第559話 女帝と金色の隼の関係
「いいだろう、但し見逃すのは今回限りだ。もう二度と、お前たちが奴隷街に立ち入る事は許さん」
「分かりました、この場で約束します。金色の隼の団員は二度と奴隷街には立ち入りません」
「……行け」
「女帝、本当によろしいのですか!?」
「いいから行かせてやれ」
イルミナの言葉にマガネは承諾すると、マインは驚いた表情を浮かべるが、イルミナは彼女の気が変わる前に頭を下げてレナ達の元へ向かう。そして全員が円盤に乗り込むと、ドリスはゆっくりと円盤を降下させて地上へと降り立つ。
マガネは城壁の上からレナ達の様子を伺い、裏街区から抜け出した以上はもう彼女達にも手を出せない。不意にマガネは自分の腕に視線を向け、レナに抑えられたときに腕に痣が出来た事を知る。
(あの子供……私の身体に傷をつけるとは)
もしもマガネが戦闘を続けていた場合、危なかったのは自分自身だったのかも知れないと冷や汗を流す。子供とは思えないほどの魔力を持つレナを前にしたとき、彼女は自分の命の危機すら感じた。
「マガネ様、これからどうしますか?」
「……退くぞ、もうここにはいられない」
「はっ!!」
ジャックの追跡へ向かわせた部下が戻るのを待たず、マインを連れてマガネはその場を離れる事にした。部下が戻ってきたとしてもどうせジャックは捕まえられない事は分かり切っており、怪我の治療を行うために先に自分の本拠地へと引き返す事にした。
最後にマガネは空を飛び立つ前に裏街区の外を見渡し、何処の建物も眩しいほどに明かりが灯されている光景を確認する。その光景を見た後に自分が支配する奴隷街の様子を伺うと、何処の建物も明かりなど存在せず、暗闇に覆われていた。その光景を目にしたマガネは何かを考え込むように黙り込むが、やがて首を振って自分が支配する領域へと帰還する――
――無事に全員が裏街区から帰還に成功すると、イルミナの提案でレナ達はクランハウスへと向かう。辿り着いて早々に怪我を負ったシノは医療室に運ばれ、体調不良を起こしたミナとコネコも共にベッドに横になる。
医療室に勤務する治癒魔導士の話によるとシノの怪我は彼女が事前に応急処置を行っていたお陰で傷跡も残さずに治す事が出来るらしく、一方でコネコとミナの方は魔力を奪われて体力が消耗しているだけ十分な休養を取らせれば問題ないという。
ミナ達が治療を受けている間、他の者は今回の出来事の説明のために団長室に呼び出され、ルイに説明を求められる。そして全ての話を伝えた結果、ルイはいつもとは違って真面目な表情を浮かべてレナ達と向かい合う。
「……今回の件、正直に言って僕は怒っているよ」
「えっ……」
「君たちの事は買ってはいたが、いくら何でも今回の行動は無謀過ぎる……君たちは裏街区がどれほど危険な場所が分かっているのか!?」
「うっ……!?」
今までにないほどの怒気を示すルイにレナ達は圧倒され、部屋の隅に控えているイルミナも頷く。ルイはこれまでに見せた事もないほどに怒りを露にするが、やがて大きなため息を吐き出して力が抜けた様に座り込む。
「全く、なんて無謀なことを仕出かしたんだ……あの場所がどれほど危険な場所なの知らないわけじゃないだろう。いくら友人を救い出すためとはいえ、たった3人で挑むなんてあまりにも無謀過ぎる」
「ご、ごめんなさい……」
「僕がイルミナを派遣していなければ君たちは本当に殺されていたかもしれないんだよ。しかも、よりにもよって女帝に目を付けられたとは……せめて、初めから全員で僕達に相談した後に行動すればこんな事態にはならなかったのに」
『…………』
頭を抱えるルイに対してレナ達は言い返すことは出来ず、一応は金色の隼の元にはドリスとデブリが相談に向かったのだが、シノが危機に陥っている可能性を考えて不用意に3人だけで先に裏街区に向かった事は無謀過ぎた。
事前にダリルからは再三忠告を受けていたレナ達だが、裏街区がどれほど危険な場所なのかはっきりと認識しない状態で出向いてしまった。それが今回の危機を招いたと言える。
――これまでに大迷宮やイチノでの戦など、様々な経験をしてきたレナ達は心の何処かでどんな危険な場所だろうと自分達ならば平気だという考えがあった。しかし、ルイの言う通りに裏街区はレナ達の予想を超える危険な場所であった。
仮にイルミナが助けてくれなければレナ達は女帝によって殺されていたかもしれず、助けに来てくれたドリス達も殺される所だった。マガネの影魔法に対して対抗できる術を持っていたのはイルミナだけであったため、もしも彼女がいなければレナ達は影魔法で拘束されていただろう。
「あの……一ついいですか?」
「何だい?」
「イルミナさんや皆は俺達が城壁で捕まっていた時に助けたのは……あれは偶然だったんですか?」
だが、ここでどうして都合よくイルミナたちが駆けつけてきた事に不思議に思ったレナは尋ねると、ドリスが代わりに説明を行う。
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