第530話 連行

「こ、これは……おい、様子を見ろ!!」

「「は、はい!!」」



倒れた飛竜の元に二人の騎士が駆けつけ、容態を伺う。飛竜はレナとの戦闘で相当な損傷を受けていたが、特に死に至るほどの大怪我ではなく、治療を施せば十分に回復できる状態だった。


軽傷とは言い難い傷だが、まだ治療すれば十分に助かる見込みがある事を確認した騎士達は安堵した表情を浮かべ、隊長に報告を行う。



「大丈夫です!!辛うじてですが、まだ生きています!!」

「すぐに治療すれば助かります!!」

「そうか……おい、そこの小僧!!この飛竜に何が起きたのか知っているのか?」

「え、それは……」

「おいおい、ちょっと待てよ!!いきなり現れて何なんだあんたら!?」



話しかけられたレナは騎士の言葉にどのように説明しようかと悩むと、様子を伺っていたダリルたちが駆けつけ、ここで何が起きたのかを話す。


このままではレナにあらぬ疑いを掛けられると思ったダリルは自分たちが被害者である事、そしてそれを救ってくれたのがレナである事を伝えた。



「その飛竜はな、うちのガキを襲ってきたんだぞ!!俺だってこうして傷つけられている!!」

「何だと……それは本当なのか?」

「嘘じゃねえよ!!俺はこの目で見たんだよ、そこの飛竜が暴れて俺とこいつを殺そうとしたんだ!!」

「そんな馬鹿な……我々が飼育している飛竜は人を襲うはずがない」

「でも、その飛竜に追い掛け回されて殺されそうになりました。そもそもどうして飛竜がこんな街中で放されてるんですか?」



ダリルの言葉に騎士達は戸惑うが、レナも飛竜に襲われたことが事実である事、そして飛竜が街に存在した事を問いただす。すると3人の騎士は互いに顔を見合わせ、仕方がないという風に説明を行う。



「……我々は竜騎士隊の第一部隊に所属する騎士だ。私は第一部隊の隊長を務めるロンだ。そしてこの飛竜は王城に連れてきた我々の部隊が飼育している飛竜だ」

「はあっ!?おい、どういう事だ!!どうして竜騎士隊の飛竜がこんな街の中を飛んでやがったんだ!!その飛竜の飼い主は何をしていた!?」

「貴様!!隊長に向かって何という言葉遣いを……」

「構わん!!それよりも、さっきの話を聞かせてくれ。本当にこの飛竜が人を襲ったという話は事実なのか?」



隊長のロンという男の質問にレナとダリルは頷き、まずは最初に襲われたレナが経緯を話す。自分はあくまでも飛竜に襲われ、迎撃した事を伝える。



「その飛竜は俺の前に現れていきなり襲ってきたんです。だから仕方なく、戦うしかなくて……」

「戦うだと?馬鹿げた事を……お前のような子供に飛竜がこれほど痛めつけられるはずがない!!」

「おいおい、うちのレナを舐めるんじゃねえぞ!!こいつはな、少し前にゴブリンキングをぶっ倒したほどの腕前を持つ凄腕の魔術師だ!!この間も国王に表彰されたばかりなんだぞ!!」

「何だと……!?」

「国王様に表彰された……まさか、噂に聞く「魔拳士」か!?」

「まけんし……?」



騎士の言葉に黙っていられなかったゴイルがレナの事を説明すると騎士達に動揺が走り、どうやら竜騎士隊にもレナの存在が知れ渡っていたらしい。何時の間にか「魔拳士」という異名まで付けられていた事にレナは初めて知る。


3人の騎士は傷ついた飛竜に視線を向け、レナの方へと振り返ると、彼等は噂に聞く魔拳士のレナならば本当に飛竜を倒せるだけの実力を所有しているのではないかと考えた。魔術師ならば飛竜だろうと倒せる魔法を覚えていてもおかしくはないが、ロンは考えた末にレナに同行を求めた。



「……飛竜に襲われた時の詳細を知りたい、だがその前に飛竜の治療を優先しなければならない。我々と一緒に王城へ同行しろ」

「おいおい、どういう意味だ!?うちのレナを連行するつもりか!?」

「……話ならここですればいいだろう。わざわざ王城まで連れて行く必要はない」

「そうだそうだ!!」



レナに王城までの同行をロンが求めると、ゴイルとムクチがレナを庇うように前に出ると、ロンは険しい表情を浮かべて怒鳴りつけた。



「我々は王国の騎士、この王都を守るために来たのだ!!そして同時に王都の治安を守る役目を持つ、そのために一般市民は我々に協力する義務があるのだぞ!!」

「治安を守るだと?笑わせるな、お前等の所のの飛竜にうちの大将と若いのが傷つけられたんだぞ!!もしも飛竜がうちの大将を殺していたらてめえらが責任とれたのか!?」

「偉そうに言っているが、お前たちは自分の不祥事を誤魔化そうとしているのではないのか?レナを連れていくというのであれば俺達も同行させてもらうぞ」

「そ、そうだ!!俺はこうして顔を傷つけられてるからな、証拠は残ってるんだ!!一緒に行って証言してやる!!」

「……いいだろう、ならば一人だけ同行を許してやる。飛竜で運ぶ以上、全員を連れていく事は出来ないからな」

「偉そうにいいやがって……」

「大丈夫だよダリルさん、皆もここで待ってて……王城へ行けばマドウさんもいると思うし、すぐに誤解は解いてくるよ」



ロンの言葉にゴイル達は反感を覚えるが、ここで竜騎士隊と争うのはまずいと思ったレナは皆を落ち着かせる。だが、顔を傷つけられたダリルも黙ってはいられず、レナと同行して共に王城へ向かう事が決まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る