第537話 裏街区の異変

「どうして裏街区の地図なんて……」

「あ、この場所に何か書いてあるぞ?これって……シノの姉ちゃんの顔かな?」

「あら、可愛らしい」



地図にはシノの似顔絵が記され、どうやら目印らしく、裏街区の端の方に存在する大きな建物に記されていた。建物には教会という文字も記され、彼女はそれ以外には特に地図には怪しい点はない。



「どうしてシノはこの地図を俺達の元に……」

「シノの姉ちゃん、この教会にいるという事か?」

「いったい何があったんでしょうか?心配ですわ……ともかく、この建物の場所に向かえばいいのでしょうか?」

「おいおい、馬鹿言うんじゃないぞ!!お前ら、裏街区がどんな危険な場所なのか分かってるのか!?あそこはな、王都の警備隊も近寄れないほどの危険区域なんだぞ!!」



裏街区に向かおうとするドリスを慌ててダリルは引き留め、彼は裏街区がどれほど危険な場所なのかを語る。彼はレナよりも長く王都へ住んでいるため、裏街区がどれほど危険な場所なのかは知っていた。



「いいか、裏街区は盗賊ギルドの根城だ!!裏街区に住んでいる悪党どもは全員が盗賊ギルドの傘下だと考えろ!!」

「そんなやばい場所なのか?」

「でも、盗賊ギルドの奴等がここにいるが分かっているなら、どうして王都の警備隊は捕まえないんですか?」

「捕まえたくても捕まえられないんだよ!!奴等は本当に恐ろしい組織なんだ、お前らだって何度も奴等とやりあってるから恐ろしさは知っているだろう!?」

「それはまあ……」



盗賊ギルドは元々はヒトノ国の先祖が作り出した組織であり、最初の頃は義賊として活躍して国を支えていた。しかし、時代の流れによって組織も大きくなる一方で徐々に義賊から盗賊へと変わり果て、やがてヒトノ国の中でも最大規模と人数を誇る闇組織へと変わり果ててしまった。


盗賊ギルドは王都の裏社会を牛耳っているといっても過言ではなく、その盗賊ギルドをまとめる七人の代表は「七影」と呼ばれ、恐れられている。但し、この半年の間に盗賊ギルドの七影の内のリッパーは死亡し、イゾウも競売の際に捕まっている。義賊として有名だったゴエモンも七影である事は世間にも知れ渡っているため、今の彼はもう義賊ではなく大悪党として恐れられている。



「どうして裏街区に警備隊も迂闊に入り込めないのか分かるか?それは盗賊ギルドが存在するからだ。あいつらはこの国の裏社会を支配する凶悪な組織なんだよ、だからヒトノ国の軍隊さえも迂闊に動けないんだ。そんなやばい奴らがいる場所だから裏街区は今まで放置されてたんだよ」

「それほど危険な場所なんですか?」

「いや……少数だが、一般人が出入りする場所もある。別に裏街区に暮らしている人間全員が悪党というわけじゃないからな。実際に富豪区に住んでいる奴等も足を運んでいる人間も多いらしい」

「え?どうしてそんな危険な場所に入りたがる人間がいるんだよ?」

「……この王都でたった一つだけ、娼館を経営しているからだよ」

『…………』



言いにくそうに答えたダリルの言葉に全員が黙り込み、この中では一番年下のコネコだけは意味をよく理解していないのか首を傾げた。



「しょうかん……しょうかんって何だよ?召喚魔法の事か?」

「コネコさん!!その言葉は無暗に使ってはなりません!!コネコさんが知るには5年早いですわ!!」

「お、おう……よく分からないけど、分かった……?」

「ダリルさん、子供の前で変なことを言わないでください!!」

「わ、悪い……だけど、王都では本来は禁止されている商売も、裏街区では普通に行われてるんだよ」



王都近辺では娼館の類は経営は法律で禁止されているが、裏街区の方ではそれを無視していくつもの娼館が経営されているらしく、結構な客が訪れるらしい。その中には富豪区に暮らすような豪族や貴族も少なからず存在するという。


盗賊ギルドは貴族や商人にもコネがあるため、実際にカーネ商会の会長であるカーネは盗賊ギルドと繋がっていた。カーネ商会は一時期は王都の商業を牛耳っていた時期もあり、そのカーネが盗賊ギルドの支援者として裏から手を回していた事もあって警備隊も迂闊に近づけなかったという。


但し、カーネが死亡後はカーネ商会の影響力も一気に低下した事で王都の警備は強化され、裏街区の住民も不用意に他の地区への立ち入りは出来なくなった。だが、それでも裏街区が無法地帯である事は変わりはなく、危険な場所である事は間違いない。



「いいか、何があっても裏街区に行くことは許さないからな!!あそこだけは本当にやばいんだ、実は俺もここへ来たばかりの頃に間違って裏街区に入った事があるんだが……あの時は本当にやばかった」

「裏街区に入ったんですか!?」

「ああ、噂以上に酷い場所だったよ。一般人が立ち寄れる所もあるにはあるが、それ以外の場所は本当に酷かった。当たり前の様に道端に死体は転がっているわ、それを見て街の住民共は何も反応しないわ……とにかく、やばい場所なんだよ」



顔色を青くして答えるダリルにレナ達は黙り込み、机の上に乗せた地図を見る。いったい、シノが何の目的でこの地図をクロに運び込ませたのかは不明だが、ともかく嫌な予感を覚えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る