第532話 現れたのは……
「レナ君!!大丈夫かい!?」
「アルト君!?」
「えっ……あ、アルト王子!?」
ロンと共に訪れたのは意外な事にマドウでもサブでもなく、アルトであった。その顔を見てレナとダリルは驚いた声を上げるが、すぐにロンが注意する。
「口を慎め、この方を誰だと思っている!!」
「……ロン隊長、僕はそんな事は気にしない。レナ君は僕の友人だ、妙な気遣いはいらない」
「しかし、王子……」
「いいから彼等を解放しろ!!僕の友人に対して無礼な真似は許さない!!」
アルトが訪れた事に尋問紛いの事を行っていた騎士達は慌てふためき、ロンの方も苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。まさか本当にレナがアルトと面識があったとは思わなかったらしく、先ほどまでの態度はどうしたのか全員の顔色が悪い。
レナはアルトが来てくれた事に驚くが、彼が助けてくれた事に感謝する一方、どうしてアルトが来てくれたのか不思議に思う。
「アルト君、どうしてアルト君がここに……」
「マドウ大魔導士に頼まれてね、あの人の代わりに僕が助けに来たよ。さあ、こんな所にいる必要はない。君達の誤解はもう解けてある、退室しよう」
「は、はい!!王子様、ありがとうございます!!」
ダリルはアルトとまともに対面したのは初めてのため、緊張を隠せずに声を震わせる。そんな彼に対してアルトは苦笑し、すぐにロンに振り返って厳しい言葉を繰り出した。
「今回の飛竜の不祥事は君たちの責任だ。その事を自覚してしっかりと反省するように」
「し、しかし王子!!」
「既にカイン大将軍にもこの件は伝わっている!!君たちの処分は後で言い渡される、それまでの間は大人しくここで待機しているんだ!!」
「……はっ」
ロンに対して反論も許さない口調でアルトは怒鳴りつけると、ロンと騎士達はその場に跪く。相手が王子となると流石に彼等も横暴な態度はとれず、ロンと彼の配下の騎士達は悔しそうな表情を浮かべるが、その姿を見てレナとダリルはすっきりした。
二人を連れ出したアルトは部屋から抜け出すと、そのまま王城の裏庭にまで連れ出し、人気のない場所を見つけると二人に振り返って頭を下げる。
「……申し訳ない」
「えっ?」
「お、王子様!?頭を上げてください、俺達みたいな一般人に王子様が頭を下げるなんて……」
「いや、謝らせてください。竜騎士達の不始末で貴方達には非常に迷惑をかけた。どうか許してほしい……」
「別に気にしてないよ、アルト君がしっかり叱りつけたのを見てスカッとしたし……」
アルトの謝罪に対してレナとダリルは慌てて彼の頭を上げさせると、アルトはため息を吐きながら今回の件の発端を語り始めた。
「実はお二人を襲った飛竜に関してですが……どうやら彼等が管理を任されている飛竜が逃げ出し、街に出たのが原因なんです。幸い、一般人に危害を加える事はなかったそうですが、飛竜が暴れたせいでいくつかの建物が被害を受け、その被害者達が先ほどから王城に駆け込んでいるんです。それで事態を把握したカイン大将軍が部下に調べさせた結果、第一部隊の隊長であるロンが管理する飛竜の仕業だと発覚しました」
「それじゃあ、飛竜が抜け出した理由は……」
「彼等の管理が甘かったのが原因だね。しかし、ロンは責任を逃れるために飛竜を撃退したレナ君たちを犯人に仕立て上げようとした。けれど、他の被害者の証言もあって二人の無実は証明されました」
「そうだったのか……くそ、あの野郎!!一発ぶんなぐってやればよかった……あ、すいません!!王子様の前で俺は何てことを……」
「いえ、お気持ちわかります。ロン隊長には厳しい処分を与えるようにしておきます」
ダリルの咄嗟に出た悪態に対してアルトは苦笑いを浮かべ、ロンにはそれ相応の責任を取らせることを約束した。その一方でレナはマドウ大魔導士がどうしているのか気になり、このような状況ならば彼が真っ先に助けてくれると思っていたが、どうしてアルトがわざわざ来てくれたのかを問う。
「アルト君、マドウ大魔導士は……」
「大魔導士は王城にはいないんだ、詳しい事は話せないけど……しばらくは戻ってこれないだろうね」
「えっ!?マドウ大魔導士に何かあったんですか?」
「いえ、大丈夫です。別に病気や怪我をしたわけではなく、任務で王都を離れているだけですから」
「それって……もしかして火竜の件が関わっている?」
「……他の皆には内密に頼むよ」
レナの言葉にアルトは否定せず、現在の王城にはマドウが存在しないことだけは確かだった。この状況下で火竜との戦闘においては最大の戦力でもあるマドウが王都を離れるなど普通ならばあり得ず、火竜の件で何かが進展があったと考えるべきだろう。
話を終えたアルトは裏庭から離れてレナとダリルを連れて廊下を歩き、このまま王城の外まで案内してくれる様子だった。アルトがいなければどうなったのかもわからず、マドウが不在の時にこんな事件が起きるなど予想も出来なかった。
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