第560話 クロの活躍

「いえ、それはクロさんのお陰ですわ」

「クロが?」

「あれ、そういえばあいつ何処に行ったんだ?あたし達が捕まったときに一人だけ何処か逃げたように見えたけど……」

「違う、クロは仲間を見捨てたりしない。あの時は逃げたんじゃなくて他の人間に助けを求めに行った……違う?」

「その通りですわ、クロさんのお陰で私達はレナさんたちの危機に気づく事が出来ましたわ」



ドリスの話によると城壁で女帝にレナ達が捕まったとき、クロだけは逃げ出す事に成功した。あの場に自分が残ったとしても役には立たたないと判断したクロは急いで城壁から降りると、クランハウスに存在する他の仲間達の元へ向かう。


運が良い事にドリス達から事情を知らされたルイは慌ててイルミナを派遣させ、ドリス達と共に裏街区に向かわせていた時、クロは合流を果たす事が出来た。街道にて遭遇したクロはドリス達に危険を知らせるためにレナ達が存在する場所まで案内を行い、その後は姿を消したという。



「クロ君が僕達に皆さんの危険を知らせてくれたおかげで助ける事が出来たんです」

「そうだったのか……逃げたと思ってたけど、あいつそんな事をしてたのか」

「後でお礼を言わないとね」

「お礼よりも骨付き肉をあげる方が喜ぶ」

「じゃあ、後でオークの丸焼き肉を用意しないと……」

「ごほんっ……話を戻すよ」



クロのお陰で自分たちが命拾いした事を知ったレナ達は後で彼に恩返しをしようと話し合っていると、ルイが咳ばらいを行って話を戻す。



「とにかく、君たちの今回の行動はあまりにも無謀過ぎる。確かに君たちは優れた力を持っているが、決してそれは万能ではない。自分達だけでどんな問題も解決できると思い込んでいる節がある」

「それは……」

「否定はさせないよ。君たちは優秀すぎるが故に自分達の力を心の何処かで過信しているんだ。だが、そんな事だといつか身を滅ぼす……しっかりと反省してくれ」

『はい……』



ルイの言葉に対してレナ達は言い返す事が出来ず、確かに今までどんな問題に衝突してもレナ達は自分達の力で解決してきたと思い込んでいた。しかし、実際の所は全ての問題をレナ達だけで解決したわけではない。


今回の件もクロやイルミナが助けてくれなければレナ達は女帝に捕まり、どんな目に遭わされていたのかも分からない。裏街区の危険性をあれほどダリルに注意されていたのに自分達ならば大丈夫だと思い込んでいた。その結果が金色の隼に迷惑をかけてしまう。



「今回の一件で僕達は女帝に対して「貸し」を作ってしまった。正直に言えば闇ギルドには関わりたくはなかったんだが、仕方がないね」

「闇ギルド?」

「盗賊ギルドのような裏社会の人間が作り出した組織の通称だよ。君たちが関わった女帝はこの国で唯一と言っていいほど盗賊ギルドと渡り合える力を持つ闇ギルドだ」

「そ、そんな組織があったのか!?全然名前も聞いた事ないのに……」

「一般の人間には女帝の組織名は知られていないのは、彼女達があくまでも裏街区でしか活動しないからさ。盗賊ギルドの場合は裏街区だけではなく頻繁に外でも問題は起こしているが、女帝の場合は決して裏街区の外の人間には危害は加えない。それどころか盗賊ギルドと敵対関係だからある意味では盗賊ギルドの組織拡大を抑制する存在ともいえる」

「でも……正義の味方というわけじゃないんですよね」

「悪人である事に変わりはないさ、彼女達も盗賊ギルドに負けず劣らずの犯罪者集団だ」




――ルイによると女帝という組織は盗賊ギルドにも対抗できる勢力を誇り、裏街区で女帝が支配している縄張り「奴隷街」と呼ばれている。彼女達が支配する場所には浮浪者が多数存在し、正気を保つ人間は殆どいない。


基本的には女帝の組織は全員が女性で構成され、そのほぼ全員が「魔人族」だという。特にヴァンパイアが数が多く、女帝を纏める立場の「マガネ」もヴァンパイアであるため、人間よりも優れた力を持つ魔人族が多いので盗賊ギルドにも負けず劣らずの戦力を誇るという。


話を聞き終えたレナ達は改めて自分たちがどれほど厄介でとんでもない相手と対峙していたのかを理解し、今更ながらに背筋が凍り付く。もしもイルミナが介入していなければ自分達はどうなっていたのかと思うと身体が震えてしまう。




「ともかく、今回の一件は君たちには罰を与えなければならない。まずはレナ君の場合だが、黄金級冒険者の昇格試験の取り消しだ」

「えっ!?」

「そんな、いくら何でもそれはないだろ!?」



ルイの言葉にレナ以外の者たちが動揺し、黄金級冒険者の昇格試験など滅多に受けられる事ではない。その試験の機会を奪うなど罰としては重すぎるのではないかと抗議しようとするが、ルイは断固として抗議を受け付けなかった。

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