第562話 ルイの配慮

「今日の所はもう帰ってもいいよ。今後は不用意な行動を気を付けるようにしてくれ、それと依頼の方でもしも何か分からないことがあったら遠慮なく他の団員に相談しても構わないよ」

「分かりました。では、失礼します」

「うへぇっ……何枚あるんだよ、これ」

「多分、120枚ぐらいはありますわね」

「これを全部達成しないといけないのか……くそ、レナのためだ。頑張るぞ!!」

「ええ、そうですね」

「ううっ……冒険者の仕事は初めてだから緊張するよ」



レナを除いた者たちは依頼書を確認して自分達にこれだけの数の仕事を果たす事が出来るのかと不安を抱くが、それでもレナのためにやり遂げる事を決意する。そんな彼等を見てレナは自分のせいで迷惑をかけたと思う一方、ある事が気になった。


他の皆が退出する中、レナは一人だけ部屋に残るとルイの方に振り返る。ルイもレナが何か尋ねたいことがあると察したのか話しかける。



「まだ、何か気になる事があるのかい?」

「あの……もしかしてあの依頼って、俺だけじゃなくて他の皆のためにも渡したんですか?」

「それはどういう意味だい?」



ルイはレナの言葉を聞いて口元に笑みを浮かべ、彼女の意図を察したレナはルイがどうして100枚以上の依頼書の達成をレナではなく、他の者たちに押し付けた理由を話す。



「もしかしてですけど、あの依頼を皆にやらせるのは実績のためですか?」

「ふむ、どうしてそう思うんだい?」

「さっき、依頼書を見た時に殆どの依頼書の評価点が高く設定されていました。それがちょっと気になって……」



評価点というのは冒険者の依頼を達成される事で得られる評価の点数を示し、この点数が一定量の数値に達すると上の階級へ昇格する。この評価点に関しては難易度が高い依頼であるほどに得られる点数が高い。


イチノで冒険者活動を行っていた時もレナは依頼を達成して地道に評価点を集め、白銀級へと昇格を果たした。しかし、コネコ達の場合は金色の隼に加入する際に冒険者の資格を与えられるのと同時に白銀級の階級が与えられる予定だった。



「これはあくまでも俺の予想なんですけど、ルイさんは皆に依頼書を渡したのは冒険者としての活動を行う事で仕事に慣れさせる事、そして他の冒険者から不満を持たれないように敢えて難易度の高くて評価点も高い依頼を用意したんじゃないですか?」

「……今のを聞いたかい、副団長?やはり僕の見立て通り、賢い子だよ」

「ええ、私もそう思います」



ルイはレナの言葉を聞いて満足そうに頷き、部屋の隅に待機していたイルミナも頷く。ルイが今回処分という形でコネコ達に与えた仕事の理由の半分は彼女達のためでもあった。




――金色の隼に入団したレナ達だったが、元々は白銀級冒険者であったレナはともかく、他の人間は冒険者としての実績がないにも関わらず、金色の隼に入団を果たす田だけではなく白銀級冒険者の階級を得た。その事に不満を抱く者も少なからず存在する。


冒険者の多くは金色の隼のような黄金級冒険者が何人も所属する大手のクランに歯痛がる者は多く、しかも冒険者として実績がない人間がいきなり白銀級冒険者として迎え入れられる事に不満を抱かないはずがない。しかも相手が成人年齢にも達していない子供だと知ればますます嫉妬する人間も多いだろう。


だからこそルイはレナの黄金級冒険者の昇格試験の再申請を利用してコネコ達に依頼書を押し付け、彼女達に冒険者としての経験と実績を積ませようとしていた。だが、先ほどの言葉通りにルイも処分の一貫として依頼を達成させるように言い付けた事は間違いなく、彼女も本気でコネコ達が依頼を果たすまではレナの黄金級冒険者の昇格を認めないつもりだった。



「今のコネコ君たちに必要なのは冒険者としての経験だ。これから冒険者として活動する以上、常に君たちは一緒に行動できるとは限らない。だから一人で依頼を達成するだけの力も身に付けてもらわないと困るからね」

「それに冒険者の実績を残せば今回のドリスさんたちの加入に不満を抱いていた者も納得するでしょう。冒険者は実力社会、それ相応の実力を見せつければ誰も文句は言えません」

「なるほど……でも、それなら俺の場合はどうなんですか?」

「いや、君の場合はそもそも文句を言う人間なんていないさ。言っておくが、君はこの王都でも結構な有名人だからね。ミスリル狩り、空を翔ける魔術師、七影を撃退した少年、次期黄金級冒険者の候補筆頭、そんな風に呼ばれているんだよ」

「え、そうなんですか!?」

「知らなかったんですか!?」



レナは自分がそこまでの有名人だった事に驚くが、ルイによるとレナは金色の隼に入る前から知名度は広く知れ渡り、彼の事を知らない冒険者がいないほどだった。実力も確かなのでレナが金色の隼に入った事に関しては文句を言う人間もおらず、しかも先日のイチノの活躍が広まれば益々レナの名声は高まるだろう。

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