第561話 ルイからの処罰

「駄目だ、はっきりと言わせてもらうがレナ君の場合は魔術師としての腕前はともかく、危機管理という点ではまだ不安がある。黄金級冒険者は全ての冒険者にとって手本となり得る存在でなければいけないんだ。その点ではレナ君の場合は実力はあっても精神面で未熟さが伺える」

「はい……」

「本来なら黄金級冒険者へ昇格した後に僕達が指導するつもりだが、やはり今回の一件は見過ごせない。もうしばらくの間は今の階級で活動する事を命じる。僕の許可なく、黄金級冒険者の昇格試験を受けようとすれば君の冒険者の資格を剥奪させてもらうよ。いいね?」

「分かりました。以後、気を付けます」

「ま、待ってください!!それでは私達の処分はどうなるのですか!?」



ルイの言葉にレナは素直に応じるが、他の者たちは納得できずに口を挟む。今回の一件の処罰がレナ一人に与えられる事にドリスが口を挟むと、ルイは淡々と言い返す。



「君たち全員に処分を与えるよりも、一人に責任を取らせる方が反省するだろう?だから処分を受けるのは君たちの中で最も信頼の厚いレナ君が適任だと判断したんだ」

「でも、今回の件は私たち全員に責任がありますわ!!なのにレナさんだけが処罰を受けるなんて……」

「その通りだ。だから君たちにも好機を与えよう」

「好機?」

「団長、いったい何を……」



ドリスの言葉を聞いたルイは机の引き出しから依頼書の束を取り出すと、それを机の上に置く。確認する限りでは100枚分は存在し、様々な内容の仕事が用意されていた。


大量の依頼書を取り出したルイにドリス達は戸惑うが、彼女は羊皮紙を纏めるとドリスに手渡して説明を行う。渡されたドリスは戸惑いながらも大量の羊皮紙を目にすると、ルイが説明を行う。



「火竜の件で冒険者ギルドの方が現在は活動停止を言い渡されてるんだ。王都に滞在する冒険者は待機命令が下されている。だが、活動を停止中の間にも色々な場所から冒険者ギルドへの依頼の申し込みが殺到しているんだ」

「そ、それがこの依頼書ですの?」

「ああ、その依頼書の殆どが冒険者ギルドからうちに斡旋された仕事だよ。本来ならば冒険者である僕達も待機命令を受けているから仕事を引き受ける事は出来ないんだが……幸いというべきかここには冒険者の資格を持っていても正式に冒険者にはなっていない人間が5人もいるね」

「団長、まさか……!?」



ルイの言葉にイルミナは動揺した表情を浮かべ、そんな彼女にルイはやっといつも通りの余裕を取り戻したように笑みを浮かべた。



「ここにいる者たちはレナ君を除いて、全員が冒険者になったばかりだ。だが、今のところは正式に冒険者に加入したわけではない。資格は持っていても君たちはまだバッジを提供されていないだろう?」

「バッジ?」

「冒険者の証と階級を示す道具だよ。本来なら冒険者になったときに受け取る代物なんだが、君たちのバッジは色々とあってまだ用意されていないんだ。全員が未成年者だからね」



金色の隼に入団した時点で元々は冒険者だったレナとコネコを除いた他の4人は冒険者になっていた。本来ならば実力に見合ったバッジを提供するはずなのだが、ルイによると火竜の件で冒険者ギルドが活動を停止中のため、全員分のバッジを用意できなかったという。


レナの場合は元々イチノで発行された白銀級冒険者のバッジを所有しているが、コネコの場合は年齢が若いという理由で冒険者ギルドに回収されてしまったので自分のバッジは持っていない。そもそも未成年者は冒険者になれないという新しい法律が最近作られたため、本来ならばレナとコネコも含めて6人全員がバッジを受け取れない立場である。



「金色の隼の権限で君たちには特別に冒険者のバッジを用意してもらうつもりだったが、いくら実力はあっても実績がない人間を冒険者と認めさせるのは難しいからね。だが、イチノの件で国は君たちの事を認めた以上は冒険者の資格は与えられている。という事は依頼を引き受ける権利があるという事だ」

「ですが、冒険者は待機命令が下されているのでは……」

「それは正規の冒険者だけだよ、君たちには関係ない話だ」

「そんな無茶苦茶な……」



ルイの言い分を聞かされてイルミナは頭を抑えるが、大量の依頼書を手にしたルイはレナ以外の者たちに告げた。



「君たちの処分はこの依頼書をレナ君の力を借りずに達成するんだ。全ての依頼書をやり遂げればレナ君の黄金級冒険者の昇格試験を再申請しよう」

「こ、これだけの数の依頼を私達だけで!?」

「出来ないというのであれば話はここまでだ。残念だが、諦めてくれ」

「ま、待てよ!!やらないなんて言ってないだろ!?」

「本当にこの依頼書を全部達成したらレナ君の処分を取り消してくれるんですか!?」

「ああ、約束しよう」

「……見たところ、100枚以上あるように見えますが」

「大丈夫さ、一人当たりだいたい20件ぐらいの依頼書を達成するだけでレナ君の処分が取り消されると考えれば楽な物だろう?」

「くっ……や、やってやらぁっ!!」



レナの黄金級冒険者の昇格試験のため、ルイが用意した100枚以上の依頼書を達成しろという条件にレナ以外の者たちは奮起する。





※レナの気持ち


(´˙꒳​˙ `).。o(そこまで黄金級冒険者になりたいわけじゃないんだけど……なんか皆凄いやる気みたいだし、別にいいか)

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