第529話 飛来拳

「ア、ガアアッ……!!」

「……この飛竜、様子がおかしい」

「うん、多分だけど操られていると思う」

「操られて……?」



飛竜の様子がおかしい事にシノも気づき、レナは飛竜が何者かに操られているのではないかと考えている事を告げる。シノはレナの言葉に疑問を抱くが、そんな彼女にレナは飛竜は自分に任せて彼女に先ほど自分を襲ってきた人物がいる事を話す。



「シノ、俺は逃げている途中で見た事もない奴に襲われた。多分、盗賊ギルドの奴だと思うけど……」

「襲われた、何処で?」

「あそこの建物の屋根から矢を射抜かれた。多分、今もこの近くで様子を見ているかもしれない」

「……分かった、私がそいつを見つけて捕まえればいい?」

「お願い、飛竜は何とかしてみせる」

「承知」



レナの言葉にシノは即座にその場を離れ、レナを襲った謎の人物の捜索を行う。もしも飛竜を操っている人間の正体がその襲撃者だった場合、シノが襲撃者を捕まえれば操られていると思われる飛竜も止める事が出来るかもしれなかった。


但し、もしも襲撃者が飛竜を操っている人間だとしたら自分の身を守るため、飛竜をシノの方へ向かわせる可能性もある。それを阻止するためにレナは飛竜を逃がさないように構え、戦闘準備を整える。


飛竜は既に先ほどの攻撃で弱っているとはいえ、相手が魔物の生態系の頂点に位置する竜種の一種である事は間違いない。現に先ほどの攻撃を受けてよろめていた飛竜だが、少し休んだだけで体力を取り戻したかの様に飛竜は襲い掛かってきた。



「シャアッ!!」

「来いっ!!」



正面から迫ってきた飛竜に対してレナは闘拳を構え、十分に近づいたのを確認すると右拳を突き出す。その行為は飛竜を殴りつけるためではなく、闘拳の金具を外した瞬間に闘拳を放つ。



「必殺、飛来拳!!(今更ながらに命名)」

「アガァッ!?」



砲弾の如く勢いで重力によって加速した闘拳が放たれ、飛竜の顔面に衝突した瞬間に巨体が倒れ込む。重力を操作して闘拳を飛ばす攻撃は今までに何度か試した事はあるが、その威力に関しては中々の物で的確に顔面に的中した飛竜は牙を何本か折れてしまう。


この技(?)の欠点は闘拳を飛ばすという性質上、回収するまでの間は右腕は素手になってしまい、攻撃手段を失ってしまう。そのためにレナも滅多には扱わない技だが、威力に関して上々で子供の頃のレナでさえも赤毛熊を一撃で倒した実績がある。実際に殴りつけられた飛竜は倒れたまま動かず、身体を痙攣させて意識を失った様子だった。



「よし、勝った!!」

「えええっ!?そ、それはありなのか……」

「あ、ダリルさん……見てたんですか?」



扉の隙間からダリルはこっそりと外の様子を観察していたらしく、騒ぎを聞きつけたのか屋敷の中にいた他の使用人や傭兵、ムクチやゴイルも駆けつけてきた。



「おい、さっきから何の騒ぎだ!?」

「どうした?何事だ?」

「うおっ!?ダリルさん、なんだその傷……って、レナ!?おい、お前らレナが戻ってきたぞ!!」

「きゃあっ!?ひ、飛竜がいるわ!?」

「あ、大丈夫……もう終わったから」



使用人の女性が飛竜を見て悲鳴を上げ、慌ててレナは飛竜は気絶させたことを伝える。後から来たムクチ達は何が起きているのか理解できずに戸惑うが、そんな彼等をダリルが落ち着かせようとする。



「お、落ち着け!!お前ら、落ち着くんだ……いててっ」

「おい、お前の方こそ大丈夫か?」

「誰か怪我を診てやれよ」

「だ、大丈夫だ。それより、レナ……いったい何があったんだ?」

「それは……」



レナは事情を説明しようとしたとき、上空の方から何かが羽ばたく音が聞こえ、まさかと思ったレナは後方の飛竜に視線を向ける。すると、そこには飛竜の姿が存在した。


上空に現れた飛竜を見てレナは慌てて振り返るが、どうやら話し込んでいる間に倒した飛竜が意識を取り戻して飛び立ったわけではないらしく、レナに倒された飛竜は完全に気絶しているのか街道に倒れた状態のまま動かなかった。


それならば上空に現れた飛竜は何なのかとレナは戸惑うと、飛竜の背中には人間が乗り込んでおり、しかも3体の飛竜が上空に浮かんでいた。飛竜に乗り込んだ人間の格好を見てレナは彼等の正体に気づく。



「まさか……竜騎士隊!?」

「そこの子供、動くんじゃない!!」



竜騎士隊と思われる飛竜に乗り込んだ男たちは地上のレナに警告を行うと、そのまま飛竜を着地させる。レナから見て手前に立っていた男が隊長格らしく、年齢は30代後半ぐらいの男性は飛竜から降りると、倒れている飛竜とその前に立っているレナを交互に見て動揺した様子だった。

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