第528話 飛竜との戦闘

「シャアアアアアッ!!」

「くっ!?」

「うわっ!?」

「み、耳がぁっ!?」



レナ達の鼓膜が破れるのではないほどの凄まじい咆哮を放ち、飛竜は翼を広げると上空へと飛び立つ。そしてレナに残された片目でレナに狙いをつけると、今度は狙いを外さぬように落ちてきた。



「シャアッ!!」

「このっ……いい加減にしろよ!!」



だが、迫りくる飛竜に対してレナは魔銃を取り出すと飛竜に目掛けて発砲し、ミスリル製の弾丸が放たれた。命中すればロックゴーレムの外殻だろうと貫く威力を誇る弾丸だが、飛竜の鱗に衝突した瞬間に弾かれてしまう。


咄嗟にシノはレナに抱き着いてその場を離れると、先ほどまで二人が存在した場所に飛竜が衝突し、土煙が舞い上がる。その光景を見てダリルは腰を抜かしてしまい、一方でシノはレナに抱き着いた状態で告げた。



「弾丸が弾かれるなんて……!?」

「……飛竜の鱗は頑丈、そう簡単には攻撃は通じない」

「くっ……という事は魔銃は通じないのか」



シノの言葉を聞いてレナは悔しげな表情を浮かべ、飛竜は竜種の中でも小さく力は弱い方だが、それでもロックゴーレムを上回る強度を誇る鱗を持つ事が判明する。並大抵の敵ならば魔銃で倒せるのだが、飛竜には通じない事を察したレナは魔銃をホルスターに戻して闘拳を装着した。



「くそっ……やっぱり戦う事になるのか」

「状況は良く分からないけど、レナの命を狙っているのなら手加減はしない」

「シャアッ……!!」



飛竜は土煙を翼で振り払うと、レナとシノと向き直り、どう猛な牙を剥き出しにしながら睨みつける。その様子を見ていたダリルは腰が抜けた状態ながらレナ達に声をかける。



「お、お前ら大丈夫か!?無事だよな!?」

「ダリルさん、家の中に入ってて!!」

「危ないから下がってて」

「ッ……!?」



ダリルが二人を心配して声をかけると、飛竜は今更ながらに自分の後方に存在するダリルに気づいたように振り返り、腰を抜かしているダリルを確認した。


そしてレナとダリルの顔を交互に確認すると、飛竜は目つきを鋭くさせ、ダリルの方に顔を向けた。その態度が妙に人間臭く感じたレナは違和感を抱くと、即座に飛竜はダリルの元へ向かう。



「シャギャアアアッ!!」

「えっ!?う、うわぁああっ!?」

「ダリルさん!?」

「まずいっ!!」



唐突に狙いをレナからダリルに変更したのか、飛竜はダリルの元へ向かって鍵爪を振り払おうとした。それを見たシノは咄嗟に短刀を引き抜き、飛竜の尻尾に向けて切り裂く。



「氷華!!」

「ギャウッ!?」

「ひいいっ!?」



シノが尻尾を斬りつけた瞬間、斬りつけた箇所が凍り付き、飛竜は悲鳴を上げて攻撃の狙いを外す。ダリルの顔の真横に飛竜の鋭い鉤爪が振り下ろされ、僅かに頬が切れてしまう。彼は必死に腕を動かして地面を這いずって逃げようとした。


レナはシノが所持している武器が妖刀である事を思い出し、元々は七影のイゾウが所持していた「氷華」と「炎華」と呼ばれる武器を改造した代物である。この二つの妖刀は切りつけた箇所を凍結化と発火させる力を持ち、斬りつけられた飛竜の尻尾の一部が凍り付いた。



「ダリル、早く逃げて!!」

「うわわっ!!」

「シャアッ……!!」

「させるかっ!!」



逃げ出そうとしたダリルに飛竜は鍵爪を伸ばすが、それを見たレナは飛竜の尻尾を掴むと、闘拳に付与魔法を発動させて強制的に引っ張り出す。



三重強化トリプル!!」

「シャアアアッ!?」

「おおっ」



闘拳に付与魔法を発動した瞬間、レナは最低でも100キロを超えているであろう飛竜の巨体を引き寄せ、強制的に街道の方まで引きずり出す。


飛竜は必死に抵抗しようとするが重力を操作するレナにそもそも単純な力で勝てるはずもなく、ダリルの命を狙った事で怒りを抱いたレナは飛竜の身体を持ち上げる。



「このぉっ!!」

「アギャッ!?」

「凄い……」



飛竜の尻尾を掴んで持ち上げたレナは地面に向けて何度も飛竜を叩きつけ、その光景を見たシノは感心した声を上げる。本来ならば赤毛熊やロックゴーレムを上回る戦闘力を誇る飛竜だが、そんな飛竜を相手にレナは一方的に叩きのめす。


先ほどまで逃げていたのは唐突な奇襲にレナが反応に困っただけに過ぎず、飛竜から逃げる事から倒す事に頭を切り替えたレナは飛竜の尻尾を手放すと、そのまま左手の籠手にも付与魔法を発動させ、至近距離から攻撃を行う。



衝撃解放インパクト!!」

「イギャアッ!?」



強烈な重力の衝撃波を受けた飛竜は奇怪な悲鳴を上げながらも10メートル近くまで吹き飛ばされ、大抵の相手ならば今の一撃で絶命したところだろうが、飛竜は身体をふらつかせながらもどうにか起き上がる。


かなり痛めつけられながらも飛竜は戦意を失ってはいないのか口元に血を流し、身体のあちこちの鱗がはがれながらも向き直る。その様子を見てシノは疑問を抱き、普通の魔物ならばこれほど痛めつけられれば逃げ出すのだが、目の前の飛竜は負傷しながらもあくまでも戦い徹しようとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る