第550話 ヴァンパイアの追跡

「シノ、いったい何にやられたの?まさか、飛竜?」

「違う、私を襲ったのは飛竜よりは弱い……けど、厄介な相手。逃げる事しか出来なかった」

「勿体ぶらずに早く教えろよ!!どんな奴にやられたんだ?」

「その話をする前に、出来れば早くここから離れた方がいい……どうにか敵を撒いたけど、何時までも隠れてられるか分からない」



シノの言葉にレナは頷き、まずはこの裏街区から離れる必要があった。だが、裏街区を抜け出すには四方を取り囲む城壁を越えなければならず、そのためには城門を突破するか壁を乗り越えるしかない。


そもそもここは奴隷街を支配する女帝と呼ばれる組織の縄張りの近くのため、先に女帝に所属するヴァンパイアを倒したレナ達は奴隷街に戻るのはまずい。だが、奴隷街の縄張りならば盗賊ギルドの連中も迂闊に立ち寄れないらしく、引き返すべきかあるいは別の場所から脱出するのかを考える。



(こんな深手を負ったシノを連れて戦えるはずがない。何か、適当な物に付与魔法を施して飛んで逃げる方法もあるけど……時間が問題だ)



全員を乗せられるほどの大きさの物体を探し出し、付与魔法を施す事で重力を操作して城壁を乗り越えるとう手段もある。だが、レナの付与魔法は魔石が無しでは長時間の維持は出来ず、こんな事ならばスケボを持ち込むべきだったと後悔する。


まずはこの場所を離れるためにレナはシノを担ぎ上げようとしたとき、彼女とコネコは何かに気づいたように首を上に向ける。同時にレナも異様な魔力を感知して上空を見上げると、空から翼を広げて舞い降りる影が存在した。



「見つけたわよ、あんた達!!」

「えっ!?」

「あ、さっきの蝙蝠女!?」

「誰が蝙蝠女よ!!いや、ある意味では間違ってはいないけど……」

「……ヴァンパイア?」



姿を現したのは先ほどレナ達が気絶させたはずのヴァンパイアが建物の中に入り込み、派手に鼻血を噴き出して倒れたはずだがもう傷は治ったのか彼女は怒った風に腕を組んでレナ達を見下ろす。まさかここまで追いかけてくるとは思わず、レナ達は身構えるとヴァンパイアは鋭利に尖った犬歯を剥き出しにして戦意を示す。



「さっきは油断したけど、今度は容赦しないわよ……全員、今日の私のおかずにしてやるわ!!」

「ひいっ!?く、食われるっ!!」

「こんな時に……仕方ない、やるよ皆!!」

「待って……」



ヴァンパイアと向かい合ったレナは戦おうとしたとき、シノはレナの腕を掴む。彼女はヴァンパイアに視線を向けた後、再び上空の方を見上げて呟く。



「……反応は一つだけじゃない」

「えっ……」

「来る!!」

「はっ?何の話……っ!?」



シノの言葉にヴァンパイアは不審に思って空を見上げようとした時、彼女の耳元に何かが羽ばたくような音が届き、驚いた彼女は振り返る。否、振り返ってしまった。


後方を振り向いたヴァンパイアの視界には鋭利な鎌のような刃物が迫る光景を捉え、そのまま彼女の身体に刃は走った。その直後、ヴァンパイアの胴体は切り裂かれ、彼女の胸元から腹部にかけて血飛沫が舞い上がる。



「えっ……」

「キシャシャシャッ!!」



自分が切られたという事実を知ったヴァンパイアは目を見開き、傷口を抑えながら膝を付いた。普通の人間よりは頑丈な肉体を持つにも関わらず、彼女の肉体は易々と切り裂かれ、奇怪な鳴き声が教会の中に響き渡った。





――ヴァンパイアの目の前に立っていたのは巨大な「蟷螂」だった。普通の蟷螂の数百倍の体躯を誇り、その鋭い鎌は死神の鎌を想像させる。唐突に現れた巨大な蟷螂にヴァンパイアの身体は切り裂かれ、地面に倒れ込む。


その様子を見ていたレナ達は理解が追いつかず、突如として現れた成人男性よりも大きさを誇る蟷螂に混乱する。いったい何処から現れたのか、そもそも何故蟷螂が巨大化しているのか、色々と疑問が尽きないが分かり切っている事は一つだけだった。



「……敵だっ!!」

「キシャアアアッ!!」



奇声のような鳴き声を放ちながら蟷螂は両腕を広げると、真っ先にシノを抱えようとしたレナの元に向かう。危険を察したレナは闘拳を構え、躊躇なく攻撃を行う。



「飛来拳!!」

「シャアッ!?」



闘拳に付与魔法を施して蟷螂に向けて砲弾の如く射出するが、蟷螂は正面から迫ってきた闘拳に対して身を躱す。普通の人間ならば反応も出来ずに当たっていただろうが、並外れた反射神経と速度を誇り、それを見たレナは危険を察して左腕の籠手を伸ばす。


単純な攻撃では躱される恐れがある以上、今度は攻撃範囲を広げて逃げ切れないようにするため、籠手に付与魔法を施す。十分な魔力を込めると一気に解放させ、重力の衝撃波を放出して蟷螂を吹き飛ばす。



衝撃解放インパクト!!」

「キシャアアアッ!?」

「うわっ!?」

「きゃっ!?」



手加減する余裕などなく、蟷螂の巨体を吹き飛ばすために前方に向けて強烈な衝撃波を放つと、蟷螂は壁に激突してそのまま瓦礫と共に外へ放り出される。






※今回の話を読み直した作者


カタナヅキ「あれ、これって蟷螂が正面から近づいてきたのならヴァンパイアも衝撃波に巻き込まれてるんじゃね?(;´・ω・)」

ヴァンパイア「きゃあああっ!?(´;ω;`)」←瀕死の上に更に吹き飛ばされるヴァンパイア

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