第558話 膠着状態

「皆さん!!助けに来ましたわよ!!」

「ドリスさん!?」

「何っ……!?」



上空から現れたのは円盤型の「氷塊」に乗り込んだドリスである事が判明し、彼女の登場にレナは驚くが、更に氷塊に乗り込んでいるのはドリスだけではなく、3人の人間の姿があった。



「うわわっ!?」

「ど、ドリス……落ちるって!?」

「こ、これは流石に……!?」

「ナオ君、デブリ君、それにイルミナさん!?」

「イルミナだと!?」



円盤にはナオ、デブリ、イルミナの姿も存在し、彼等は円盤から落ちないように必死にしがみついていた。マガネとマインはイルミナも同行している事に驚き、どうやら面識があるらしい。


振り落とされないようにドリスの肩を掴みながらもイルミナは城壁の様子を伺うと、彼女は小杖ワンドを取り出して魔法を発動させる。



「フラッシュ!!」

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

「くっ……おのれぇっ!?」



イルミナが杖を向けた瞬間に閃光が放たれると、レナ達の身体を拘束していた影の触手が強烈な光を浴びた瞬間に消え去り、城壁で捕まっていたレナ達の身体が解放された。どうやら闇属性の魔法に対して聖属性の魔法を放つ事で強制的に打ち破ったらしく、レナ達は身体の自由を取り戻す。


全員が影魔法の拘束を解除したのを確認すると、ドリスは円盤を城壁に近付けて全員が降り立つ。その光景を見て先ほどの先行で目元が眩みながらもマインは慌てて構えようとしたが、イルミナの方も小杖を構えて警告を行う。



「動くな!!少しでも動けば攻撃します!!この距離では貴女の魔法よりも私が早い!!」

「くっ……」

「イルミナ、貴様何の真似だ……!!」



マガネはレナの腕を振り払い、目元を抑えながらもイルミナに怒鳴りつけると、すぐにイルミナは杖を構えた状態でレナの元に近付いて声をかける。



「今のうちに他の方々を連れて避難を……この二人は私が抑えます」

「あ、ありがとうございます……」

「だ、大丈夫かお前ら!?」

「肩を貸します!!」

「ううっ……」

「くぅっ……」



デブリとナオは倒れ込んでいるミナとシノに肩を貸して立たせると、レナの方もコネコを担いでミナの元へ急ぐ。その間にドリスの方はここまでの移動に使用した氷塊の円盤を移動させ、全員に乗り込むように促す。



「さあ、皆さん!!これに乗ってください!!乗り心地は良いとは言えませんけど、下まで運びますわ!!」

「これ、ドリスさんの氷塊で作り出したの?」

「ええ、まだ人を乗せて空を飛ぶのは慣れていませんが、大分扱いには慣れてきましたわ!!」

「何処がだよ!!僕、三回ぐらい地面に落ちたぞ!?」

「ドリス……今度からはもうちょっと安全運転を心掛けてね」



皆の話から察するにドリスは氷塊の初級魔法で乗り物を作り出し、ここまで飛んできたらしい。彼女は夜な夜な氷塊の魔法で移動を行う練習をしている事はレナ達も知っていたが、いつの間にか他の人間を乗せて移動できるほどに操作が出来るようになったらしい。


本来は攻撃用の魔法を乗り物に変化させて操作するのは難しく、しかも他の人間を乗せた状態で動かすなど普通の初級魔術師ならばあり得ない発想である。だが、普段からレナが付与魔法を利用してスケボなどの乗り物を乗りこなす姿を見たドリスは憧れを抱き、常日頃から彼女は自分もレナを真似て氷塊の魔法で移動手段を身に付けようと日々訓練していた。



「さあ、早く皆さん乗ってください!!下に降りるぐらいならばなんとかできますわ」

「ちょ、押すなよ!?わあっ、今の揺れた!!凄く揺れたぞ!?」

「そ、そんなに焦らないでも大丈夫だよ」

「これ、本当に大丈夫なんだろうな……」

「何だったら俺は自力で付与魔法で降りる事が出来ると思うけど……」

「何を言ってるんですの!?レナさんは私の事が信用できませんの!?さあ、乗って乗って!!」



半ば無理やりにドリスは全員を円盤状の氷塊に乗せると自分も乗り込み、最後にマガネと対峙しているイルミナにも慌てて声をかける。



「イルミナさんも早く!!」

「……ええ、では失礼します。もう二度と会わないことを願いますよ、女帝」

「待て!!このまま帰すと思っているのか!?」



イルミナもドリス達の元へ向かうと、マガネは怒りを浮かべて自分の足元の影を変形させ、再び影の触手を生み出そうとしてきた。それに対してイルミナは小杖を構えると、魔法を放つ準備を行う。


二人はにらみ合い、互いの隙を伺うように構える。その様子を見てレナ達は助太刀する事が出来ず、下手に動けばイルミナの邪魔になると本能的に察した。一方でマガネの方もイルミナを前にして動けず、彼女の傍に控えるマインも冷や汗を流す。



「……今回は見逃して貰えませんかね?この子供たちは私達の団員でもあります」

「なんだと……」

「もしも見逃して貰えるというのであれば、金色の隼に貸しを作れると考えてください。どうか、冷静な判断を……」

「…………」



イルミナの言葉にマガネは考え込み、やがてレナの方に一瞬だけ視線を向けると、彼女はイルミナに返事を言い渡す。

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