第557話 女帝の影魔法

「くっ……あの男を逃すな、なんとしても捕まえろ!!」

『はっ!!』



女帝は他のヴァンパイアに命令を下すと、半数以上が姿を消したジャックの追跡を行うために飛び立つ。最終的に残ったのはマガネと彼女の腕の治療のために眼鏡をかけたヴァンパイアだけだった。



「マガネ様、大丈夫ですか!?すぐに治療をしますね!!」

「構わん、この程度の傷など放っておいても治る。それよりも、こいつらに聞きたいことがある」

「うわっ!?」

「れ、レナ君!!」



レナは影の触手によって引き寄せられると、マガネはレナの首元を掴み、怒りを露にしながら問い質す。



「お前たちが報告にあった奴隷街の侵入者だな?住民から話は聞いている、いったい何処から我々の領域に入り込んできた?我々の仲間の一人が姿を消した理由も知っているのか!?」

「ぐっ……!?」

「マガネ様、影魔法で体力を奪い続けた状態ではまともに話す事も出来ません!!どうか落ち着いて下さい!!」

「むっ……仕方ない、下手な抵抗はするなよ」



側近と思われるヴァンパイアの言葉にマガネは渋々とだかレナの身体を拘束している触手を解放すると、その場でレナはへたり込んで汗を流す。いくら魔術師で魔法に耐性があるとはいえ、体力を奪われ続けたせいで限界が近い。


しかし、レナよりも辛い目に遭っているのはミナ達である事は間違いなく、既に彼女達は半ば意識がないのか先ほどから一言も喋らない。クロも触手から逃げ出した後は姿が見えない事も不安だが、今は先に他の皆を助けるためにレナはマガネに懇願する。



「お願い、します……他の皆を解放してください。その後なら何でも話しますから……うぐっ!?」

「調子に乗るな、お前は取引できる立場だと思っているのか?我々の質問に答えなければここで全員を殺す」



マガネは恐ろしい握力でレナの首元を掴むと、そのまま片腕で持ち上げる。自分の首を今にも握りつぶそうとしてくるマガネにレナは咄嗟に彼女の手を掴むが、引き剥がす事が出来ない。


仮にも魔人族であるヴァンパイアは人間と容姿が似ていても、身体能力の方はヴァンパイアの方が勝る。だが、マガネが相手をしているのはただの人間ではなく、レナは触手から解放された事で付与魔法も発動できることを思い出し、いい加減に怒りを抑えきれずに手元に紅色の魔力を宿らせてマガネの腕を掴む。



四重強化クワトロ……!!」

「何を……ぐああっ!?」

「マガネ様!?」



闘拳と籠手に付与魔法を施すと、レナは重力の力を借りて恐ろしい握力で握りしめてくるマガネの指を掴み、無理やりに引き剥がす。人間の子供とは思えないほどの力で自分の腕を掴んできたレナにマガネは驚き、更にレナは逆にマガネの両腕を掴んで力ずくで抑えつける。



「皆を解放しろ、今すぐにだ!!」

「こ、このガキ……ぐううっ!?」

「おのれ、マガネ様から離れろっ!!」



マガネが両腕を抑えられた事で側近のヴァンパイアは怒りを抱いて胸元に隠していた短剣を取り出し、レナに突き刺そうとしてきた。だが、その攻撃に対して対処したのはレナではなく、先ほどまで影の触手に拘束されていたはずのコネコが飛び出す。



「させるか!!」

「なっ!?」

「コネコ!?」



どうやらマガネを抑えつけた時にコネコを拘束していた触手も解放されたらしく、彼女はヴァンパイアが握りしめた短剣を蹴り飛ばす。これで身体が自由になったレナとコネコ、マガネと側近のヴァンパイアが対峙した事になった。


形勢逆転かと思われたが、残念ながらシノとミナの拘束は解除されず、マガネの方もレナに両腕を抑えられながらも抵抗を止めるつもりはないのか睨みつける。一方でコネコの方も咄嗟にレナを守るために身体を動かしたが、先ほどまで体力を奪われ続けていたので限界が近いのから身体をふらつかせる。



「くそっ……変な魔法を使いやがって」

「ちっ……人間如きが調子に乗るな!!」

「やめろ、その子に手を出したらお前の主人の腕をへし折るぞ!!」

「マイン、私に構うな!!人間如きに屈服するぐらいなら死を選べ!!」



どうやら側近のヴァンパイアの名前はマインというらしく、彼女はコネコに止めを刺そうと近づくと、慌ててレナはマガネを人質にしてでも救おうとした。しかし、マガネはマインに自分に構わないように命じると、マインは困惑した表情を浮かべてマガネとコネコを見渡す。



「兄ちゃん、あたしは大丈夫だ……それよりも早くそいつをぶっ飛ばしてシノとミナの姉ちゃんを助けてやれ!!」

「調子に乗るな、例え腕を引き千切られようと私はそいつらの拘束を解くつもりはない……マイン、何をしている!!早く殺せ!!」

「し、しかし……」

「くそっ……この分からずや!!」



マインが迷っている間にレナはマガネを気絶させ、影魔法を解除させようと腕を離そうとしたとき、上空の方から何かが近づいてくる風切り音を耳にする。驚いて振り返ると、そこには予想外の人物の姿があった。

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