第548話 ヴァンパイアの判断
(困ったわね、これほどの上物の3人もいるなんて……滅多にない機会だわ。どうすればいいのかしら)
ヴァンパイアとしては3人をこのまま見逃すのは惜しいが、だからといって戦えば勝てるという保証はない。かといって他の仲間に助けを求めればこの3人を独り占め出来なくなるため、葛藤する。
一方でレナ達の方は黙り込んだヴァンパイアを見て困惑し、このまま無意味に時間を過ごすわけにはいかない。一刻も早く、シノが隠れている場所に向かう必要があるのだが、ここでヴァンパイアの背後から近づく影が存在した。
「ガウッ!!」
「えっ!?」
「クロちゃん!?」
ヴァンパイアの背後から現れたのは今まで何処に隠れていたのか姿を見せなかったクロであり、狼の鳴き声が聞こえたヴァンパイアは驚いて振り返ると、そこにはクロが牙を剥き出しにして背中の羽根に嚙り付こうとする姿が見えた。
「ガブッ!!」
「あいたぁっ!?ちょ、離れ……離れなさいよ!?」
「グゥウッ!!」
「いたたたっ!?く、食い込んでる!!歯が食い込んでるから!?」
翼が弱点だったのか噛みつかれたヴァンパイアは涙目を浮かべ、先ほどまでのクールな態度は一変して必死にクロを引き剥がそうと手を伸ばす。その様子を見てレナ達は攻撃を仕掛ける好機だと判断し、3人はヴァンパイアの元へ向かう。
ヴァンパイアがクロに注意を向けている間にレナ達は駆け出し、瞬間加速を発動させたレナが二人よりも早く迫る。ヴァンパイアはクロに夢中でレナの存在には気づかず、その隙を利用してレナは掌を伸ばす。
「ナオ君直伝、疑似発勁!!」
「はぐぅっ!?」
「おおっ!?格好いいぞ兄ちゃん!!」
「でも、ナオ君はそんな技は教えてないと思うけど!?」
掌をヴァンパイアの腹部に押し込んだ状態でレナは反発を発動させると、至近距離から重力の衝撃波を受けたヴァンパイアは悶絶する。その隙を逃さずにコネコは跳躍し、ミナの方は足払いを行う。
「合わせろ姉ちゃん!!」
「了解っ!!」
「え、ちょっ……ぶふぅうううっ!?」
ミナが足払いを行って体勢を崩した瞬間にコネコは両足をヴァンパイアの顔面に挟み、そのまま地面へと叩きつける。プロレスのフランケンシュタイナーに酷似した技を放つ。
小柄とはいえ、コネコの体重を乗せた一撃に更にミナの足払いで勢いを増した状態で地面に頭を叩きつけたヴァンパイアは身体を痙攣させた状態のまま起き上がる事もなく、完全に気絶した様子だった。それを確認してミナとコネコはハイタッチを行う。
「やったぞミナの姉ちゃん!!あたし達の合体技、初めて成功したな!!」
「うん、練習しておいて良かったね!!」
「凄い技だったけど……普通の人間なら死んでたんじゃないの?」
「ウォンッ(恐ろしいアマだぜ)」
鼻血を噴き出して白目を剥いた状態で動かなくなったヴァンパイアを見てレナは同情さえ抱くが、今は彼女に関わっている暇はなく、今のうちに目的を遂げるためにレナは移動を行う。
「さあ、シノの元へ急ごう!!こうなったら他の奴等に絡まれる前に思いっきり走っていこう!!」
「そうだな、どうせ見つかったら正体がバレるんならこそこそ動き回っても仕方ないしな」
「うん、急ごう!!」
教会までそれほど距離はないため、ここから先はこそこそと隠れて移動するのではなく、全速力で向かうことを決めたレナ達は街道を駆け出す。その後にクロは続くと、取り残されたヴァンパイアと男たちは地面に倒れたまましばらくは動くことが出来なかった――
――数分後、夜の街道を駆け抜けながら遂にレナ達は目的地である教会を視界の端に捉え、走るのを中断して足を止めた。目的地の教会は随分と年季を感じさせる木造建築の建物だと判明し、今は誰も住んでいないのか随分と寂れていた。
教会の敷地内に存在する花壇は荒れ果て、雑草に覆われていた。元々は立派な教会だったのだろうが、建物の前に存在する石造は上半身が砕かれた状態のまま放置され、建物の窓も割れていた。その様子を確認したレナ達はどう見ても人間が未だに住んでいるとは思えず、ここにシノが隠れているのかと心配する。
「地図によるとこの建物で間違いないけど……クロ君、あそこにシノがいるの?」
「ワフッ」
「頷いている……という事は、この似顔絵はやっぱりシノの姉ちゃんの目印だったのか」
「自分はここにいるという意味だったんだね。でも、どうしてこんな場所に隠れているんだろう?」
教会の近くの建物の路地裏にてレナ達は様子を伺い、下手に街道を通っていくと他の人間に見つかる恐れもある。だが、ここまで来た以上は引き返す事は出来ず、周囲を警戒しながらもレナ達は教会の中に入り込む。
コネコは気配感知、レナは魔力感知を発動した状態で教会の敷地内に入ると、今のところは周囲には反応はなかった。だが、逆にそれが不気味さを醸し出し、二人は緊張した面持ちで教会の扉の前に立つ。
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