第549話 教会の中には……
「兄ちゃん……建物の中に誰かいるか分かるか?」
「うん、反応が一つだけ感じる……」
「きっと、シノちゃんだよ。すぐに助けないと……」
「クゥ~ンッ?」
扉の前で立ち尽くすレナとコネコにミナは早く開けるように促し、クロは不思議そうに首を傾ける。レナは頷くと緊張しながらも扉に手を伸ばして押し開く。
教会の中はいったい何があったのか天井の部分が崩れ、内部は満月の光に照らされていた。そのお陰で明かりもいらないのは助かったが、床にはステンドグラスの残骸が散らばった状態である事に気づいたレナは破片を拾い上げ、埃まみれである事から随分と前に建物が崩壊していた事を悟る。
「酷い……いったい何があったんだろう?」
「さあな……それよりもシノの姉ちゃんを探さないと」
「あっちの方に反応がある」
「クゥンッ」
レナの言葉を聞いたクロが先に歩くと、天井が崩壊して出来上がった瓦礫の山に近付き、その瓦礫の裏手の方へと回り込む。扉を開いて正面に瓦礫の山が存在するため気づかなかったが、レナが感じ取った反応の主は瓦礫の山の裏側に存在するらしい。
3人は緊張した様子でクロの後に続き、もしも探している人物がシノ以外の人間だとしたらクロが臭いで気づかないはずがない。なのでクロが迷いなく進んでいる以上は待ち構えている人物はシノだと思われるが、決して油断は出来ない。
「ウォンッ!!」
「あっ……あそこに誰かいる!!」
「シノの姉ちゃんか!?」
「しっ……静かにして」
瓦礫の裏手に移動すると、誰かが壊れた柱の陰に座り込んでいる人物がいる事に気づき、ミナとコネコは咄嗟に声を上げるがレナが二人を落ち着かせる。そしてゆっくりと近づき、柱の陰に隠れている人物に声をかけた。
「シノ?」
「……ふにゃっ、もう朝ごはん?」
「よ、良かったぁっ……シノの姉ちゃんだ」
「もう、凄くどきどきしたよ!!」
レナが声をかけるとシノの気の抜けた返事が返り、柱の陰に隠れている人物の正体がシノだと判明したレナ達は安心して回り込む。しかし、陰に隠れているシノの姿を見て3人は目を見開く。
――柱に背中を預けて座り込んでいたシノは傷だらけの状態だった。一応は自分で治療を行ったようだが、身体のあちこちに包帯を巻き、特に両足の怪我が深いのか包帯には血が滲んでいた。顔色の方も悪く、大分出血してしまったのか彼女は苦笑いを浮かべる。
シノの様子を見てレナ達は唖然とするが、すぐに彼女の怪我が酷いのを確認するとレナ達はシノの怪我の状態を調べた。結果から言えば重傷といっても過言ではなく、このまま放置すれば命が危ないほどの大怪我を負っていた。
「シノ、いったい何があったの!?」
「……敵にやられたけど、ここまでどうにか逃げのびた。でも、動く事が出来なくなったからクロを派遣させた」
「酷い傷……いったい誰がこんなことを」
「い、痛くないのか?」
「平気とはいいがたいけど、痛みには慣れている……でも、足がやられてもう歩くのもきつい」
全身が傷だらけのシノだが、特に両足が深手を負っていたらしく、膝の部分を確認すると鋭い刃物のような物で斬りつけられている事が判明する。すぐにレナは用心のために持ってきた回復薬を取り出し、傷口に降り注ぐ。
「動かないでねシノ、アイリさんが前に作ってくれた回復薬だから効果は抜群のはずだから……」
「くぅっ……!?」
「姉ちゃん、誰にやられたんだ?あたしが仇を討ってやる!!」
「……それは無理、この怪我を与えた相手はもう私が切り伏せた。それよりも、早くここから逃げないといけない」
回復薬によってどうにか傷口の表面は塞ぐことが出来たが、完全な回復には時間が掛かるのでシノはミナとレナに肩を貸してもらって立ち上がる。シノに肩を貸しながらレナは彼女が所持している妖刀が落ちている事に気づき、拾い上げようとするとある事に気づく。
妖刀の鞘の部分には青色の液体が付着している事に気づいたレナは疑問を抱き、少なくとも臭いから絵具の類ではない事を知る。シノはレナが妖刀の異変に気付いた事を悟ると、自分が襲ってきた相手の正体を話す。
「私にここまで深手を負わせたのは人間じゃない……」
「え?人間じゃないって……まさか、魔物にやられたの!?」
レナは昼間に飛竜に襲われたことを思い出し、自分を襲ってきた飛竜は明らかに何者かに操られていた。そして飛竜との戦闘中に現れた暗殺者の事を思い出し、シノに暗殺者の捜索を任せた事を思い出す。
シノはレナを襲った暗殺者の追跡に向かった後、何が起きたのかをゆっくりと語りだす。彼女は決して油断していたわけではなかったが、追跡を行った相手も只者ではなく、思いもよらぬ深手を負わされたという。
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