「けどさ……盗賊ギルドの奴等、何がしたいんだよ。わざわざゴブリンキングを使って冒険者を攫うなんて意味が分からないぞ」

「確かにそこは気になりますわ。それにわざわざ従えたゴブリンキングをあっさりと手放した事も気にかかりますし……」

「アイーシャさんの話では自分の能力を実験するとかなんとか言っていたらしいけど、いったいどういう意味だろう？」

ゴエモンが連れていたという謎のもう一人の人物の言葉がレナ達には気にかかり、その人物は危険な大迷宮の中にわざわざ入り込み、ゴブリンキングという大物を従える。これだけでも信じられない話であり、大迷宮の魔物が人間に懐くなど普通ならばあり得ない事だった。

通常の魔物よりも大迷宮内の魔物は獰猛性が高く、トロールならばともかく、ゴブリンキングのような普通の魔物よりも希少が荒いはずの魔物が人間に従うなど普通ならば絶対にありえない。その人物がゴブリンキングを使って冒険者を襲わせていた事も気になるが、重要なのはその人物の謎の能力だった。

「そもそも魔物を従えるというのが意味わかんねえよ。そんな能力を持つ称号があるのか？」

「そういえば前に対抗戦でレナ君が倒した盗賊……確か、召喚魔法で魔物を呼び寄せて襲わせたことがあったよね。もしかしてその人と同じ称号なのかな？」

「いえ、きっと違いますわ。召喚魔術師が行えるのはあくまでも転移系統の魔法のみ、魔物を従えさせる事は出来ません」

過去にレナが戦ったウカンという盗賊は学園の生徒に紛れ、召喚魔法を使って魔物を呼び寄せてレナを襲われた事がある。だが、彼自身は魔物を呼び寄せる事が出来ても魔物を従えさせる力は持ち合わせておらず、試合中の間はずっと身を隠していので彼には魔物を操る能力はなかった。

しかし、魔物を従える能力を持つ称号に関してはドリスには心当たりがあるらしく、彼女はその称号の名前を口にする。

「恐らくですが、それはもしかしたら「魔物使い」ではありませんか？」

「魔物使い……？」

「魔法職の一種ですが、人間では習得した人間はいないと言われている称号ですわ。レナさんのような「付与魔術師」と同じく希少職ですが、その能力はあまりにも異質なので他の魔術師とは一線を画すと言われてますわ」

「な、何だよ……それ、どんな能力なんだ？」

レナと同じく「希少職」の称号というドリスの説明に全員に緊張が走り、彼女も詳しくは知らないのか自信なさげに答えた。

「魔物使いの職業は基本的には人間が身に付ける事はなく、獣人族などの人種が覚えやすい称号だと言われていますわ。彼等の魔法は魔物と心を通わせ、従えさせる事が出来るらしいんですの」

「ドリスの姉ちゃん、よくそんなの知ってるな」

「私も魔法学園の授業で一度聞いただけですのであまり記憶は残っていませんが、何でも彼等の魔法は魔物を従えさせるには色々と条件があるらしく、どんな魔物でも従える事ができるわけではないようです。ですけど、もしも従えさせる事に成功した場合、本来は人間に懐く事がないはずの魔物や、あるいは人語が理解できないはずの知性が低い魔物であろうと従えさせる事が出来るとか……」

「人語が理解できないって……じゃあ、赤毛熊とかボアとかも操れたりするの？」

「ええ、その通りですわ」

「え、本当に！？」

ゴブリン程度の知性を持つ魔物ならば人間の言葉を理解し、場合によっては従えさせる事も出来るかもしれない。しかし、ボアや赤毛熊のような魔獣は捕まえて飼育したところで人間には従わう事は出来ないだろう。

だが、魔物使いはそれを可能する力を持つ可能性が高く、ドリスによると魔物使いは魔物を従えさせるだけではなく、服従化させた魔物をより強力な存在へと育て上げる事が出来るらしい。

「それだけではありませんわ。魔物使いの能力は自分が従えた魔物を意のままに操るだけではなく、その魔物を成長させる力を持つと言われてます」

「成長させる？それは……どういう意味なの？」

「……分かりやすく言えば魔物使いがゴブリンを従えさせた場合、そのゴブリンは上位種に進化する可能性がありますわ」

「上位種……じゃあ、ホブゴブリンやゴブリンキングに進化させる事も出来るのか！？」

ドリスの発言にコネコは愕然とするが、レナ達も同様に驚きのあまりに声が出ない。だが、慌ててドリスは説明の補足を行う。

「いえ、別に従えた瞬間に魔物が進化種に成長するわけではありませんわ。だけど、魔物使いが従えた魔物はより強く、より早く成長するのは本当らしいですわ。しかも場合によっては本来ならばあり得ない進化をすることもあるとか……」

「あり得ない進化？」

「私がぅ受けた授業では過去に魔物使いの称号を持つ獣人が１匹のゴブリンを従えてホブゴブリンに進化させたという記録が残っているそうです。しかし、そのホブゴブリンがやがて更に成長すると、本来ならばゴブリンキングに進化を果たすはずなのに、より人間らしい外見に変化を果たし、更には完璧に人語を扱えるようになったそうです」

「えっ……ゴブリンが人間になったのか！？」

「正確には人間のようなゴブリンに進化したらしいすわ。最も、この記録は１００年以上前の資料なので、実際にゴブリンが人間ような姿に変化するなど有り得ないと今の時代の学者たちは否定していますが……」

「人間みたいなゴブリンか……正直、信じられないな」

ゴブリンが人間ような容姿に変化して人語を話す光景など想像も出来ないが、ともかく魔物使いが従える魔物は野生の魔物の枠を超えた存在へと変化を果たす事もあるという。