第563話 金色の隼、女帝、盗賊ギルド

「お~い、何してんだよ兄ちゃん?皆待ってるぞ?」

「あ、ごめん。すぐに行くから!!じゃあ、失礼します」



部屋の外からコネコに呼びかけられてレナは最後にルイとイルミナに頭を下げると退室する。その様子を見送ったルイは椅子から立ち上がり、窓の外の様子を確認した。そんな彼女にイルミナは少し気になった風に話しかける。



「団長、レナ君の事をどう思ってるのですか?」

「そうだな……今回の一件は流石に僕も見込み違いかと思ったが、さっきの発言で見直したよ。冷静に考えたら年齢的にはまだ子供なんだから、感情を優先して行動してしまうのも仕方がない事かもしれない」

「結局のところは友人を救うために行動したのは間違いありません。しかし、碌な情報も収集せずに裏街区に踏み入るのは少々無謀かと思いますが……」

「ああ、ドリス君から相談された時は肝が冷えたよ……」



最初にドリスがクランハウスに訪れ、レナ達が裏街区に3人だけで向かったと聞いたときはルイもイルミナも取り乱したが、結果的には無事に帰ってこられた事は幸いだった。


裏街区の危険性はルイもイルミナもよく理解しており、彼女達もあの場所に踏み入れるときは命を落とす覚悟を抱かなければならない。それほどまでに裏街区は危険な場所だった。それこそ王都に配備されている軍隊でさえも迂闊に近づけないほど危険が潜んでいる。



「それにしても女帝に貸しを作ってしまったか……これは次に会ったときに何を要求されるか怖いな」

「申し訳ありません、私の勝手な判断で……」

「いや、イルミナの判断は間違っていないよ。仮に私がその場にいても同じようにしただろう……女帝を敵に回すのはまずい、彼女達と戦う事になるとすればこちらも相応の被害を受けるだろう」



盗賊ギルドと対を為す闇ギルド「女帝」その存在は世間には知られていないが、彼女達の勢力は決して侮れない。女帝に所属する人員の全員は「魔人族」で構成されているため、普通の人間と違って特殊な力を持つ魔人族の集団ほど恐ろしい存在はいない。


女帝が支配する奴隷街に関しては盗賊ギルドも迂闊にては出せず、七影のジャックでさえも歯向かう事は出来ずに撤退を選んだ程である。女帝の長であるマガネは「影魔法」と呼ばれる闇属性の中でも希少な魔術師でもあるため、その実力は黄金級冒険者にも匹敵するか、あるいはそれ以上の力を誇った。



「それに気になるのはレナ君たちの話によると、大迷宮のゴブリンキング、王城で管理されているはずの飛竜、それに裏街区に現れたという昆虫種、どれもこれも何者かに操られていた節がある。これら全員が同一人物である可能性も高いだろう」

「レナ君が狙われた理由はやはり盗賊ギルドの仕業でしょうか」

「それは間違いないだろう、過去に七影を二人を倒した彼だ。盗賊ギルドの方も本腰を入れてレナ君を狙い始めたという事か」

「どうしますか?ここは謹慎という名目でレナ君をクランハウスに匿うという手段もありますが……」

「いや、このまま自由にさせよう」



イルミナはレナの身に危険が迫っているのであれば金色の隼が守るべきだと主張するが、ルイはそれに反対した。彼女の発言にイルミナは驚き、このままではレナの身が危険だというのにレナの行動を抑制しないのかと驚くが、ルイは目つきを鋭くさえて告げる。



「盗賊ギルドの狙いが彼だというのであれば……それを逆に利用しよう」

「団長……!?」

「火竜の件も気がかりだが、いい加減に奴等との決着を付けなければならない」



強い意志を宿した瞳をルイはイルミナに見せると、団長の言葉に対してイルミナは反対は出来ず、彼女に従う――






――数日後、火竜の偵察のために出向いていたマドウは王都に戻ると、神妙な表情を抱いて国王の部屋へと足を運ぶ。病床の身である国王は最近はベッドで寝たきりで動く事が出来ず、専属の治癒魔導士や薬剤師の話によると残念ながらもう国王の命は長くないという。


マドウと国王は数十年来の付き合いであり、マドウがまだ駆け出しの魔術兵の頃から当時は王子だった国王は彼に色々と目をかけていた。王子の頃から優れた人材を見抜く目を持っていた国王は早々にマドウの魔術師としての才能に目を付け、彼が国王になったときから彼に相応しい地位を与えた。


歴代の国王の中でもマドウにとっては今の国王が最も優れた人物だと思っているが、不運にも彼は長い間、子供が産まれなかった。だからこそアルトが生まれた時は国中の民衆が喜んだのだが、アルトが生まれてから15年近くの月日が経過した今では国王は病に侵されてしまう。


この世界の病気は回復薬の類ではどうしようも出来ず、回復魔法も受け付けない。薬剤師が調合する薬だけが頼りなのだが、国王の場合は高齢であるため肉体の回復機能が衰え、残念ながら余命1年と宣告されていた。

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