第533話 アルトの職業

「そういえばさっき、俺が倒した飛竜はどうなったの?」

「大丈夫、今は治療を受けているよ。最も完治するまでは数日かかるだろうけどね……」

「そっか、魔物には回復魔法とかは効きにくいんだっけ?」

「ああ、魔物医の話によると今は薬草を煎じた薬湯に入らせているから容態は安定しているそうだよ」



人間の場合とは異なり、魔物の場合は負傷した場合は回復薬や回復魔法の類は大きな効果を及ぼさない。但し、魔物の生命力と自然治癒力は人間の比ではないため、仮に致命傷を受けたとしても生き延びる事が出来れば数日程度で回復する魔物も多い。


特に竜種となると年若い個体ならば普通ならば死ぬような致命傷を受けようと、数日足らずで完璧に治ってしまうほどの高い自然治癒力を持ち合わせている。仮に腕や翼を切り落とされようと時間は掛かるが完全に元に戻るほどの再生能力も持つという。



「アルト君、実はあの飛竜は……」

「着いたよ、他の人間に絡まれる前に出て行った方がいい。馬車はもう既に用意してあるよ」



アルトに自分が飛竜を襲われた時に感じた違和感、そして何者かに攻撃を仕掛けられた事をレナは話そうとしたが、話をしようとした寸前で王城の出入口まで辿り着いてしまう。


事前にアルトが準備させていた馬車が停まっており、すぐにでも出発できる状態だった。どうやらレナを迎えに来る前から馬車の手配を行っていたらしく、他の人間に目を付けられる前に出発するように促す。



「すぐにここを離れた方がいいよ。今は部外者が立ち寄る事は固く禁じられているからね」

「あ、うん……分かった。あの、色々とありがとうアルト君」

「王子様、色々助けていただきなんとお礼を言えばいいか……」

「いや、気にしないでください。むしろ、謝るのはこちらの方です……我が国の騎士が迷惑をかけて申し訳ありません」



再びアルトは謝罪を行うと、馬車に乗るように促す。レナはイチノが襲撃された際、金色の隼に救援を求めるように助言してくれた事の例も言いたかったが、どうやら城内にレナ達が残っていると何か問題でもあるのかアルトは二人を急かす。



「さあ、早くお乗りください!!すぐに出発しますよ!!」

「は、はい!!」

「ありがとう、アルト君。今度会えたら……」

「ああ、その時はゆっくりと話そう」



レナとダリルが馬車に乗り込むと、窓の方でアルトは手を振って見送り、馬車は城内を出て街道に出発した。慌ただしく追い出された気分になったレナとダリルは御者の兵士に話を伺う。



「あの、何かあったんですか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけどね。カイン大将軍がご立腹でして……もしもあのまま城内に残られていたら厄介な事になりかねませんから、アルト王子はすぐにお二人を外へ出すようにと言い付けられてるんですよ」

「えっ!?カイン大将軍って……」



ここでミナの父親のカインの名前が出てきたことにレナは驚き、兵士によるとカインは今回の騒動の件で相当に怒りを抱いているらしく、そのためにアルトは二人がカインと接触させないように外へ出したらしい。



「実は問題を起こした飛竜、元々はカイン大将軍の相棒の子供だったんですよ。年齢は若いながらに大人顔負けの速度で移動できるし、いずれは立派な飛竜に成長させてアルト王子に献上しようとしてたんですよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!飛竜を献上って……飛竜は竜騎士以外には乗れないんだろ?」

「ええ、そうですよ。だからアルト王子に献上するんです。あの方も竜騎士ですからね」

「アルト君が……竜騎士!?」

「えっ!?知らなかったんですか!?仲良さげそうに見えたから知っていたと思ったんですけど……やば、これ一般の人に無暗に話さないように注意されてたんだ。この事、他の人間には話さないでくださいね!?」

「それは構わないけどよ……王子様が竜騎士?信じられないな……」



アルトが竜騎士だった事にレナとダリルは心底驚き、彼は普段から魔法学園に通っているときは剣しか扱っていなかったので必然的に剣士や騎士の称号だと思い込んでいた。


しかし、兵士の話によるとアルトの称号は「竜騎士」らしく、カインも認める程の腕前らしい。一般人には知れ渡っていないが、彼が竜騎士である事は城内の人間の中では有名な話らしい。



「まあ、もう話しちまったから隠す必要もないか……アルト王子はあのカイン大将軍が一目置くほどの腕前の竜騎士なんですよ。多分、竜騎士隊の中でもアルト王子に勝る人間なんて3人の隊長ぐらいしかいないと思いますよ」

「アルト君が竜騎士だったなんて……でも、どうして秘密にしているの?」

「絶対に秘密にしているわけじゃないんですけどね……アルト王子は身分上、本来は滅多に戦いに赴く事はありません。だから訓練の時も安全性を考慮して滅多に飛竜には乗りませんよ。もしも事故で無くなってしまったらとんでもない事になりますからね。それで魔法学園に通う時は剣の修行だけをさせられていたとか……」

「そ、そうだったのか……アルト王子が竜騎士だったなんて驚いたな」

「なるほど、だから前にミナがヒリューを連れ出したときにカイン大将軍は怒ったのか……」



ミナに懐いているヒリューはアルトは相当に気に入っていたらしく、カインがミナを追い出した理由の一つでもあったのかもしれない。





※元々はメインキャラクターで設定もこんなにちゃんとあったのに物語の展開上、仲間に入れられなかったアルト君……(;´・ω・)

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