第538話 シノの元へ
「でも、そんな危険な場所の地図をどうしてシノさんが飼っているワンちゃんが持ってきたのでしょうか?」
「ワフッ?」
「状況的に考えても、この地図の目印の場所にシノさんがいるのでは……」
地図を広げたレナ達は教会と思われる建物にシノの似顔絵が記されている事に疑問を抱き、どうすればいいのかと悩む。地図には特に文章は記されておらず、いったいシノの身に何が起きたのか分からない以上、不安を拭う事が出来ない。
危険区域である裏街区の地図をクロが運び出してきた事、そしてシノの似顔絵が記された場所、これだけでもシノの身に何か起きたのは確かだが、レナ達はどうすればいいのか悩んでいると、コネコが手を上げる。
「それならあたしがこの場所を調べてくるよ」
「コネコちゃん!?何を言ってるの!?」
「だって、ここにシノの姉ちゃんがいるかもしれないんだろ?なら、あたしがひとっ走りしてきて調べてくるよ」
「何を言ってるんだ!!そんな危険な真似をさせられるか!!」
「あのさ……忘れているかもしれないど、あたしだって暗殺者の称号を持ってるんだぞ?そう簡単に他の奴に見つかったりしないし、それにあたしが本気で逃げれば捕まえられる奴なんていないよ。かくれんぼで負けた事なんて一度もないからな」
コネコの発言にダリルは即座に反対するが、彼女の能力を考えれば実際の所はこの場に存在する誰よりも潜伏行動に向いているだろう。コネコは「気配感知」の技能で自分以外の生物の位置を特定し、更に「隠密」と呼ばれる技能で存在感を限りなく消して行動する事が出来る。
忍者であるシノと比べると隠密行動に関しての能力は劣るが、コネコの場合はその生まれ持った素晴らしい脚力もある。仮に見つかったとしても彼女が本気で逃げ出せば誰も追いつかず、捕まえる事などできはしない。そういう意味では偵察に向かわせる人員としてはコネコ以上の適任は存在しない。
「裏街区がどんな場所なのか知らないけどよ、あたしならすぐにパッと調べてパッと帰ってこれるから大丈夫だって……」
「馬鹿野郎!!そんな危険な場所にお前ひとりを行かせるわけないだろうが!!」
「……あのさ、心配してくれるのは有難いんだけどさ、シノの姉ちゃんがもしかしたら大変な目に遭ってるのかもしれないんだろ!?だったらあたしは行くぞ、シノの姉ちゃんを助けにな!!」
「うっ……」
ダリルは必死にコネコを引き留めようとするが、コネコはそれに従わず、シノを助けに行くことを宣言する。状況的に考えても彼女の身に何か起きた可能性は高く、こうして話している間にも危険が迫っているかもしれなかった。
しかし、裏街区の危険性を知っているダリルはコネコだけを行かせる事に不安を覚え、他の者たちにも顔を向けてコネコを止めるように促すが、彼以外の者たちもシノのために危険を貸す覚悟はできていた。
「コネコさん一人だけを行かせるわけにはいきませんわ!!ここは私達も行きましょう!!」
「ドリスの言う通りです、僕達も行きます」
「シノちゃんを助けないと!!」
「全く、面倒な場所に呼び出して……今日の晩飯はシノの奢りにさせるからな!!」
「まずい、デブリ君がシノの財布が破産させるつもりだ……」
「お、お前らな……人の話を聞いてたのか!?あそこは本当にやばいんだって!!」
「おいおい、止めとけよダリル。こいつら、止まる気はなさそうだぞ」
コネコを止めるどころか自分達も裏街区に向かう事を宣言するレナ達にダリルは頭を抱えるが、そんな彼の肩をゴイルが掴んで首を振る。友達の危機と聞けばレナ達が止まるはずがなく、全員で助けに向かう事を誓う。
「ていうかさ、今更危険な場所だから行くなというなら、どうしてダリルのおっちゃんは煉瓦の大迷宮やイチノへ向かう時にあたし達が行くのを反対しなかったんだよ?」
「馬鹿野郎!!俺が毎回、どんな気持ちでお前らを送り出していると思ってるんだ!?確かに大迷宮だって危険な場所だろうが、裏街区の場合は危険の種類が違うんだ!!あそこは本当にまずいんだ、考え直せ!!」
「といわれてもシノさんの身が危ないかもしれませんのに……」
「そ、そうだ!!マドウ大魔導士に助けを求めるのはどうだ?あの人なら何とかしてくれるかも……」
「ダリルさん、マドウ大魔導士は城にはいないってアルト君が……」
「あっ……そ、そうだったな」
ダリルはマドウに相談するべきだと思ったが、肝心のマドウは現在は王城にはいない。他にレナ達に頼れる人物と言ったらジオ将軍やサブ魔導士だが、どちらも王城で待機しているはずなので迂闊に会える相手ではない。
だが、確かに裏街区のような危険な場所に赴くのならば他の人間の助力を借りたいと思ったレナは、ここで頼りになりそうな人物の心当たりを思い出す。
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