第531話 尋問

「それで、どうやって王城まで行くんだ?あんたらの飛竜にでも乗せてくれるのか?」

「馬鹿を言うな、飛竜は竜騎士以外の人間を乗せることなど有り得ん」

「えっ?いや、確かアルト王子は飛竜に乗れるんじゃ……」

「……何故、お前らが王子の事を知っている?」



ロンの言葉にダリルは驚いた表情を浮かべるが、ロンとしてはどうしてここでアルトの名前が出てくるのかと訝しむ。かつてダリルはミナが家出したばかりの頃、後で事情を説明に来た彼女の叔父の妻であるアリアからアルトがミナに懐いている「ヒリュー」という名前の飛竜を気に入っているという話を聞いていた。


飛竜を気に入っているという発言からダリルはアルトも飛竜の乗れると思い込んでいたのだが、仮にもヒトノ国の王子であるアルトの情報を一般市民が知っている事に怪しむ。だが、すぐにレナが助け舟を出した。



「アルト君……いや、アルト王子は魔法学園の俺の同級生で何度も話した事があります」

「魔法学園……なるほど、マドウ大魔導士が作り出した訓練校か。確かに王子も通っているとは言っていたが、お前が王子と話した事があるだと?貴族でもない一般人が王子と話すとは思えんがな」

「……魔法学園では身分は関係なく、生徒同士は争わず、仲良く過ごす事が教訓なんですよ。学園内においてはアルト王子であろうと一生徒として扱わています」

「なるほど、大魔導士らしい教え方だな。だが、口に気を付けろ!!あの方はいずれこの国を背負う存在、魔法学園の外では王子の名前を軽々と口にするな!!」

「……以後、気を付けます」



レナの説明に納得したロンだが、すぐにアルトの事を話題に出す事を禁じて彼等は歩き始める。レナとダリルはその後に続くと、ロンは部下の二人に命じた。



「お前たちはその傷ついた飛竜を王城まで運び出せ、私はこの二人を連れて王城まで赴く」

「「はっ!!」」

「飛竜は貴重だ、くれぐれも死なせるんじゃないぞ!!」



部下に命令を与えるとロンはレナとダリルに振り返り、付いてくるように促す。王城まで徒歩で移動するつもりらしく、仕方なく二人はその後に続く――






――それからしばらくの時が経過すると、レナとダリルは王城の一室へと案内され、まるで尋問を行うかの様に竜騎士隊に所属する騎士達に囲まれながら話を行う。



「もう一度だけ聞くぞ。お前は我々の飛竜に襲われ、仕方なく交戦した。そう言い張るつもりか?」

「ええ、その通りです」

「ふざけるなっ!!お前のような子供に我等が鍛え上げた飛竜が破れるはずがない!!」

「魔法を使いましたから」

「ふん、魔法だと?お前は確か付与魔術師だと言っていたな、戦う力も碌に持ち合わせていない付与魔術師に飛竜を破ったというのか?」

「おいおい、黙って聞いていたら調子に乗りやがって!!うちのレナは普通の付与魔術師じゃない、あのゴブリンキングを打ち倒す力を持っているんだよ!!」

「でたらめを抜かすな!!こんな小僧にそんな力があるはずがない!!」



騎士達は何度も同じ質問を繰り返し、いったいどのような経緯で彼等が管理していた飛竜をレナが打ち倒したのかを問う。その質問に対してレナは嘘偽りなく答えるが、彼等は信じようとしない。


最初の内はダリルも黙っていたが、いい加減に同じ質問を何度も繰り返されて我慢の限度を迎え、レナの方もうんざりとしていた。だが、常に飛竜と共に暮らしてその力を知っている竜騎士だからこそ、飛竜が人間の子供に負けたなど信じられなかった。



「あの、マドウ大魔導士に俺の事を伝えてください。あの人なら俺の話を信じてくれます」

「愚か者が!!いくら魔法学園の生徒と言えど、軽々しくマドウ大魔導士の名前を口にするな!!」

「我々が育ていた飛竜をどうやってあそこまで痛めつけた!!いや、その前にお前の話が本当かもわからん、もしや……お前が飛竜を連れ出した犯人じゃないだろうな!?」

「なっ!?言いがかりもいい加減にしろ!!だいたい、どうして飛竜が街に現れたんだ!!それを説明しろ!!」

「やかましい!!お前たちは質問された事にだけ答えろっ!!」



竜騎士達は最初からレナの話をまともに聞こうともせず、それどころか王城から飛竜が抜け出した原因がレナのせいではないかという見当違いの言いがかりまで付けてきた。そんな彼等に対してダリルは言い返すが、竜騎士達は話を聞こうともしない。


しかし、いくら何でも謂れのない罪を押し付けられるのは我慢できず、流石に言い返そうとしたとき、扉が開いてロンが姿を現す。彼は騎士達に囲まれている二人を見て表情を歪め、そして彼の背後にはレナ達の見知った顔が存在した。

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