第526話 飛竜の襲撃

「……あ、そうだ。一応、シノにも事情を伝えておいた方がいいかな?」

「いいんじゃないのか?」

「そうですわね、無暗に他の人間に話してはならないと言われましたが、シノさんなら大丈夫だと思いますわ」



大迷宮の失踪事件の真相に関してはルイから口止めを受けているが、無事に任務が成功した事をシノやダリルに伝える必要もあると判断したレナはスケボを取り出し、屋敷へと向かう事にした。



「じゃあ、俺がダリルさんの所に行ってくるよ」

「兄ちゃん、一人で行くのか?」

「うん、俺一人の方が早く屋敷に戻れると思うし……皆はここで待っててくれる?」

「分かった。あ、鳥に当たらないように気を付けてね」

「大丈夫だって……じゃあ、行ってくるね」



スケボに乗り込んだレナは付与魔法を施して上昇すると、そのままダリルの屋敷の方へ向けて出発を行う。空中を移動するので障害物に邪魔される事もなく、ダリルの屋敷の元へ向けて移動する途中、不意にレナはある事を思い出す。


ダリルが暮らしている屋敷は元々はただの宿屋の廃屋だったのだが、彼が王都にやってきたときに買取り、自分の屋敷として改築した。だが、レナが訪れてからミスリル鉱石が安全にしかも大量に入手できるようになってからはダリルの商会も一気に発展し、人も増えてきた。



(そういえば結局、新しい屋敷の方はどうなったんだろう?ダリルさんの話によるともうすぐ完成するとか言ってたけど……)



現在の屋敷だけでは手狭になり、更に元はみすぼらしい宿屋だったので外見の方も商人の屋敷とは見えず、商談の時も取引相手が戸惑う事も多かった。なのでダリルは前々から商人らしい新しい屋敷が欲しいと思っていたので屋敷の建築を依頼している。


ちなみに新しい屋敷が出来ても元の屋敷を売り払う事はせず、今後の管理は専属鍛冶師であるムクチとゴイルに任せる事が決まっていた。二人は現在の屋敷を仮の工房として利用し、ちゃんとした工房が用意できるまでは二人が住み続ける予定だった。



(新しい魔石弾の製作も頼みたいし、すぐに戻らないと……ん?)



移動の途中、レナは日射しが遮られて急に暗くなったことに気づき、不思議に思って上空を見上げる。すると、そこにはいつの間にかレナの上空を移動する巨大な生物の姿が存在した。



「シャアアアッ!!」

「なっ……飛竜!?」



唐突に姿を現したのはイチノに赴く際、ミナが連れてきた「飛竜」と瓜二つの生物が飛んでおり、レナの元へ目掛けて降下してきた。


それを見たレナは慌ててスケボを方向転換させて回避するが、飛竜は近くの建物の屋根に衝突し、そのまま瓦を蹴散らしながら再度と飛び立つ。



「シャアッ!!」

「うわっ!?」



再び自分の元へ向かってきた飛竜に対してレナはスケボの速度を上昇させるが、頭の中は激しく混乱する。いったいどうして飛竜が自分を狙うのか理解できず、とりあえずは建物を利用して上手く振り切ろうとしたが、飛竜は執拗に追跡を行う。



「オアッ!!」

「うわわっ!?」



建物を曲がろうとしたレナに対して飛竜は躊躇なく突っ込み、曲がり角にてレナの身体を鋭い鉤爪で貫こうとした。しかし、それに対してレナはスケボを下降させて回避すると、地上の方へと移動を行う。


運がいい事に人気がない街道にてレナは低空飛行を維持すると、飛竜の方は地上へ降り立ち、今度は足を使って追跡を行う。その様子を見てレナは自分が標的として狙っている事に気づき、疑問を抱く。



(こいつ、やっぱり俺を狙っているのか?でも、どうして飛竜が……)



飛竜を管理するといえばミナの父親であるカインが率いる「竜騎士隊」が真っ先に思いつくが、彼等が連れてきた飛竜は現在は王城の方にて管理されているはずである。しかもレナの追跡を行う飛竜の背中には何者も乗り込んではおらず、まるで飛竜が自分の意思でレナに狙いを定めているとしか思えなかった。



(野生の飛竜が街中に入り込んできたとは思えない、という事はこいつはやっぱり竜騎士隊の飛竜なのか!?)



逃げている間にもレナは自分を狙う飛竜の正体を模索し、不意にここで先ほど仲間達と話し合っていた「魔物使い」の事を思い出す。



(まさか……盗賊ギルドの奴等が俺の命を奪うために飛竜を操っているのか!?)



レナは自分でも突拍子もない考えだとは思ったが、過去に彼は何度か盗賊ギルドに命を狙われており、しかも七影とも何度か相手をしたこともある。そのためにレナは盗賊ギルドから深い恨みを買っているが、今まで盗賊ギルドが手を出さなかったのはマドウの保護下にあったからである。


最近は全く盗賊ギルドの人間が姿を現さなかったので油断していたが、もしも飛竜を操作してレナに襲わせようとしている存在が盗賊ギルドだとした場合、彼等はレナの命を奪うまで飛竜の追跡を行うと考えられた。

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