連れていく事に対して正しい事なのかと疑問を抱いている。それでも彼は国を守る将軍としての義務を果たすため、どうしてもレナに同行を願った。
「
「そんな……ど、どうしてレナなんだ……なんで、レナだけがいつもこんなな目に」
「もういいじゃねえかダリル」
黙って話を遠目で見ていたゴイルが割込み、動揺するダリルの肩を掴む。その一方でムクチの方も先ほどから考え込んでいるレナの肩を掴み、どうするべきかを尋ねる。
「レナ、お前が決めろ。お前が自分で考えて、判断するんだ。俺達はお前の味方だ、お前がどんな判断をしようと力になろう」
「ムクチさん……」
「レナ……本当ならばゆっくり考えて欲しいが、時間がない。今ここで決めてくれ……お前の返事を聞かせてくれ」
「俺は……」
顔を上げたゴロウにレナは顔を向けると、ゴロウも辛そうな表情を浮かべていた。それは将軍としての立場であるが故に教え子であるレナを危地に招く事に彼も葛藤を抱いており、ここでレナが断ったとしてもゴロウは怒らずに引き下がるだろう。
しかし、レナはゴロウの話を思い返し、火竜を討伐できなければ王都が危機に晒されるという言葉は不思議と納得できた。今この時も火竜が王都に攻め込む可能性もあり、そうなれば王都は壊滅してしまう。そんな事態に陥ればレナが王都で出会った大切な人たちも危険に晒されてしまう。
考え抜いたうえでレナは覚悟を決め、ゴロウに返事を行った――
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