第534話 カインの訪問

(マドウさんの事も気になるけど、シノは大丈夫かな。無理をしていないといいんだけど……)



馬車に揺られながらレナは自分を狙おうとした相手の追跡に向かわせたシノの事を思い出し、彼女の身を心配する。シノが優れた忍者である事は理解しているが、相手も飛竜を操る能力を持つ得体のしれない敵であるため、決して安心は出来ない。


窓の外の光景を眺めながらレナは自分が襲われた理由を考え、どうして今この時期に盗賊ギルドが再びレナの命を狙ってきたのかが不可解だった。今までもレナの命を狙う機会はいくらでもあったはずだが、飛竜を操ってまでレナを殺そうとしてきたことに違和感を抱く。



(俺を殺すためだけに王城から飛竜を呼び出してきたとは思いにくいけど……でも、あの飛竜は普通じゃなかった)



飛竜の様子はレナを殺すために行動していたとしか思えず、実際に逃げ回るレナを追い掛け回した。第一に仮にも竜騎士隊に飼育されていた飛竜が人間を襲う事など普通はあり得ず、調教された飛竜が無暗に人を襲うなど普通ならば考えられなかった。



(あの飛竜は間違いなく操られていた。そうでなければダリルさんを襲う時、あんな真似をするはずがない)



戦闘の最中、飛竜はダリルを狙った時に間違いなく「笑み」を浮かべていた。あの時の飛竜はレナにとってダリルが大切な人だと理解し、それを知ったうえでダリルに攻撃を仕掛けたようにしか見えず、その態度が人間臭さを感じさせた。



(ゴブリンキングを操っていた男、それに俺を襲ってきた火竜、無関係とは思えない。もしも同じ人物の犯行だとしたら……やっぱり盗賊ギルド側の人間の仕業か)



七影であるゴエモンと対等に話していたというゴブリンキングを裏で捜査していた青年、そして今回の飛竜と共に命を狙ってきた暗殺者が同一人物だった場合、レナは自分を襲った相手が盗賊ギルド側の人間だとほぼ確信していた。しかし、その事を伝える前に城から抜け出してしまったため、今回の件は先に金色の隼の団長であるルイに相談する事を決める。


今はすぐにダリルを屋敷に送り届けた後、クランハウスに戻って事情を伝え、ひとまずは皆と共にシノの帰りを待つ事にした。それ以外に方法はなく、レナは早く馬車がダリルの屋敷に辿り着く事を祈っていると、唐突に馬車が停止した。



「うわっ!?」

「あいてっ!?な、なんだ!?」

「あっ……あっ……!?」



馬が操作する御者の兵士が唖然とした表情を浮かべて前方に視線を向け、その様子を見てレナとダリルは疑問を抱き、彼が何を見ているのかと前方を覗き込む。



「おい、一体どうしたっていうんだ……うおっ!?」

「あれは……!?」

「ひ、飛竜!?」



馬車の前方から地上へ向けて降り立つ飛竜の姿が存在し、それを見たレナは咄嗟に闘拳を身に付けようとしたが、ここで自分の装備が王城へ赴いたときに取り上げられたままだと知る。


装備品を回収する前に城から抜け出した事に後悔しながらもレナは馬車から降り立つと、飛竜と向き合う。まさかこうも早く命をまた狙ってきたのかと身構えると、飛竜の背中から見た事もない大柄な男性が姿を現した。



「……お前が例の噂の子供か」

「えっ?」

「か、カイン大将軍!?」

「えっ!?カインって……あの竜騎士隊を指揮する大将軍の!?」



御者の兵士の言葉にダリルは驚き、街道を歩いていた人々も驚いた様子で顔を向ける。飛竜がゆっくりと着地すると、カインは背中に抱えてた小包をレナに向けて放り投げた。小包を投げ渡されたレナは慌てて受け止めると、中身の方はレナの闘拳、籠手、魔銃、ホルスターが入っていた。



「忘れ物だ。これはお前の物だろう?」

「えっ……わっ!?」

「あ、ありがとうございます。わざわざ届けに来てくれるなんて……」

「……なるほど、確かに普通の子供ではなさそうだな」



どうやら城で回収された装備品を持ち込んできてくれたらしく、レナは戸惑いながらも礼を告げる。カインはレナの様子を眺めると何かを感じ取ったように頷き、そんな彼の反応にレナは戸惑うが、御者の兵士が慌ててカインに声をかけた。



「か、カイン大将軍!!お待ちください、私はアルト王子様の命令を受けてこの方達の護送を……」

「黙れ」

「はひっ!?」

「ひいっ!?」



カインに一括された兵士は縮こまり、その様子を眺めていたダリルもカインのあまりの迫力に馬車に隠れてしまう。その様子を見てレナは冷や汗を流し、今までにいろいろな人物と相対してきたが、その誰よりも凄まじい気迫を放つカインに圧倒される。


ミナの父親と聞いていたが、顔立ちの方は全く似ておらず、兄弟であるジオともあまり似ていない。かなりの強面で言葉を口にするだけで他者を圧倒する気迫を誇り、その迫力に周囲の人々も声を上げる事も出来なかった。

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