第536話 クロの連絡

――思いもよらぬカインとの邂逅を終えた後、レナとダリルはひとまずは屋敷に戻る。屋敷の中にはゴイル達以外にもクランハウスに残っていたはずのミナ達も存在し、戻ってきたレナ達を見て慌てて迎え入れる。



「レナ君、大丈夫だった!?竜騎士隊の兵士に連れていかれたと聞いてたけど……」

「うん、まあ色々と会ったけど……ミナ達もここへ来たんだ」

「兄ちゃんが戻ってくるのが遅いから、何かあったんじゃないかと思って戻ってた弾よ。そしたら、兵士の奴等に連行されたと聞いて驚いたぞ!!」

「コネコさんなんかレナさんを助けるために城まで乗り込もうとしましたから抑えつけるのが大変でしたわ……でも、無事で何よりです」

「いったい何が起きたんですか?」

「飛竜に襲われたというのは本当なのか!?」

「まあまあ、落ち着け……とりあえず、順を追って話すからまずは座れよ。おい、誰かココアでも入れてくれ!!」



ダリルは使用人に飲み物を運ぶように命じると、全員を座らせて王城での出来事を話す。そしてレナは帰還の途中でミナの父親のカインと会った事、そのカインと決闘に近い勝負を強要させられたことを語るとミナは心底驚く。



「ええっ!?レナ君、父様と戦ったの!?ど、どうして!?」

「それはこっちが聞きたいよ……最初は俺が城に忘れた装備を持ってきてくれたと思ったら、急に槍を突き出してきたんだよ。ミナのお父さん、本当に凄いね……もしも実戦だったら殺されてたよ」

「兄ちゃんがそこまで言うなんて……どんだけ化物なんだよ」

「さ、流石は帝国の大将軍……」

「もう、父様ったら……何を考えてるのさ!!」



父親の行為にミナは憤慨するが、レナとしてはカインが告げた「娘を頼む」という言葉を思い出す。もしかしたらだがカインはレナに娘を任せられるほどの男なのかを試すため、勝負を仕掛けてきたのではないかと思う。



(娘を頼む、か……何だかんだでミナの事は大切に想っているのかもしれないな)



ミナから聞いた話では彼女を勘当した酷い父親だと思ったが、よくよく考えるとミナの行動も本来ならば決して許されるものではない。彼女は友人を救うためとはいえ、大将軍である父親の面子に泥を塗った行為をしてしまった。それでも彼女を罰せずに勘当に収めたのはカインなりに娘の事を気遣っての行動かもしれない。


何だかんだでカインの方も勘当した後もミナの事を気を遣っている事を知り、悪い父親ではないことを再認識したレナはカインの言葉通りに自分の傍に居る限りはミナを守る事を決意する。



「……それより、シノはまだ戻ってないの?」

「シノさんですか?そういえば姿は見えませんが……ここにおられないのですか?」

「シノに俺を襲った暗殺者の追跡を頼んだんだけど……まだ戻ってないのか」

「え、それって大丈夫なのか!?まさか、シノの姉ちゃんが逆に捕まったんじゃ……」



レナの言葉を聞いてコネコは驚いた様子で立ち上がり、他の者たちもシノの身を案じる。ここでシノを待つべきか、それとも捜索に向かうべきか選択に迫られた時、玄関の方からゴイルの声が上がる。



「うわわっ!?な、何だお前っ!?」

「ワフッ!!」

「あ、こら、土足で入るな!!おい、誰か捕まえろ!!」

「な、何だ?」



ゴイルの声を聞いてダリルは振り返ると、レナ達の前に存在する長机の上に黒い影が現れ、その影の正体がシノが面倒を見ている「忍犬」ならぬ「忍狼」のクロである事が判明した。



「ウォンッ!!」

「く、クロ!?」

「何だ、シノの姉ちゃんのペットか……急にどうしたんだよお前」

「これは……狼?レナさんたちが飼っているんですか?」

「あら、何か加えていますわね?これは……竹筒?」



クロが口に何かを咥えている事に気づき、レナの元にクロは顔を近づけて受け取るように促す。唐突に現れたクロにレナは戸惑いながらも受け取る。


竹筒を受け取ったレナはクロの頭を撫でながら中身を開くと、そこには一枚の羊皮紙が入っていた。それを確認したレナは羊皮紙を机に置いて中身を開くと、それは手紙の類ではなく、この王都の地図である事に気づく。



「何だこれ、地図か?」

「これは……王都の南西区の地図ですわね」

「南西区って……まさか、裏街区!?」



王都の南西に存在する区画が示された地図を見てミナは驚き、この王都の南西区は最も治安が悪く、王都を警備する兵士でさえも迂闊に近づけない場所だった。王都の南西区は実質的にスラム街と化しており、噂では盗賊ギルドの本拠地とさえも言われている。


一般人は南西区の事を「裏街区」と呼んでいるのは住んでいる住民の大半が法を犯した人間であり、王都の中でも最も危険区域である事は間違いない。そんな場所の地図をクロが持ってきたことにレナは嫌な予感を抱く。

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